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初めてお夕飯を作ったあの日。
ありがたいことに皆さんからすごく好評だった私の料理。
でも最初はやっぱり警戒されてた。
まあ、突然現れたどこの馬の骨とも分からない不審な小娘の作る料理なんて警戒されて当然だよね。
だけど監視と味見もしてくれたリヴァイ兵長の言葉と、サシャの凄まじい食べっぷりのおかげで、他の人たちも私の作ったごはんを口にしてくれた。
結果、余った分までぜーんぶ食べてくれて、嬉しい感想もそれぞれくれた。
次の日からは違う人が監視役を務める。
日替わりとはいえ、1日3回の調理の度に顔を合わせる、その日の監視の担当者。
朝はやっぱりお互いちょっと緊張してるけど、お夕飯の仕度の時にはわりと気楽にお喋りしながら調理できるようになった。
それに、まず私が目の前でお鍋の中をしっかりかき混ぜてから口に入れて見せるからか、その後安心して味見をしてくれる。
今日の監視役は、104期のジャン・キルシュタインという背の高い男の子と、初日真っ先に料理を食べてくれた、サシャ・ブラウスという長い髪をポニーテールにした女の子。
「ほんと、アンナの作る飯うめえよ!」
『ありがとう、ジャン』
「…あっ!こらサシャ勝手につまみ食いするな!」
「んむぐ…やだなあジャン。つまみ食いなんてしてませんよお」
口元にしっかりシチューをつけて誤魔化すサシャ。
バレバレだって。
そう、今日の監視が2人なのは、サシャがつまみ食いしてみんなの分が無くなったら大変だからということで、調理の監視役のサシャをジャンが監視する為だった。
味見も終えて、私は食堂に移動する。
そしてテーブルに向かってノートを広げ、ペンを走らせる。
「何書いてんだ?…うお!何だその文字!」
「丸っこかったりカクカクしてたり、複雑な形のもありますね!」
私の手元を覗き込んだジャンが驚いたように声をあげ、サシャもつられて見にくる。
あ、そうか。私が日本語でメモしてるから、その文字が珍しいのか。
『今作ったメニューと、その具材をメモしてるんだよ。近い日でかぶらないようにしようと思って』
「へぇ〜!…にしても変わった文字ですね!」
「これはアンナの世界の言語か? 」
『うん。私がいた国の言葉。“日本語”っていうの。大体“平仮名”と“片仮名”と“漢字”っていう3種類の文字を組み合わせて文章にするんだよ』
アルファベットとか、アラビア数字とかもあるけど、説明が難しいからこれはいいや。
2人は興味津々で私が書いた日本語のメモを見ている。
「なあ、アンナの名前、書いてみてくれよ」
『いいよ』
ジャンに頼まれて、私はノートの後ろのほうに“神崎杏菜”と名前を書く。
「すげえ!なんかかっけぇ!」
「他にも何か書いてください!」
目をキラキラさせる2人。
『いいよ。…うーん…何書こうかな…あ!』
私は思いついた単語を書く。
“ごはん”と。
『ごはんって書いたよ』
「うわあ!なんて素敵な文字!!」
案の定、大喜びのサシャ。
すごいな。文字でも嬉しいんだ。
可愛くて笑ってしまう。
「俺の名前書いてくれよ!カンジで!」
「ずるい!私のも書いてください!」
うーん。当て字になるけどいいのかな。
私は頭をフル回転させて2人の名前に合いそうな漢字を引っ張り出す。
『ジャンは、“雀 樹瑠朱太院”。サシャは、“紗々(←こういう名前のお菓子があったような) 舞楽羽州”かなあ…』
片仮名の名前に漢字を当てると暴走族みたいになっちゃう。
まあ仕方ないか。
当の本人たちは、
「「おぉ〜!!」」
と大喜びしていた。
『ねえ。ジャン、サシャ。もしよかったらなんだけど、この世界の文字を教えてくれない?献立とか貼り出そうと思ったけど、自分のいた世界の文字はここでは伝わらないから…』
「なんだ、そんなことか!任せろ!」
「お安い御用ですよ!」
2人は快くこの世界の文字を教えてくれた。
1時間後。
「…すげえ。マジかよ……」
「たった1時間で読めちゃうもんなんですか?」
口をぽかんと開けて驚いてる2人。
『この世界の文字、よく見たら片仮名をひっくり返したような形してるの。だから覚えやすかったんだよね』
私が言うと2人は感心したような表情になった。
『ジャン、サシャ、ありがとう。これで献立を書いて貼り出せるよ』
「いいんですよお!これで献立見て、ごはんを楽しみに訓練頑張れます!」
「サシャは献立を貼り出されてなくても飯が楽しみだろ。…それより!さっきの俺の名前もっかい書いてくれよ!俺も覚えてえ!」
ジャンに頼まれて私はもう一度、彼の名前を漢字で書く。
彼も自分のメモ帳に、私が書いたのを見本に真剣に書き写して練習する。
その数日後、ジャンとサシャが“漢字”の名前を兵団の仲間たちに見せびらかしちゃったおかげで、104期のみんなは勿論、リヴァイ班の先輩方やハンジさんまで漢字での自分の名前の書き方を教わりに来て、しばらく食事の仕度と名前を教えるのとで大忙しの日々を送ることになったのでしたとさ。
つづく