テラーノベル
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「お前もナベも、拗らせてんなあ」
チャーシューを頬張りながら、ふっかが呟く。呟いている最中に、チャーシューの旨さに目を細めた。
「うま」
「お前、こんな話聞いて楽しいのかよ」
今度はどんぶりを抱え、スープを啜りながら、頷く。
「楽しいっていうか、必要だろうよ」
「必要?」
「聞いて欲しいから、こうして俺を誘ってるんだろ」
ごっそうさん。
そう言うと、ふっかの丼はもう空になっていた。外で待ってる、といい、狭いカウンターを抜けて出て行く。
撮影の合間に二人で立ち寄ったラーメン店。俺は汁を残して席を立った。
蝉の声がする。
夏も中盤に差し掛かっている。熱い日差しを深めの帽子で逃す。休憩時間ももう終わりだ。ロケ車に戻りながら、ふっかと並んで歩いた。
「想いのままにいくしかねぇんじゃねぇの」
「想いのまま」
あの日翔太が帰った後で、当人からメッセージが来ていた。
『ありがとう。でももう照の世話にはなりません』
あの夜。
舘さんと阿部を見送った後で、翔太は俺の胸で泣いた。堰を切ったように、そりゃあ、本当に可哀想になるくらいに泣いた。そして翔太が人知れず流す涙はこれで何度目になるのだろうと胸が苦しくなった。
そこに俺が割り込んだとしても、迷惑でしかないんじゃないだろうかとも思う。しかしふっかの見解は違った。
GOだ。
照。
行け。
なぜふっかが俺を焚き付けるのかわからない。わからないけど、この全幅の信頼を置いている親友の意見は、いつも俺の指針だった。
「深澤〜照〜どこ行ってたんだよ」
阿部の隣りに佐久間がいて、休憩中に姿を消した俺たちに真っ先に声を掛けて来た。舘さんは?と目でその姿を探すと、翔太の横で空気みたいに存在していた。
「ラーメン食いに行ってた」
ちらり、と俺を見ると、深澤は佐久間たちの方へと行く。俺はなんとなく取り残されて、康二の隣りに腰を下ろした。後方には目黒とラウールが並んで楽しそうに何か話している。
座り順に意味なんかない。
ないはずなのに、翔太の隣りに舘さんが座っているだけで胸がざわつくのはやはりそういうことなのだろう。阿部も俺と同じような感覚に陥ることがあるのだろうか。そっと気づかれぬように阿部を窺ったが、その穏やかな表情からは何も読み取れなかった。
◇◆◇◆
「翔太」
全ての撮影が終わり、楽屋を足早に出て行こうとする心なしか小さく見える背中を引き留める。阿部は舘さんと一緒に何処かへと去った後だ。肩を落として見えるのは、俺の気の所為なんかじゃない筈だ。
「サウナ行くなら俺も行く」
紙袋がガサリ、と揺れる。翔太が振り返って、逡巡したのが分かった。
「え!ええな!俺も行こかな」
「康二は俺とメシ行こうぜ」
ふっかが俺にだけ分かるようにウインクをして、康二の肩に腕を回した。翔太は少し緊張した面持ちで、それでも口を尖らせて、いいよ、と言った。
「早くしろよ」
もちろん荷物は纏めてあったから、そのまま翔太の腕を引いて、楽屋を出た。
エレベーターの中で二人きり。
相変わらず翔太は居心地が悪そうに、背中を向けたまま黙っていた。俺もなんて声を掛けたらいいか分からずに後ろに立ったままでいた。しかし、沈黙を破るべきはやはり俺だろう。
「サウナ終わったらさ、話、あるんだけど」
「聞きたくない」
にべもなく拒絶されて心が萎えかける。それでも一度発した言葉は取り返しがつかない。
「じゃ、今話す」
◇◆◇◆
「好きだ」
こんなに長いエレベーターは初めてだ。
そして目的階に到着する前に聞いてしまった。見ないようにしていた、照の気持ち。
何も答えず、地下駐車場に着いて、俺はそのまま開いた扉から駆け出そうとした。
けれど。
照の腕がしっかりと俺の手首を掴んで離さない。
「俺にどうしろって、言うんだよ」
ほとんど泣き声みたいな情けない声が出て、そのまま手を引かれて照の車に連れ込まれた。
「舘さんはもう翔太の一番じゃない。翔太だってわかってるんだろ」
涙が溢れた。膝の上の手が震えた。
「好きだ、翔太。俺といて」
コメント
10件
きたー!!続編😊
気になります〜‼️‼️