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視界が、白く滲んでいく。
音が、遠い。
声が、歪む。
翠は、自分がもう限界だって、ちゃんと分かっていた。
(……だめだ……)
(もう……)
身体の力が抜けて、
前に崩れそうになった瞬間──
支えたのは、赫だった。
「翠にぃ!」
その声だけが、はっきり聞こえた。
胸に、赫の腕の感触。
でも、それすら、もう怖いとか拒む余裕もない。
ただ、時間がないってことだけが分かる。
(……言わなきゃ……)
翠は、震える指で、赫の服を掴んだ。
力なんて、ほとんど入っていない。
それでも、必死だった。
「……赫、ちゃん……」
声が、ほとんど息みたいに漏れる。
赫が、耳を近づける。
「……なに……?」
翠は、必死に言葉を探した。
視界の端に、瑞の姿が映る。
困惑して。
不安そうで。
取り残されたみたいな顔。
(……だめ……)
(瑞ちゃんだけは……)
喉が、ひくっと鳴る。
「……瑞……ちゃん……」
名前を呼んだだけで、胸が苦しくなる
息が、うまく吸えない。
赫が、焦った声で呼ぶ。
「翠にぃ、無理すんな! もういい!」
でも、翠は首を振った。
小さく。
でも、はっきり。
「……説明……」
震える声で、最後の力を振り絞る。
「……瑞ちゃんに……」
一拍。
「……ちゃんと……説明して……」
それだけだった。
それ以上は、もう言えなかった。
掴んでいた指が、するりと力を失う。
「……翠にぃ?」
赫の声が、少し遠くなる。
翠の視界は、完全に暗くなっていった。
(……これで……)
(瑞ちゃん……)
(ひとりじゃ……ない……)
意識が、ふっと途切れる。
赫は、腕の中で力を失った翠を、ぎゅっと抱き留めた。
「……分かった……」
小さく、でも確かに呟く。
「……ちゃんと……話す」
瑞は、その光景を、固まったまま見ていた。
何が起きているのか、まだ分からない。
でも───
翠が、最後まで自分を外さなかったことだけは、
なぜか、胸に強く残った。
保健室に、静かな緊張が落ちる。
翠は眠ってしまったけれど、
その一言は、確かに“繋がった”。