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「おはよう」
と手話であらわした。
「あ、比奈子ちゃん。昨日のプリティ姫見た??」
小学校に通う同じクラスの齋藤 紬 が比奈子に声をかけた。
小学3年の比奈子が出す手話も大体わかってきた。
学校では、話すことはできないが、通常学級に通わせてくれた。耳が聞こえないわけじゃない。理解には早いため、先生たちも対応には混乱しなかった。それはそうだ。
前世の33歳の記憶を持っていれば大体のことはこなせてしまう。
手話は祖母の指導で覚えた。病気じゃないんだといったら、対応してくれた。
その頃、すでに果歩が交通事故に遭って亡くなってから5年は経っていた。
晃の実母の力を借りて、どうにか、小さな比奈子を大きく成長されることができた。
仕事はやめられないと父子家庭ということで優先的に保育園に入所できた。
送り迎えは、晃の母に頼んでいた。住む家は、建てた家を売り払って、晃の実家に住み始めた。
元々、住んでいた地域から車で10分程度しか離れていなかった。
果歩との離婚から絶対援助は受けないと絶縁状態だったが、さすがの晃も果歩が亡くなっては
どうしようもなく、子育てができないと実母を頼った。
果歩には他県に住んでいると嘘ついていた。
比奈子の学区は変更することなく、そのまま通うことができた。
徒歩通学で少し前より遠くなったが比奈子はなんとか通えた。
少し、育児方針で厳しい祖母だったが、前世で大体の性格を知っていた比奈子は対処方法を的確にわかっていた。
知っている人が祖母で逆でよかったと安心した。
嫌なところももちろんあるけれど、耐えられた。
昇降口に着くと、頭に何かがぶつかった。
「おっと、こんなところにあったのか」
前世の加藤龍次郎の記憶を持つ、佐々木隆二だ。同じ学校、同じ小学3年のクラスにいる。
人生2回目だからか、教室で真面目に授業を受けることができずにいつも机でいたずらしていることが多い。
その割にテストの点数は高い。
褒めたり、叱ったり、先生たちは対応に困っていた。
その様子を見て、比奈子はためいきをつく。
隆二は、比奈子の頭に体操着袋をぶつけてくる。
頭をおさえて殺気だった目で睨みつける。
「ちょっと、隆二! やめなさいよ」
紬は比奈子の味方をしてくれる心強かった。
「べーだ」
はい、小学生の演技している大人ですと言いたかった。多分、遊び足りなかったのかなとも思う。
ふざけるのも小学生のうちでしょうか。
比奈子はランドセルを背負い直して、教室へ向かう。
クラスのホームルームで、プリントが配られた。もうすぐ参観日があるというのだ。
比奈子は、誰も来れないだろうなと思いながらプリントを折り紙のように小さい四角の大きさまでずっと折り続けた。
(きっと、晃は休み取れないはずだ。もうすぐ、確定申告あるって言ってたからう無理だろうし、おばあちゃんも友達とパークゴルフ行くって言ってたなぁ)
近くに担任の先生が来た。
「比奈子さん? プリント折り曲げすぎです。必ずお父さんに見せてくださいね」
不機嫌な顔をして小さく頷いた。新しいプリントを差し出され、折り曲げすぎたプリントは先生に回収された。
父子家庭だと言うことはクラスみんなが知っていたが何だか恥ずかしかった。ほとんどの人が母親が参観日に
来るためだ。窓の外を見て、頬杖をついた。
(結局、晃に見せないといけないのか。おばあちゃんよりかは晃の方がいいけどな)
トンビが空高く飛んで、鳴いている。
比奈子は、背筋を伸ばして、真面目に授業を受け始めた。