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白山小梅
白山小梅
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勝手に瞳がゆらゆらと揺れて、視界も思考も安定しない。
考えたくない妄想ばかり膨らんで、容量の少ないコップからざばざばと感情が溢れだしそうだ。
目頭からじわりと涙が込み上げてきたその時、スマホがちりんと鳴いて、やっと我に返った。
《今日なんじに終わんの?》
見られてたかと思うほどタイムリーな連絡に、息を飲む。
《いつもどおり》と、震える指先で、漢字変換もせずに文字を飛ばせば、すぐに既読マークがかちりと付いた。
《迎えいく。ちょっと話そ》
話そって、何を……?
肺のあたりがざわざわと震えた。手の指が痺れる。
神経の病気なのかなって勘ぐっちゃう。
エミちゃんと付き合うことになった、とか、言われる?
それとも、もう会わないって言われる?
やだやだ、そんなの聞きたくない。
逃げたいけれど、もう返事を打ったから、逃げることは出来ない。既読マークも付けたし、早く返事も打たないと、回転の早い柊に疑われそうだ。
……そうだ。
ある事を閃いたあたしは、柊にある提案をした。対岸に届いた文章は《わかった》という、単純な文字だった。
ふう、と脱力するけれど、心に溜まった靄はすっかり視界不良な程濃くて、ちっとも晴れそうにない。「おつかれ」
今日はバイト前に待ち合わせをしたのに、柊は既にたどり着いていた。柊と会うようになって、あたしが待たされたことは一度だってない。
Tシャツとジーンズに、バケットハットというシンプルな格好なのに、恵まれたスタイルの柊は、俄に賑わう繁華街に溶け込んでいる。
柊と会うのは今日が今週で初めて。先週は生理だったから、もちろん身体が触れ合うことは無くって。
──触りたい。
柊を前にすると、むき出しの欲望が顔を出すから、手首をぎゅっと握りしめて感情を抑え込む。
「……おつかれ」
でも、感情は抑えることが出来ても、声はあからさまに小さく震えた。
《今日はバイト前がいい》
些細な変化をきっと柊も受け取ったはずだ。それなのにこの態度は、駄目だ。
ヤダな、元気ありませんよって、言ってるみたい。
すぅっと視線を逸らすと、あたしより高い位置にいる柊が覗き込んでくるから、全然逃げられない。
「んー?ほとりちゃん、なんかありまちたか?」
「……ありました」
「どうしたよ」
「それより、柊の話って何?」
「俺のことより、柴崎のが気になるから先に聞かせて」
ああ、ずるい。
こういう時だけ柔らかい声を出すのだから、カチコチに固くなった感情の螺が、緩くなっていく。
「……柊、SNS系、なにかやってる?」
「してない。SNS嫌いだし、今後もやることないかな」
「めんどくさい女も嫌いよね?」
「基本嫌いだけど、人による」
「こないだの日曜、何してたの?」
「……今の流れでなんで日曜の話になんの」
「エミちゃんと付き合った?」
「付き合うわけないっしょ」
「でも、デートしてた」
「飯食っただけでデートかよ。簡単だな」
気怠くて、無気力がテンプレートな柊が、何時になく真剣なまなざしであたしを見つめている。いつもは見蕩れてしまうアイスブルーが今日は痛い。
エミちゃんと二人で、何してたんだろうって、何回ループさせただろう。
ぐるぐる、ぐるぐる、いまでもほら、すぐに嫌な思考がやって来て、泣きたくなる。
「それだけ?」
「……それだけ」
「うそだな。俺の目、見て話して」
掴まりたくない。” 立ち入り禁止 “の規制線を越えちゃダメ。
でも、夕闇の中でもきらりと輝く、星の瞬きみたいなアイスブルーの瞳に掴まりにいく。
あたしは、簡単に掴まるのに、柊のこころは全然掴まらない。
柊は、あたしの気持ちを知ったら、また、逃げていく?
受け取ってくれる?それとも茶化す?
知りたい、知りたくない、短い間に選択肢がたくさん現れる。どれを選べばいいか、あたしにはわからない。