テラーノベル
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地下訓練施設の管理区画には、無数の端末と監視モニターが並んでいた。
長い間使われていなかったため、机には埃が積もり、壁からは切れた配線が垂れ下がっている。
しかし、電源だけは生きていた。
モニターの一つに、地下施設の見取り図が表示されている。
「ここが管理中枢」
アオノが端末を操作しながら言った。
「警備システム、扉のロック、監視カメラ。すべてこの区画で制御されている」
「じゃあ、ここを取れば施設を自由に使えるってこと?」
メバルが尋ねる。
「正確には、施設がこちらを自由に使う可能性もある」
「どういう意味?」
「すでに何者かが、管理システムへ接続している」
アオノの画面には、昨日カキの拳銃から見つかった部品の解析結果が表示されていた。
見慣れない通信波形。
通常の施設設備とは異なる暗号。
そして、何度も繰り返される一文字。
『X』
K-Tは画面を見つめていた。
「この施設は、誰かに監視されている」
マサカゲが言う。
「監視されているだけではない」
アオノは別の画面を開いた。
「こちらの行動を予測しようとしている」
「予測?」
カキが首をかしげた。
「誰がどこへ移動するか。誰が誰を守るか。どの武器を使うか。戦闘中の行動を記録して、次の動きを推測している」
レイが腕を組んだ。
「戦闘記録を集めているのか」
「K-Tとレイの記録が中心だ」
アオノは画面を拡大した。
「過去の一騎打ち。使用武器。攻撃の順番。すべて保存されている」
メバルがK-Tを見る。
「誰が、そんなものを保存してるの?」
「知らない」
K-Tが答えた。
「またそれ?」
カキが言う。
「Kさん、知らないって言うとき、だいたい何か知ってるよね」
「知らないものは知らない」
レイがK-Tを見る。
「お前は、過去にこの施設を使っていた」
「使ったことはある」
「何をしていた?」
「訓練だ」
「それだけか」
K-Takasaka
55
#K-Takasaka
K-Takasaka
141
K-Takasaka
132
#K-T
K-Tは答えなかった。
アオノが端末を閉じた。
「本日の訓練を開始する」
中央の隔壁が開き、管理区画と訓練場がつながった。
「アオノは、管理中枢へ侵入しながら戦闘を支援する」
レイが説明する。
「私がアオノを守る。K-Tは敵を誘導する」
「俺が敵役か」
「そうだ」
K-Tは拳銃とトンファーを確認した。
「武器は使うの?」
メバルが尋ねる。
「訓練用の弾丸と刃を使う」
レイが答えた。
「ただし、当たれば痛い」
「いつもそれだね……」
アオノは管理端末の前に座った。
画面には、施設全体の監視映像が分割表示されている。
「目標は、五分以内に警備システムを停止すること」
レイが言った。
「敵はK-T一人?」
「私も途中から攻撃する」
「それ、守る役じゃないよね?」
「敵を倒しながら、アオノを守る」
レイは大剣を折りたたんだ。
「状況は常に変わる」
訓練開始の音が鳴った。
K-Tが姿を消す。
彼は正面から向かわず、訓練場の壁際を移動した。カメラの死角へ入り、棚の影を使ってアオノの背後へ回ろうとする。
レイは大剣を構え、アオノの前に立った。
アオノは画面を見たまま、端末へ指を走らせている。
「右側、通路に動き」
アオノが言う。
「確認した」
レイは右を向いた。
しかし、そこには誰もいなかった。
直後、背後から金属音が鳴る。
K-Tが警棒を振り抜いた。
レイは振り返りざまに大剣の柄で受け止めた。
「囮か」
「そうだ」
K-Tはレイの脇を抜け、アオノへ向かった。
レイが大剣を横薙ぎに振る。
K-Tは身を低くしてかわし、アオノの端末へ手を伸ばした。
アオノは画面から目を離さず、端末を片手で引いた。
「接近を確認」
「遅い」
K-Tが警棒を突き出す。
その前に、レイの柄がK-Tの手首を打った。
K-Tは後方へ下がる。
「アオノ、画面だけを見るな」
レイが言う。
「周囲も情報だ」
「監視映像を確認している」
「画面に映らない場所がある」
「死角は把握している」
アオノは視線を動かさず、端末を操作した。
訓練場の照明が一つ消える。
次の瞬間、床の一部が開いた。
K-Tは足元の変化に気づき、飛び退いた。
「今のは?」
レイが尋ねる。
「床面制御を奪った」
「私にも知らせろ」
「必要なかった」
「味方への共有が必要だ」
「了解」
K-Tは暗い場所へ移動した。
レイがアオノを守ろうと一歩前へ出る。
その瞬間、K-Tが拳銃を抜いた。
訓練弾がレイの足元へ飛ぶ。
レイは大剣で弾を弾いた。
しかし、K-Tの狙いはレイではなかった。
弾丸が背後の警報装置へ当たり、甲高い警告音が鳴り響く。
施設内の複数の扉が開いた。
中から訓練用ロボットが次々に現れる。
「敵が増えた」
マサカゲが叫ぶ。
彼らは見学していたが、ロボットの出現と同時に訓練へ巻き込まれた。
「アオノ、停止できる?」
メバルがロボットの攻撃を木剣で受けながら尋ねる。
「管理者権限が必要」
「それ、今の状況で取れるの?」
「取る」
アオノは端末を操作し続けた。
背後からロボットが近づく。
アオノは気づいていない。
レイが大剣の柄を振り、ロボットを横へ弾き飛ばした。
「背後の敵を見落とすな」
「視界の端で確認していた」
「確認したなら、なぜ動かなかった」
「レイが対処すると判断した」
レイの目が鋭くなる。
「判断を他人に任せるな」
レイはロボットの攻撃を受け流し、足を払った。
「私は必ず間に合うとは限らない」
アオノの指が止まった。
モニターに、警備システムの制御画面が表示される。
『管理者権限を要求』
『認証名:K-T』
「K-Tの認証が必要」
「使え」
K-Tがロボットの攻撃をかわしながら答える。
「生体認証が必要」
「俺が行く」
K-Tがアオノのいる管理端末へ向かう。
しかし、レイがその前に立った。
「訓練中だ。自分で突破しろ」
「時間がない」
「なら、判断しろ」
K-Tは一瞬だけレイを見た。
次の瞬間、拳銃を抜き、天井へ向けて発砲した。
銃弾が照明へ当たり、訓練場が暗闇に包まれる。
K-Tの姿が消えた。
ロボットたちが動きを止める。
レイは周囲の音を聞き分けた。
「アオノ、右へ三歩」
「了解」
アオノが移動する。
その直後、K-Tが元いた場所をロボットの腕が通過した。
K-Tは暗闇の中から現れ、ロボットの背後へ回った。
トンファーで関節を打ち、動きを止める。
「K-T、認証を」
アオノが言う。
K-Tは管理端末へ手を置いた。
画面が反応する。
『管理者認証――照合中』
しかし、その直後、別の認証画面が割り込んだ。
『未来記録との照合を開始』
K-Tが眉をひそめる。
「切断しろ」
「外部から接続されている」
「切断しろ」
「試みる」
アオノは端末を操作した。
画面上で、未知のプログラムが動き始める。
それは、現在の訓練場の映像を読み取り、K-Tたちの動きを予測していた。
『K-T――右へ移動』
『レイ――大剣を展開』
『アオノ――中央端末へ接続』
表示された予測が、次々に現実と一致していく。
K-Tが右へ移動した。
レイが大剣を展開した。
アオノが中央端末へ接続する。
「予測されている」
アオノが言った。
「動きを変えろ」
K-Tが答える。
「どのように?」
「俺たちが決めていない動きをする」
K-Tは、突然武器を捨てた。
拳銃を床へ置き、トンファーも放る。
警棒だけを逆手に持ち、ロボットへ突っ込んだ。
予測画面が乱れる。
『行動パターン、未登録』
レイも大剣を折りたたみ、短い形のまま床を滑らせた。
予測プログラムが再計算を始める。
その隙に、アオノが管理システムへ侵入した。
「警備システムの制御を取得」
「停止しろ」
「待て」
アオノの指が止まった。
管理画面の奥に、別のフォルダが表示されている。
『K-Tの記憶を保存』
その下には、さらに新しい項目があった。
『K-Tの未来記憶を再構成』
「未来記憶?」
アオノが呟く。
K-Tが端末へ近づいた。
「開くな」
「理由は?」
「危険だ」
「内容を確認しなければ、危険性を判断できない」
アオノがフォルダを開く。
画面に、戦闘記録が表示された。
現在のK-T。
若いころのK-T。
そして、顔の見えない長いコートの人物。
記録の右側には、戦闘結果が表示されている。
『対象:K-T』
『予測年齢:現在より20年後』
『右上肢:欠損』
『戦闘継続能力:高』
K-Tの目が、画面の一文に止まった。
レイもそれを見ていた。
「K-T」
レイが呼ぶ。
K-Tは画面を閉じた。
「今は訓練に集中しろ」
アオノが冷静に尋ねる。
「右上肢欠損の記録は、あなたの未来に関するものか」
「分からない」
「また?」
メバルが言った。
「今度は本当に知らない」
K-Tは、閉じた画面を見つめた。
訓練終了の警報が鳴る。
ロボットが停止し、照明が戻った。
アオノは端末から目を離さなかった。
「最後に、別のデータが表示された」
「何だ」
K-Tが尋ねる。
アオノは画面を見せた。
そこには、短い文章が記録されていた。
『戦闘記録の不足を確認』
『対象者たちを実戦環境へ移行』
『Xとの接触準備を開始』
レイが大剣を折りたたむ。
「Xとは誰だ」
K-Tは答えなかった。
施設の最奥で、ロックが一つ解除される音がした。
誰も近づいていない扉が、ゆっくりと開く。
その向こうには、地下へ続く階段があった。
階段の壁には、古い文字が刻まれている。
『中央塔地下駅』
その下に、別の文字が新しく表示された。
『侵入者を確認』
K-Tが刀の柄へ手を置く。
レイは彼の隣に立った。
「実戦訓練か」
「そうなる」
「なら、私も行く」
メバルたちも武器を構えた。
アオノは端末を閉じる。
「未知の管理者が、こちらを誘導している」
「罠だね」
メバルが言う。
K-Tは階段の奥を見つめた。
「それでも行く」
地下深くで、列車のような機械音が響いた。
誰も存在を知らなかった地下駅で、何かが到着した。
その車両の窓に、一瞬だけ人影が映る。
長いコート。
金髪。
そして、右側だけが不自然に空いた袖。
『X』との接触が、始まろうとしていた。
コメント
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第7話、読んだわ…!連携訓練っていうから地味めかなと思ったら、予測プログラムとか未来記憶とか、一気に不気味な方向に振れてきたね。特にレイの「判断を他人に任せるな」が刺さったわ。チームなのに一人ひとりが責任持てってことか。ラストの“X”と右袖が空いてる描写、鳥肌ものだよ。続きが気になりすぎる🔥