テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
甘野芣婭 (17歳)
歴代の彼氏達にフラれてきた中で、翔ちゃんだけは芣婭から別れを告げた大好きだった人。
本当に本当に大好きで、翔ちゃんに裏切られてるって菜穂とお兄ちゃんに教えてもらって、傷付く事から逃げてしまった相手。
もう、傷付きたくなかった。
大好きな翔ちゃんに裏切られたって事実から目を逸らしたくて、捨てられる事が怖かった。
翔ちゃんは芣婭に好きって中々言ってくれなくて、集会にもツーリングにも連れてってくれなくて、芣婭の
事を本当に好きかどうか分からなかった。
何故か翔ちゃんの連絡先が消え、会いにも来てくれな
くて、別れを告げた日から翔ちゃんとは疎遠になっていたのに…、今更連絡が来たのは何で?
確かに翔ちゃんの連絡先が消えていた、電話が来たとして電話番号だけで表示されるはず。
それなのに今は登録していた「翔ちゃん♡」と表示されていて、異世界に来たから電波も県外だったのに、
何で今は電波が繋がっているのか分からない。
どうして、今なの?
なんで、このタイミングで翔ちゃんなの?
「芣婭」
「っ!!!」
コンラットに肩を触れられ、驚いた芣婭は思わず通話ボタンを押してしまった。
「あっ⁉通話ボタン押しちゃったっ!!!」
「わ、悪いっ、俺が急に芣婭の肩に触っちまったから
だよなっ、大丈夫か?」
「いやぁ、大丈夫じゃないけど…、元の世界の人に事件の事を聞いてみた方が良いし…、大丈夫」
申し訳なさそうな顔をしているコンラットの事を宥めてから、緊張で心臓が口から飛び出そうな気持のまま
スマホを耳に当てる。
翔ちゃんと電話をするのも半年ぶり、事件の事を聞くのに丁度良いタイミング…、もしかして犯人だと思って連絡をしてきたの?
悪ノリで電話を掛けてきたのなら、辻褄が合うしっ、今まで連絡がなかったのにしてくるんだから、理由はそれしかなくない?
変な事言ってきたら、すぐに電話切ろ。
「も、もしもし…」
『ふ、芣婭っ!!!無事なのか⁉』
スマホ越しに聞こえてきた翔ちゃんの声は、すっごく慌てて芣婭の事をすごく心配してくれているのが分かる。
「え、あの小さな機械から声がしてるんだけど⁉何あれ⁉人と話が出来るのか⁉」
「驚きました、この世界にはそのような機械はありませんし…。芣婭様と話しているのは、芣婭様が居た世
界の住人って事になりますよね?」
驚いているニックの隣でレヴァさんが冷静に状況を分析してる中、コンラットとケロちゃんとベロちゃんの
表情が真剣なものに変わった。
ギシッとベットが軋む音が聞こえ、視線を向けるとコンラットがベットの上に乗って、芣婭の体を優しく抱き寄せる。
「隊長⁉そんな事したら、ギルベルト様に殺されますよ⁉」
「馬鹿、下心があって芣婭の事を抱き寄せていない。
芣婭、俺が側に居るから、安心して電話して良いよ」
サラッとニックの言葉を聞いたコンラットは説明し、芣婭の事を安心させようとしてくれてるのが分かった。
なんで、コンラットは電話って単語を知ってるんだろ?
こっちに世界にある電話ってレトロチックなダイヤル式の電話で、スマホなんか見た事がないはず。
コンラットに聞こうとした時、スマホから懐かしい声が聞こえてくる。
『本当に芣婭ちゃんが電話に出たのか!?もしもし、芣婭ちゃん!?大丈夫なの!?行方不明になったって聞いて、俺達探し回ってたんだよっ』
「え?その声は、透雅君?芣婭の事を探してたって?」
『お前等、俺が芣婭と電話してんだよっ、一気に話し出すな!芣婭、大丈夫か』
透雅君の声の後に翔ちゃんの優しい声が聞こえて、何故か泣けてきた。
「翔ちゃん…、翔ちゃんも芣婭が犯人だと思って電話してきたの?さっき、ニュースを見たの。芣婭がお母
さんとお父さんを殺したって」
『俺は芣婭が犯人だって思ってねぇよ』
「じゃあ、何で今になって電話をしてきたの?」
心配してくれるのは純粋に嬉しい、だけど今の芣婭は純粋に喜べないから、可愛くない言葉を吐いてしま
う。
もう、芣婭達の関係は半年前に終わってて、今の今まで連絡もしてこなかったくせに、事件が起きてから連絡が来るって…。
太ももの上に置いている拳が震え出すと、コンラットが優しく拳を包み込んでくれる。
まるで、妹をあやすような慰めるような…、ギル君とは違う安心感をコンラットは芣婭に与えてくれた。
『…、俺は芣婭に別れようって言われてから、毎日お前に会いに学校にも家にも行ったよ』
「嘘、だって翔ちゃんの姿を見なかったもんっ!家にも来てなら、絶対に会うでしょ?嘘つかなくてい…」
『お前の兄貴に全部妨害されてたんだよっ!!!あんな簡単に終わらせてたまるかよっ』
「どういう事?」
翔ちゃんは今まで芣婭に大声を出して怒ったりしなかった。
そんな翔ちゃんが大声を上げて、泣きそうな声で話している事は嘘じゃないと思う。
「お兄ちゃんが邪魔をしてたって事?なんで?翔ちゃんの邪魔をするの?」
『俺と芣婭を別れされる原因を作ったのは、河邉菜穂と甘野冬馬の2人だったんだよ。俺から芣婭を奪い返す為に』
「えっ、え?菜穂とお兄ちゃんの2人が、芣婭と翔ちゃんを別れさせようとした…?」
翔ちゃんの口から語られた話は信じられないない内容で、翔ちゃんが言っている事が嘘なのか本当なのか分からない。
『喫茶店の外に出た時に言われたんだ、俺の芣婭に手を出しやがってって』
「えっ、え?」
やめて。
『本当に愛してるのは僕だ。結婚したいだ?笑わせるな。誰がお前なんかに、芣婭をやるかって』
やめて、やめてよ。
喫茶店を出た後に、翔ちゃんとお兄ちゃんが何かを話してるのは見ていたから分かってる。
お兄ちゃんがあの時、翔ちゃんにこんな事を言ったって事?
ズキンッと頭に鈍い痛みが走り、顔をしかめるとケロちゃんとベロちゃんが慌てて駆け寄って来て、心配そうな顔をして芣婭の顔を覗き込む。
『僕の芣婭に手を出したお前が悪い、芣婭は僕のモノなんだからって。河邉菜穂は甘野冬馬に言われて、合成で作った写真を芣婭にみ…』
「これ以上、聞きたくないよっ!!!」
「「「っ!!!」」」
芣婭の大声を聞いた部屋の中にいるコンラット達が驚いた顔し、一斉にみんなの視線が芣婭に注がれる。
ズキズキと頭は痛いし、体は熱っぽくて怠いし、こんな時に菜穂とお兄ちゃんの事も誰の事も疑いたくない。
『芣婭ちゃん、翔太朗の言ってる事は本当なんだ。芣婭ちゃんに近付けさせないように、冬馬さんに雇われたチンピラが翔太朗の事を襲ってきた事もあった。あの2人は、芣婭ちゃんの事を不幸にしてきたんだよ』
透雅君は芣婭の事を落ち着かせようと、声のトーンを優しくして説明する。
今まで目を逸らして来た事があった、誰にも相談できない事。
【菜穂が芣婭に内緒で元カレと会って仲良くしてる事】、他の友達から言われてきた言葉を信じていなかった。
菜穂に直接聞こうとも思わなかったのは、菜穂の事を信じたかったから。
翔ちゃんと透雅君の2人が言っている事が本当なら、芣婭が彼氏にフラれて来たのは菜穂とお兄ちゃんの所為って事になる。
「菜穂は…、菜穂は芣婭の為に動いてくれていたのは、芣婭と彼氏を別れさせたかったからって事?」
『芣婭…、芣婭の事を傷付けたくて言ってるんじゃないんだよ。あの2人は…』
「もう十分、傷付けてるんだよ、翔ちゃんっ…」
『ごめん、本当にそんなつもりはなかったんだっ。俺は…』
「もう翔ちゃんと芣婭は終わってるんだよ?半年も前に終わっちゃったんだよっ?今更っ、そんな事言われたって遅いんだよっ」
翔ちゃんと話していると心臓が痛くて、勝手にあの頃の思い出が頭の中に流れ込んでくる。
好きだった、本当に大好きだった。
深夜のコンビニの駐車場で他校の男子に絡まれていた時に、助けてくれたのが翔ちゃんで、芣婭達の出会いのきっかけになった事も覚えてる。
他校の男子が芣婭に近付いてこないようにって、下校時間には校門近くでバイクに乗って迎えに来てくれた事も、テディベアを持ってきて顔を真っ赤にして告白してくれた事も。
【好きだ、俺と付き合ってほしい】って、不器用ながらに好意を伝えてくれたのは翔ちゃんだけだった。
翔ちゃんが芣婭の王子様なんだって、この人と出会う為にフラれて来たんだって思えたのも翔ちゃんだけだった。
カツカツカツッと誰かが歩いてくる足音が聞こえ、ニックとレヴァさんは扉を開けて部屋を出て行く。
『俺は今も芣婭の事を愛してる』
その言葉をずっと言ってほしくて、何回も翔ちゃんに好きかどうか確認しても言ってくれなかった言葉。
頬に何か伝う感覚がし、太ももに液体のような物が瞳から零れ落ちて行く。
なんで、今その言葉を言うの?
「っ…、愛してるなんて今まで言ってくれなかったのに、今言うの?」
『…、お前にもっとちゃんと気持ちを伝えていたら、こんな事にはなってなかったんだよな』
きっと翔ちゃんにも、芣婭が今泣いてる事がバレてるんだろうな。
こんな時に優しくしないでほしい、こんな時に愛してるなんて言ってほしくない。
【芣婭、好きだ】って言って告白してくれたギル君の顔が浮かび、心が軽くなっていく感覚がした。
腕に光る銀色の魔石を見ると、ギル君が側にいてくれ
てる感覚がして、無性にギル君に会いたくなってしまった。
翔ちゃんはもう過去の人で、今はギル君が芣婭の彼氏、もう電話してこないでって言わないといけない。
「コンラット、退け」
「えっ、ギルベルト様っ!?おわっ⁉」
コンラットが誰かに腕を引かれてどかされたのか、ベットから落ちるコンラットの姿が視界に入る。
フワッと煙草の匂いが鼻を通り、視線を横に向けると怒った顔をしたギル君がベットの上に乗ってきていた。
「えっ!?ギル君?」
「誰に泣かされた」
「え、えっと…」
『おい、芣婭?誰か側にいるのか?』
翔ちゃんの声が聞こえたのか、芣婭が持っているスマホに視線を向けて、すぐにスマホをギル君に取られてしまう。
『何かあったのか⁉どこにいるんだっ』
「お前か?俺の女を泣かしたのは」
怖い顔したギル君がスマホを耳に当てて、翔ちゃんに冷たい言葉を放った。
***
数十分前、甘野芣婭と三浦翔太朗が通話をしている間、レヴァリオは屋敷の電話を借りてカーディアック
家に連絡を入れていた。
電話に出たのは魔法医師 のミラで、甘野芣婭は熱を出した事を話していた時、受話器からミラではなく違う人物の声が聞こえてくる。
『芣婭が熱を出したのか』
「ギ、ギルベルト様⁉隊長達と会議の最中じゃ…?」
『たった今、終わった所だ。ミラを連れて、すぐにロールベルグ家に向かう』
「あ、ギルベルト様⁉」
話の途中でギルベルトにガチャ切りされ、レヴァリオが甘野芣婭に戻ってから数十分後に、廊下からギルベルトの気配がしたニックスとレヴァリオの2人は慌て
て部屋を出たのだが。
眉間に深い皺を寄せながら、ロールベルグ家に執事長であるグロウヴィーとミラの2人を置いて歩いて来ている姿を発見する。
2人はギルベルトにいつものように声をかける事が出来ず、ニックスとレヴァリオの顔に一瞬だけ視線を向けてから、遠慮もなく部屋の中に足を運ぶ。
「「あっ!!!」」
コンラットが甘野芣婭の肩を抱いてる事を思い出した
2人はすぐに部屋に戻るが、コンラットがギルベルトにベットから引きずり降ろされていた。
甘野芣婭が泣いている姿を見て、コンラットが泣かせた訳ではないと分かり、男の声が聞こえるスマホが原因だと察知する。
スマホを甘野芣婭から取り上げると、スマホから三浦
翔太朗が馴れ馴れしく下の名前で呼ぶ声に苛立ちを覚え、ギルベルトはスマホを耳に当てて口を開く。
「お前か?俺の女を泣かしたのは」
三浦翔太朗も甘野芣婭のスマホから不機嫌な男の声が聞こえ、三浦翔太朗の隣に座っていた曾田透雅にもギルベルトの声が聞こえていた。
対面席に座っている下村喜一と水島浩平にも聞こえ、三浦翔太朗達の席に重苦しい空気が流れる。
「え、男の声がしたよな?もしかして、芣婭ちゃんの新しい男?」
「馬鹿野郎!今の翔太朗の前で、そんな事言うんじゃ…」
無神経な事を言う下村喜一の頭を叩きながら水島浩平が割って入るが、三浦翔太朗の眉間に深い皺を寄せ、
ギルベルト相手に喧嘩腰に言葉を吐く。
「あ?誰だ、テメェ。誰が俺の女だって?」
「お前、芣婭のなんなんだ?」
三浦翔太朗のスマホから聞こえて来るギルベルトの声は大人で、余裕のある感じが更に三浦翔太朗を苛立たせる。
「俺は芣婭の元カレだが、今でも芣婭の事が好きだ。アンタが芣婭の事を攫った男か?普通に犯罪だろ」
「元カレ?元カレと言うのは元恋人と言う事か?」
「は?それ以外にないだろ」
「そうか、お前達の世界の言葉で説明するなら、こう言えば良いのか?俺は芣婭の今カレだ」
「はぁ⁉」
ガタッ!!!
ギルベルトの言葉を聞いた三浦翔太朗は驚きのあまり、勢いよく席を立ってしまった。
驚いたのは元の世界にいる三浦翔太朗だけではなく、異世界でギルベルトの目の前にいる甘野芣婭も涙を流しながら驚く。
「ギル君…、ごめんなさいっ…。ギル君の事、怒らせちゃってる」
「お前の所為じゃないよ、芣婭。これは男同士の問題だ」
「男同士…?」
頭の上に?マークを浮かべている甘野芣婭を見たギルベルトは、フッと軽く笑って甘野芣婭の髪を撫でてから頬に口付けをする。
チュッと軽いリップ音が三浦翔太朗のスマホから聞こえ、向こうでギルベルトが甘野芣婭に何をしたのか想像が出来た。
だが、今の自分には【俺の芣婭に触るな】と怒りをぶつける事も出来ないのは分かっていたのだ。
「あの、横から失礼します。さっき、お前達の世界の言葉でって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
ギルベルトの発言に引っ掛かる部分があったのを思い出した曾田透雅は、三浦翔太朗のスマホをスピーカに設定して尋ねる。
曾田透雅の声が聞こえた甘野芣婭もギルベルトの事を手招きし、隣に座らせてからスマホ画面に写っているスピーカのマークをタップした。
「芣婭はどこに居るんだ」
スピーカ設定された事により、三浦翔太朗の声が周りにいるコンラット達やケルベロスの2匹にもハッキリと聞こえるように。
「さっきよりも声が大きく聞こえますね?何か魔法でも使ったんですか?芣婭」
「違うよ、ケロちゃん。スピーカ設定しただけだよ。あっちも声がハッキリ聞こえるようになったから、したのかなって思ってさ」
「へー、この小さな機械?にそんな事が出来るんだなぁ。芣婭ちゃんの世界の物って、面白いな」
「おい、お前の周りに他に誰かいるのか?」
ケロちゃんとニックスと甘野芣婭が話をしていると、三浦翔太朗が声をかけてきた。
「いるよ、芣婭そっちの世界にはいないよ。ケロちゃんとベロちゃんと一緒に、異世界にトリップしたの」
「ちょ、ちょっと待てっ、トリップ?どういう事なんだ?」
「芣婭ちゃん、異世界にトリップしたのかよ!!!スゲー!アニメみたいな展開って本当にあるんだな!!!やべー!!!」
困惑している三浦翔太朗を他所に、木下喜一のテンションが一気に上がる。
途中から木下喜一が水島浩平に頭を殴られている音が聞こえ、騒がしくしていた木下喜一が大人しくなった。
「喜一がうるさくしてごめんね?芣婭ちゃん。えっと、芣婭ちゃんは事件が起きた日に異世界に飛ばされたって事になるね?電話が繋がってるって事は、異世界でもスマホは触れるって事になるのか」
「事件?」
曾田透雅の言葉を聞いたギルベルトは、甘野芣婭の方を見ながら呟く。
ギルベルトの視線に気が付いた甘野芣婭は、ポロポロと涙を零しながらギルベルトに【甘野夫妻殺人事件】の事と甘野冬馬が行方不明になっている事を話す。
「ふ、芣婭、お母さんとお父さんを殺した犯人にされててっ…。それに、お兄ちゃんも行方不明になってて…っ」
「辛い話をさせて悪かった、芣婭。お前等も、芣婭が犯人だと思って連絡をしてきたのか」
甘野芣婭を抱き寄せながら、ギルベルトはスマホに向かって話すと三浦翔太朗は真剣な面持ちで口を開く。
「俺達は芣婭が殺人事件を起こした犯人だと思ってねぇよ。芣婭が母親から酷い扱いをされてたのは知ってた。けど、芣婭がそんな事は出来ないのも知ってる」
「随分と芣婭の事を分かってるような口調で話すんだな」
「アンタよりは知ってるよ、芣婭が母親にどんな扱いを受けていたのかを。あの事は話してないんだな?芣婭」
三浦翔太朗の言葉を聞いた瞬間、甘野芣婭の体がビクッと跳ね、その様子を見てたシエサは三浦翔太朗が背中の火傷の事を話していると分かった。
「芣婭様…」
シエサはすぐに甘野芣婭に駆け寄り、ギルベルトに視線を送る。
ギルベルトもケロべロスの2匹もコンラット達も、甘野芣婭が話したくなさそうにしているのは一目で分かるし、無理に話しを聞こうともしない。
三浦翔太朗が甘野芣婭に背中の火傷の話を持ち出したのは、ギルベルトへの攻撃だった。
【自分には話した事をギルベルトは聞いていないだろう?】と、嫉妬心から出てきた言葉を三浦翔太朗はギルベルトに投げつけたのだ。
自分がした発言によって今、甘野芣婭が体を震わせているのも、泣いているのも異世界に居ない三浦翔太朗は知らなかった。
***
甘野芣婭 (17歳)
翔ちゃんには、お母さんにつけられた背中の火傷の話はした事があった。
たまたま見られちゃって、翔ちゃんが泣きそうな顔して心配してくるから、幻滅されるのを覚悟で話をした。
結構酷めの火傷だったらしくて、傷もハッキリ残ってて、男の人が見たら気持ち悪るく思うレベル。
ギル君と付き合うってなった時、背中の火傷の傷の事も話さないといけないって思ってたけど…、嫌われたら嫌だって気持ちが勝って言えなかった。
翔ちゃんの口からこの話題が出ると思ってなかったから、体がビクッと反応してしまったのだ。
この反応を見たら、頭の良いギル君はすぐに察しがつくんだろうなぁ。
言わなきゃ、ギル君に火傷の傷の事を言わなきゃ。
そう思った時、お母さんに熱湯をかけられた時の記憶が脳裏を過り、お母さんが怖い顔をして酷い言葉を言ってきた事も鮮明に思い出す。
あの時、お母さんに殺されるかもって本気で思って、お兄ちゃんが止めてくれなかったら…。
お母さんにもっと酷い事されてた。
目を見開いて、怒りで顔を真っ赤にして、食器とか色々投げつけてきて、お兄ちゃんが庇って投げられたお皿が頭に当たって…。
今まで忘れてたのに、何で今思い出しちゃうかな。
「言ってないよ…、だってっ、その…」
「芣婭」
「ギル君…、あのね、あの事って言うのはね…」
「言いたくない事は言わなくて良い」
「え?」
「人間、誰しも他人に言えない事は1つや2つはあるものだ。芣婭、俺はそんな事で芣婭の事を嫌いになったりしないよ」
ギル君の言葉を聞いた瞬間、頭の中からお母さんの顔が消えた。
あの時も記憶も吹き飛ばされて、異世界に来てからギル君と過ごしてきた時間の思い出が流れ込んでくる。
「ギルベルト様の言う通りだよ、芣婭。秘密を持ってない人間なんか、この世にいないよ」
「芣婭以外の人間なんかよ、欲望の塊だぜ?」
「ちょ!?人の事をそんな野蛮な言い方しないでよ!!!」
「まぁ、ニックは欲望の塊かもね」
「おい、ミラ!!!」
コンラットもベロちゃんもニックもミー君も、芣婭の事を元気つけようとしてくれてるのが分かる。
ここにいるみんなは、芣婭の事を思ってくれてて、全面的に味方もしてくれる人達。
そうだよね、何をクヨクヨしてたんだろ!
「ギル君、クヨクヨしててごめん!もう大丈夫!翔ちゃん、芣婭の事を心配してくれてありがと。芣婭の事はもう探さないで」
『探さないでって、どういう事だ…?』
「そのままの意味だよ」
『俺はもう、お前の事を諦めるつもりはねーよ』
「はい?いや、もうギル君がいるか…」
『俺がそっちの世界に行く』
翔ちゃんがいきなり、とんでもない事を言い出す。
「ちょっと待って!?こっちに来るって、そんな簡単な話じゃ…、うわっ⁉」
そう言った瞬間、手元のスマホから眩い光が放たれ、スマホが芣婭の手元から離れると誰かに手首を掴まれる。
「芣婭っ!!!?」
同時に懐かしい香水の匂いが鼻を通り、翔ちゃんの声が聞こえて目を開けると、目の前に本物の翔ちゃんが立っていた。
コメント
1件
いやもう、最後の展開にはびっくりしました……! スマホ越しだった翔ちゃんが突然目の前に現れて、心臓が止まるかと思いました。それ以上に、コンラットが芣婭ちゃんを優しく抱き寄せて「側にいるよ」って言ってくれたところにぐっと来ましたね。ギル君が「言いたくないことは言わなくていい」と伝えるあたりも、すごくあたたかくて好きなシーンです。それぞれの距離感の描き方が繊細だなあと感じ入りました。次が気になります……!
耀聖(ようせい)
333
耀聖(ようせい)
1,202
1,858