テラーノベル
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地下訓練施設の中庭には、壊れた輸送コンテナと鉄骨が並んでいた。
かつて軍用車両を整備する場所だったらしく、床には油の跡が残り、壁際には使われなくなった訓練用の人形が積まれている。
マサカゲは、その中央でレイと向かい合っていた。
「今日は二人の訓練だ」
レイが言う。
「マサカゲは近接戦闘と投げ技。ミステーは遠距離攻撃と周囲の把握」
ミステーは、少し離れた場所で弓を持っている。
頭にはいつものピラミッド型の被り物。
「私も近接戦闘を?」
マサカゲが尋ねた。
「敵を投げるだけでは足りない」
レイは訓練用の人形を一体、マサカゲの前へ放り投げた。
「投げた後、仲間を守る位置へ移動しろ」
「昨日も同じ指摘をされた」
「理解したか?」
「理解はした」
「身体で実行できるか?」
「努力する」
「努力ではなく、実行しろ」
レイが人形の背後へ回った。
「敵が三人いるとする。お前は一人を投げた。残りの二人が仲間を狙う」
レイが二体の訓練人形を動かした。
マサカゲは一体へ近づき、腕を取った。
相手の力を利用し、腰を入れて投げる。
人形は床へ叩きつけられた。
マサカゲはすぐに立ち上がったが、倒した人形を見下ろして動きを止める。
その背後から、別の人形が迫った。
レイが柄でマサカゲの背中を打つ。
「遅い」
「倒した相手が動けるか確認していた」
「確認は必要だ」
レイは人形を指した。
「だが、目を向ける必要はない。倒れた音、呼吸、動きで判断しろ」
「確実に無力化したか、直接見た方が安全ではないか」
「その一秒で仲間が倒れる」
マサカゲは黙った。
K-Tが少し離れたところから口を挟む。
「敵を倒すことより、隊列を崩さないことを優先しろ」
「隊列を?」
メバルが尋ねた。
「一人が前へ出すぎれば、仲間との間に隙間ができる」
K-Tは床に落ちた棒で、地面に線を引いた。
「敵を投げた後、この位置へ戻る。仲間の前ではなく、仲間と敵の間だ」
マサカゲは線を見つめる。
「自分が壁になるのではなく、攻撃の流れを止める」
#異世界転生
K-Takasaka
141
K-Takasaka
154
K-Takasaka
65
#タイムループ
「そうだ」
レイが訓練人形を再び起動させた。
「もう一度」
三体の人形が動き出す。
一体が正面から接近し、残りの二体が左右へ回った。
マサカゲは正面の人形と組み合った。
相手の腕を抱え、身体を沈める。
投げる。
人形が床へ倒れた瞬間、マサカゲはすぐに仲間たちの前へ戻った。
倒した人形を背後に置き、残り二体と向き合う。
「今度は止まらなかった」
レイが言う。
「右の人形が、メバルへ向かおうとしている」
アオノが端末を見ながら伝えた。
マサカゲは右側の人形へ踏み込んだ。
腕を取る。
投げるのではなく、身体ごと押し流す。
人形は壁へぶつかり、動きを止めた。
左側の人形が迫る。
マサカゲは倒した人形を盾にし、その攻撃を防いだ。
棒が人形の背中へ当たる。
その隙にマサカゲは相手の懐へ入り、腰を抱えて投げた。
三体の人形が床に倒れる。
訓練終了の音が鳴った。
「成功?」
メバルが尋ねる。
「一度だけだ」
レイが答えた。
「実戦では、一度の成功を十回続けろ」
「厳しいな」
「敵は一度だけ攻撃してくるわけではない」
マサカゲは倒れた人形を起こしながら、レイを見た。
「あなたは、いつも仲間を守ることを優先しているように見える」
「そう見えるか」
「戦い方に迷いがない」
マサカゲは続けた。
「だが、K-Tも同じだ。自分が負傷しても、前に出る」
K-Tは少し離れた場所で、無言のまま刀の手入れをしていた。
マサカゲが彼を見る。
「責任感と無謀さは違う」
レイが言った。
「それはK-Tにも言えることだ」
K-Tの手が止まった。
「俺は無謀ではない」
「防弾チョッキで銃弾を受けて、問題ないと言う男が?」
「問題ない」
「そういうところだ」
メバルがすぐに反応した。
「レイちゃん、もっと言って!」
「お前も同じだ」
「私も!?」
「仲間を守るために、考えずに前へ出る」
メバルは言葉を失った。
マサカゲは、K-Tとレイを見比べた。
二人は戦い方こそ違うが、どちらも自分が傷つくことを気にしていない。
それが強さの理由であり、同時に弱点なのだろう。
「仲間を守るためには、自分が生き残る必要がある」
マサカゲが言った。
レイは一瞬だけ、彼を見た。
「その考えを忘れるな」
次の訓練は、ミステーの番だった。
中庭の周囲に、十個の標的が設置される。
標的はすべて、異なる速度で移動していた。
「十個すべてを射抜け」
レイが言う。
ミステーは弓を構えた。
ピラミッド型の被り物が、視界の右側を覆っている。
「標的の位置を確認した」
「本当に見えているのか?」
カキが尋ねる。
「見えていない」
「見えてないんじゃん!」
「音が見える」
「音は見えないよ!」
レイが手を上げる。
「集中しろ」
ミステーは目を閉じた。
標的が動く音。
滑車の回る音。
風を切る音。
遠くで動く機械の振動。
すべてを聞き分ける。
一本目の矢が放たれた。
標的の中央を射抜く。
二本目。
三本目。
矢は次々に標的へ命中した。
しかし、四本目だけが大きく外れ、背後の柱へ突き刺さった。
「外した?」
メバルが驚く。
「標的ではない音がした」
ミステーが答える。
「何の音?」
「壁の中に、寂しい廊下がある」
全員が壁を見る。
「寂しい廊下って何?」
カキが尋ねた。
ミステーは壁へ近づき、三回叩いた。
コン、コン、コン。
壁の内部から、わずかな反響が返ってくる。
アオノが端末を取り出した。
「内部に空洞がある」
「本当に?」
メバルが壁を叩く。
コン。
「私には分からないけど……」
マサカゲが壁の隅を調べた。
ミステーが指を差した場所に、古い継ぎ目がある。
アオノがそこへ端末を近づけると、隠し扉が開いた。
内部には、細く長い通路が続いていた。
通路の壁には、古い配線と監視カメラが並んでいる。
「寂しい廊下が出てきた」
ミステーが言う。
「本当に当てるのやめてくれない?」
メバルが頭を抱えた。
そのとき、訓練標的の一つが突然動きを変えた。
標的ではない。
壁の奥から、小型の警備ロボットが飛び出した。
ミステーは振り返らず、矢を放った。
矢はロボットの銃口へ突き刺さる。
発砲直前だった銃口が上を向き、弾丸が天井へ飛んだ。
「敵!」
カキが叫ぶ。
マサカゲが前へ出て、ロボットをつかんだ。
そのまま床へ投げつける。
別のロボットが、ミステーの背後から現れた。
レイが大剣の柄で叩き飛ばす。
「周囲を見ろ」
「見ている」
ミステーは弓を引いたまま答えた。
「視界の端で確認している」
「なら、背後の敵を見落とすな」
「レイが倒した」
「自分で判断しろ」
レイの言葉に、ミステーは黙った。
ロボットが三体、通路から現れる。
ミステーは耳を澄ませた。
一体は正面。
一体は右の壁に沿って接近。
もう一体は、天井の配管を伝っている。
ミステーは正面のロボットへ矢を放った。
続けて、右へ振り向かずに二本目を放つ。
矢は壁に反射し、右側のロボットの関節へ命中した。
三本目は天井へ向けて放たれ、配管を伝っていたロボットを落とした。
「すごい!」
メバルが声を上げる。
「歌えば、もっと当たる」
ミステーが言った。
突然、カキが歌い始めた。
「春とピラミッド〜、春とピラミッド〜」
音程は外れていた。
ミステーも続ける。
二人の歌声が、地下施設全体へ響き渡る。
「どうして今歌うの!?」
メバルが叫んだ。
「敵の集中を乱す」
ミステーは歌いながら矢を放った。
矢は、天井に隠されていた小型カメラを射抜いた。
「敵の集中、乱れた?」
カキが尋ねる。
「乱れたのは、こっちの集中だよ!」
メバルが怒鳴る。
訓練が終わるころには、マサカゲの衣服は汚れ、ミステーの矢筒は空になっていた。
レイは二人を見渡す。
「マサカゲは、投げた後に仲間を守る位置へ移動できるようになった」
「はい」
「ミステーは、周囲の音を把握できている」
「はい」
「だが、二人とも一人で動きすぎる」
レイは通路の奥を見た。
「敵が多ければ、個人の能力だけでは足りない」
K-Tが刀を鞘へ収めた。
「次は連携訓練だ」
「私たち二人で?」
「全員でだ」
その直後、隠し通路の奥から、低い機械音が響いた。
アオノが端末を確認する。
「通路の奥に、古いデータサーバーがある」
画面には、複数の戦闘記録が表示されていた。
『K-T』
『レイ』
『戦闘記録』
『記憶保存』
メバルが画面を見つめる。
「また、この名前……」
K-Tは通路の奥へ歩き出した。
レイも大剣を折りたたみ、彼の隣へ並ぶ。
「行くのか」
「確認する」
「罠かもしれない」
「だから行く」
マサカゲが二人の後ろへ続いた。
「今回は一人で行かせない」
K-Tは振り返らなかった。
しかし、拒否もしなかった。
ミステーが最後尾から通路の奥を見つめる。
「廊下の先に、誰かいる」
全員が足を止めた。
暗闇の奥で、赤い光が一度だけ点滅する。
監視カメラが、彼らを見ていた。
その映像は、地下施設のさらに奥にある部屋へ送られていた。
画面には、マサカゲとミステーの戦闘記録が並んでいる。
『対象:マサカゲ』
『対象:ミステー』
『連携能力:未確定』
そして、二人の記録の下に、別の表示が追加された。
『K-Tの未来行動を予測中』
誰もいない監視室で、機械音声が静かに響いた。
『記憶照合率――上昇』
コメント
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第6話、読ませていただきました!訓練シーンが動きのある描写で、マサカゲが投げ技の後に「仲間と敵の間」に戻る意識を持ち始めたのがじわじわ効いてきますね。そしてミステーの「音が見える」感覚と、まさかの壁の中の通路発見……あの即興の歌、めちゃくちゃ好きです(笑)最後の監視カメラと「K-Tの未来行動を予測中」の一文で一気に不穏に。次の連携訓練、どう動くのかすごく気になります🔥