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「事後報告だな」
「事後報告……」
勝手に……ではないのだけど、ラジエルダ王国に行くために、ダズリング伯爵家に行って直接取り付けてきた、というのは事後報告になるのかも知れない。いや、きっとそう。だって、リースにはいっていなかったんだから。
リースは私の話を聞いて、机の上に広がっている資料をパラパラと読みながら、はあ……と大きなため息をついた。前だったら、すぐに「ダメだ」とか「却下だ」とかいっていただろうに、そう思うと、リースは本当に成長していると思った。
どの目線でいっているんだという話になるので、深くは言わないが、リースは先に報告を入れてくれなかったことに少しふて腐れてはいたが、感情的にはなっていなかった。
でも、それが逆に私の良心を抉る。
矢っ張り恋人だし、相談はすべきだったと、後悔はした。でも、決まってしまった物だし、今更撤回とか言えない。
「ごめん、先にいっておけばよかったね」
「いいや、俺も忙しかったからな。話を聞いてやれなかったかも知れない。それに、どのみちいくつもりだったんだろう。お前は」
断られてもいくつもりだったというのなら、そうだ。
ラヴァインの記憶、そして、アルベドの事もあって、ラジエルダ王国にはもう一度行っておきたいと思った。実を言うと、混沌との戦いのあと、私はリースに告白をして返事を聞いたか、聞いていないかぐらいで意識を飛ばしてしまったのだ。後日、ちゃんと告白のやり直しとかはしたんだけど、どうやって帰ったのかは覚えていない。リースは、その後の事も知っているから、あれだけど、私はラジエルダ王国が今どうなっているか分からなかったのだ。
「そう、だね……色々調べたいことがあるし」
「本当にお前は、あの紅蓮に夢中なんだな」
「何、嫉妬してるの?」
「嫉妬か、そうだな、嫉妬だな」
と、譫言のようにいうリース。ルビーの瞳が悲しげで、それでいて、諦めているようにも感じて、私の良心はさらに抉られる。
別に、アルベドの事を恋愛感情的な意味で見ているわけでも無いのに、どうして……と思うが、恋人として、他の男を見ていると思うとそりゃ、いてもたってもいられないだろう。もしかしたら、自分が捨てられてしまう。興味が無くなってしまうかも知れないと思ったら、気が気でないだろうと。
そこまで配慮できなかった私に落ち度はある。
「でも、本当に別にそんなんじゃないし」
「言い訳は聞きたくない」
「……うっ、ごめん」
そう、謝れば、リースは自分の言い方が冷たかったと自覚したようで顔を上げた。
「悪い……言い過ぎた。言い訳、ではないな。それは、お前の本心なんだな……分かっているはずなのに」
「リース」
「……すまない。どうも、俺はあの紅蓮が苦手なんだ」
と、リースは頭に手を当てていった。
リースがアルベドの事を苦手、というか嫌いなことは分かっているし、だからこそ、ラヴァインを近くに置くと言うことに関してあまり賛成していないって言うのも分かっている。それでも、私は、ラヴァインを近くに置いてしまったわけで。リースの気持ちを考えずにいたりもした。
それが、今、こうして彼の悩みの種になっているなんて。
「ごめん」
「エトワールが謝ることじゃない。だが、俺は彼奴らを好きになれない。それだけの話だ」
「……」
沈黙が続く。
こんな話をしたかったわけじゃないし、リースを苦しめたかったわけじゃないけれど、そうなってしまったのは、私の責任で。自分で自分を責めた所で、リースの気分が晴れるわけじゃないけれど。
「まあ、それとは別にラジエルダ王国に行って欲しくないって言うのには理由があるんだが」
そう、リースは切り替えたように顔を上げた。先ほどの苦しそうな感情は彼の中から消えているようで、よくそんなに早く切り替えることが出来るなと感心してしまう。私もそれぐらいさっぱりしていれば良いのだが、私とリースでは違うのだと、そう言い聞かせることしか出来なかった。
「言って欲しくない理由?」
「ああ、報告が入ってな。何でも、ラジエルダ王国の廃墟でこそこそと何かをやっている連中が見つかったらしい。ヘウンデウン教の残党という噂もあるが、女性らしき影も見たと」
と、リースは何処か言葉を濁しつつ言う。
ヘウンデウン教の残党が見つかったというのはまた、大事になりそうだと思った。混沌が目を覚ますのは早くても数は百年後の話だし、今ヘウンデウン教が動いたところで混沌は目を覚まさない。そもそも、ヘウンデウン教の活動理由というか考えは、混沌を崇拝し、混沌を復活させることで世界滅亡を企むって言うのだし。だから、今ヘウンデウン教が動いても、何も出来ないんじゃ無いかと。
でも、もし、混沌意外で世界を滅ぼす方法があるとするのなら。
「エトワール?」
「うん?ああ、ごめん。ヘウンデウン教の狙いって何だろうなって。だってもう、混沌は暫く復活しないわけだし。今、動く理由があるのかなあって」
「ああ、それは俺も思った。だからこそ、警戒しているんだ。だが、彼奴らは、魔法に長けた奴らばかりでな。すぐに逃げられてしまったらしい」
「そう……」
まあ、ラヴァインとか、ブライトの父親とかいる時点で、魔法に関してはもう何も言うことないだろう。そこら辺のパッとしない魔道士がどうこう出来るわけじゃ無い。魔法は、兵器と一緒だし、あまりに使い勝手の良いものだから。熟練者であれば、それはもう一般人なんて手も足も出ないだろう。
「でも、女性って?別に性別がって、何か関係あるの?」
リースの話に出来た女性の……という単語が気になってしまったのだ。別にそこを強調して言う必要は無いと思った。だって、ヘウンデウン教の教徒が全員男性というわけじゃないだろうし。だから、そこに何かあると思ったのだ。
リースは、ちらりと私を見て言いにくそうに、唇を動かしていた。
ああ、これは何かあるなって言うのはすぐにでも分かる。
「いってくれないの?」
「いや、現実味のない話だからな。忘れてくれ」
「いやいや、そんな危険があるのに、何でいってくれないのよ。ケチ」
ケチ、とはまた違う気がしたが、口から出たのはそんな幼稚な言葉だった。リースは、さらに口ごもる。言えない理由があるのだろうかと。でも、ラジエルダ王国には行って良いというように、半場諦めのようにいってくれたし。
だからこそ、何があるのか気になってしかなかった。
「銀髪の……」
「銀髪の?」
「銀髪の女性がいたそうだ。黒いローブを羽織っていたから、顔までは分からなかったみたいだが、体型的に女性だと……」
「その女性が、銀髪だったって?って、銀髪!?」
私がいきなり大声をだしので、リースはすかさず耳を塞いだ。
銀髪の女性って、それはもう、自分の事じゃないかって思ってしまった。いや、いるわけが無い。いるわけが無いのだ……とは、言えないのだけど、少なくとも私が二人いるなんてあり得ない事である。リースが口ごもったのは、その容姿だけ聞いて、私を想像したからだろう。信じられない、現実味のない話とは、そういうことを指すのだろうと。
納得した。でも、納得しきれない部分も勿論ある。
(私……エトワールが二人いるわけ無いし、でも、銀髪の女性ってそんなにいないし……)
少なくとも、此の世界にきて銀髪なんて見ていない。銀髪というか、白に近いというか、そんな髪色の人は女性は愚か、男性も見ていないのだ。それに、何と言っても銀髪は、女神の髪色だと言われていて、一応世界観的に、設定的に銀髪はエトワールと女神しかいない、と言うようになっている、と思う。
だから、あり得ないと言いたい。
「……あり得ない」
「ああ、俺もあり得ないと思いたい。だが、銀髪というのは……」
「分かってる、言わなくても分かってる。でも、あり得ないでしょ」
「一応聞くが、あれ以降ラジエルダ王国にはいっていないんだよな」
「忙しくていっていないわよ。転移魔法だって、使ってないし」
私が感情的になって言えば、リースは、そうだよな。とまた頭を抱える。
リースも、報告を聞いたとき驚いただろう。銀髪の女性がうろついていた、となれば想像するのはエトワールのこの髪色だと。それも、ヘウンデウン教と一緒にいる銀髪の女性が、女神なわけない。そうすると、必然的に疑いが私に向けられるわけで。
(もしかして、リース以外に疑われている?私がまだ、裏切り者とか、偽物とか。ヘウンデウン教と繋がっているとか)
まわりから、どんな風に思われているか気になるところだった。
災厄以降の私の評価とか気にしていなかったけど、こういうことがあると、真っ先に疑われるのは私だろう。誤解は解きたいが、一人ひとりいってまわるのも大変だし。そもそも、私本人が誤解を解こうとするとさらに怪しまれたりも……
「はあ……」
「気にするなと言いたいところだが、もし、お前に変装している奴がいるとしたら、そいつが何をしようとしているのか、お前に危害を加えようとしているのであれば……と考えたら、夜も眠れない」
「じゃあ、何でラジエルダ王国に行ってもいいっていってくれたの?」
「お前の願望は全て叶えてやりたいと思っている」
と、リースは言うと、そのルビーの瞳に私を映した。