懐かしさが込み上げてきた。
さっきまでは仲良くする気は無いとか一人の方が楽とか言っていたけど前言撤回だ。テヒョンアと過ごす時間は凄く楽しくて僕は人の温もりという感覚を思い出した。病気のこと以外で人と話したのはいつ振りだろう。もうここに来て四年が経った。時の流れは遅くて早く死なないかなとか終わらないかなとか考える日々が一転してご飯を食べる時間もテヒョナと話す時間もビックリするほど早く感じた。
夕方になって、日が沈み始めても僕らは話続けた。テヒョナはよく話す奴だった。自分の話もよくした。それでも一番されたのは自分の兄の話だった。優しくて可愛くて面倒見がよくて、テヒョナはお兄さんの話をするときが一番楽しそうだった。生まれたときから一人ぼっちだった僕には感じたことの無い感情だったがテヒョナが楽しそうに笑う姿は僕にとっても悪い気はしなかったので僕はテヒョナの話を静かに聞いた。
🐯「ジミナはさ、話すの嫌い?」
急に問いかけられた言葉は凄く悲しそうだった。眉を下げ心配そうに返事を待つテヒョナに僕はブンブンと首を振った。悪態をついていたつもりは無かった。ただ、話慣れてなかったから。だから僕は真っ直ぐテヒョナに伝えた。
🐥「嫌いじゃないよ!ただ、聞くのが好きなんだ。人の話聞くのが、凄く好き、」
途切れ途切れに伝えた言葉にテヒョナは笑って「そっか!」と納得した。話すのは苦手で目を見るのとかしっかり声を出すのとか少し恥ずかしいし。僕には向いてないと思い、話すことを遠ざけていた。首を縦に横に振るだけで意思表示は出来るし不便ではなくて。だから堂々と楽しそうに話すテヒョナが少し羨ましく思えた。
そんな僕に気が利くのか利かないのかテヒョナは僕に自らの握り拳を出した。急に何だ?と思い僕は首をかしげたがテヒョナの言いたいことかすぐに分かり自分の手をグーにしてテヒョナの拳にコツンとぶつけた。
🐥「…グータッチなんて、友達みたいだな…」
🐯「えっ?友達じゃないの?」
当たり前のように言うテヒョナに僕は目を丸くしたが数秒後に「そうだなっ!」と返事をした。気づけば窓の外は真っ暗になっていて僕はテヒョナに寝ることを提案した。テヒョナは「ええ~もう~?」と嘆いていたが「もう~?」と言っても現在夜の九時半である。特別遅いというわけではないが僕らは病人である。夜更かしなんて体に悪いので僕は目を瞑った。テヒョナは愚痴愚痴と文句を言っていたが数分後には寝息と化していた。
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夜も更けてきた頃。僕は日課とする夜空観察へ出ていた。空を眺めると心が落ち着くしモノクロだけれど綺麗さは充分すぎるほど分かる。何よりも夜の匂いが好きだ。小さな木の緑葉の匂いや乾いたような潤ったような匂い。この匂いがいつしか癖になっていて僕はよく部屋を抜け出して屋上に来ていた。
今日も一人で見るつもりだった。テヒョナは鼾をかく事もなくすうっと熟睡していた。
いつもの掃除されていなさそうな古びた階段を上り、屋上の扉のドアノブを引いた。キィッといつもと変わらない音をたてながら開いた扉の向こうには信じられない景色が広がっていた。
いつもの淡い匂いと一緒に甘く花のような香りがふぁっと香った。風がすうっとふく屋上にいたのはまるで天使のような人だった。黒と白でしか表せない僕の目でも分かる美しい色は僕を奮い立たせた。
🐥「…綺麗……」
口から溢れた言葉は偽りなんて無くて本心だった。綺麗に光る星と月なんかよりも僕の目にはこの人の方が輝いて見えた。透き通るような白い肌に真っ黒の髪の毛。それはモノクロだからとか関係なく本当にそうなんだろうと実感できるほどだった。
この人の回りだけ沢山の色が溢れるように見えたんだ。色が見えないのに、分からないのに、どうしてだろうか。扉が開く音で気がついたのか彼はこちらを振り向いた。数秒しか無かった筈のこの時間が僕にはスローモーションのように遅く感じた。
時が止まっているかのような、ゆっくりとした時間が写し出すのは夜空をバックにした虹色の天使だった。
🐹「…初めまして。病院の子?」
問いかけられた疑問に僕はすぐに答えることができなかった。きっと見とれてしまっていたんだと思う。確かに一瞬だけ彼の周りに色が映えた気がしたんだ。僕は根拠の無い言葉を脳内に巡らせフリーズしていた。
そんな僕に彼は走って「大丈夫!?」と慌てるように僕にオドオドと声をかけた。僕は数秒経ち、やっと正気を戻すと彼の質問に答えた。
🐥「あっ、すみません……えっと、ジミンっ、パクジミンです…」
僕が名乗った途端に彼は目を見開かせ口角を上げた。
🐹「ジミン君ってあの、103号室の!?」
🐥「…えっ、はい…そうですけど…」
そう答えると彼はぱぁっと目を輝かせ僕の手を強引に掴んだ。僕の心臓はドドドッと高鳴り破裂しそうだった。絡められた彼の指は長細くて爪も綺麗に手入れされていた。足から爪の先まで全てか綺麗なんだと分かった。
🐹「そっかぁ!!君が、ジミン君かぁ…テヒョナのこと、宜しくね!」
🐥「へっ?テヒョナ…?」
何でこの人がテヒョナのこと知っているんだ?
頭に浮かんだ疑問は数秒後にすぐ、解決するのであった。
🐹「僕、テヒョナの兄のキムソクジンだよ。宜しく。」
弐話 花香の出会い
コメント
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こういうのめっちゃ好きです! とても情景が伝わりやすくて尊敬です!!
わぁぁ!テヒョアの兄が、、、、ジナ!設定最高すぎません?!
じなじなじなじなじなじなじなじなじなじなじな.. あ,すみません.. この物語最高すぎて..