テラーノベル
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Mami
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第7話:甘やかな夜と、体温が暴く真実
街角でのキスを境に、俺たちの間にあった最後の壁は綺麗に崩れ去っていた。
家に帰るまでの車内でも、ネスは片時も俺の手を離そうとしなかった。指を複雑に絡め合わせ、互いの手のひらの熱を確かめ合うように、何度も何度も力を込めてくる。記憶の完全な修復はまだでも、俺たちはもう、疑いようのない「恋人」同士に戻っていた。
バスタード・ミュンヘンの宿舎にある、俺の部屋。
ドアを閉め、鍵がかかる音が静かな室内に響いた瞬間、俺はネスをドアへと押し付け、貪るように唇を重ねた。
「ん……っ、は、カイザー……っ」
街灯の明かりだけが差し込む薄暗い部屋の中で、互いの息が激しく重なり合う。昼間の橋の上でのキスが導火線となり、俺たちの中の乾いた欲望が一気に燃え上がっていた。俺はネスのコートを乱暴に脱ぎ捨て、薄いシャツの上からその細い腰を強く抱き寄せた。
「待てねぇ、ネス。お前が足りなすぎて、俺の頭がおかしくなりそうだ」
「僕も……僕もです、カイザー。もっと、あなたの熱いところを……僕に、ください……っ」
ネスは潤んだ瞳で俺を見上げ、自らシャツのボタンを外していく。その白い肌が露わになるたびに、俺の心臓はちぎれそうなほど脈打った。
*
ベッドにネスを押し倒し、覆い被さる。シーツに広がるハシバミ色の髪を指先で梳きながら、俺はあいつの首筋、鎖骨、そして胸元へと、焼き付けるように何度も唇を落とした。
「あ、うく、っ……んん……っ」
俺が特定の場所――あいつの動脈の真上を少し強めに吸い上げると、ネスは背中を小さく跳ね上げ、甘い悲鳴を漏らした。
「……あ。ここ、いつも、あなたが……」
「思い出したか? お前はここを責められると、いつも情けねぇ声で俺の名前を呼ぶんだよ」
「ひ、あ……カイザー、カイザー……っ!」
身体の記憶は嘘をつかない。
脳の回路が思い出せなくても、俺の指先が触れるたび、俺の舌が這うたびに、ネスの身体はかつて俺が仕込んだ通りの最上の反応を返してくる。歓喜に震えるその肌の熱が、俺をどうしようもなく狂わせた。
俺はネスの細い両手首を掴み、頭の上で固定するようにベッドへ縫い付けた。上から見下ろすと、ネスは顔を真っ赤に染め、完全に俺に全てを委ねた恍惚の表情で涙を浮かべていた。あの記憶喪失直後の、怯えた他人行儀な目はどこにもない。
「カイザー、僕を……あなたの、色で……いっぱいに、して……」
「あぁ、壊れるまで愛してやるよ。俺の可愛い魔術師(ネス)」
互いの肌が密着し、逃げ場のない熱が部屋を満たしていく。何度も、何度も、互いの名前を呼び合いながら、深く、溺れるように身体を重ね合いつくした。それは失われた時間を埋めるための儀式であり、今ここにいるお互いを繋ぎ止めるための、狂おしいほどの愛の証明だった。
*
深夜。
乱れたベッドの中で、俺は背後からネスの細い身体を抱きしめ、一つの毛布に包まれていた。ネスは疲れ果てて俺の胸に頭を預けている。その規則正しい寝息を聞きながら、俺はあいつの首筋に残る、新しく刻み直した赤い痕を愛おしそうに指先でなぞった。
「ん、……カイザー?」
微かに身じろぎをして、ネスがゆっくりと目を覚ました。ハシバミ色の瞳が、暗闇の中で俺の顔をじっと見つめる。
「起こしちまったか」
「いいえ……。あの、カイザー。さっき、あなたに抱かれているとき、本当に……全部、見えました」
「……あぁ?」
ネスは俺の胸にそっと手を当て、今度は涙ではなく、心からの穏やかな笑みを浮かべた。
「付き合ってから、この部屋で、二人で何度もこうして朝を迎えたこと。あなたが寝言で僕の名前を呼ぶこと。……事故の日の夜、あなたが『危ない!』って、僕を庇おうとしてくれたこと。全部、全部思い出しました」
ネスの瞳に、かつてのあの、俺だけを真っ直ぐに映し出す狂信的で、けれど世界で一番深い愛の光が、完全に宿っていた。
「おかえり、ネス」
「はい……。ただいま戻りました、僕の、たった一人の王様」
暗闇の中、俺たちはもう一度、今度は記憶の欠片すら残っていない完全な愛を確かめ合うように、静かに唇を重ね合わせた。