テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#オフィスラブ
湊未来
646
管野アリオ
37
月白
2,415
#かざね
第2章 りな
───
わたしは、たぶん、普通だ。
成績は真ん中。部活はやっていない。好きな食べ物を聞かれたら「なんでも」と答える。誕生日に何がほしいか聞かれると、いつも困る。ほしいものが思いつかないからだ。
真崎さんに「超常現象研究会に入らないか」と言われたとき、「おもしろそう」と答えたけど、あれも本当は、断る理由が思いつかなかっただけだった。
でも、入ってよかったと思っている。
三人で歩くのは、楽しい。
◇
四月。研究会は、休みのたびにどこかへ行った。
駅の裏の、誰も手入れしていないお稲荷さん。隣町の、水の枯れた古い井戸。廃校になった小学校の、誰かが夜に窓を叩くと噂の校舎。
ことはが調べてきて、みずきが写真を撮って、わたしが真ん中を歩く。
役割みたいなものは、自然に決まった。ことはは前を歩いて喋る。みずきは後ろで黙って撮る。わたしはふたりの間にいる。それでちょうどよかった。
その日は、町の北の山にある古い神社だった。
石段が二百段近くあって、途中で三人とも黙った。登りきると、境内は思ったより広くて、誰もいなかった。
そこで、ことはが初めて話した。
なぜ研究会を作ったのか。
古本屋のこと。店長のこと。あの雨の夜のこと。
わたしはそれを、ことはが最初に誘ってきたときには聞いていなかった。「不思議なことを調べたい」としか聞いていなかった。
ことはは、拝殿の前の石に座って、淡々と話した。淡々と話せるようになるまでに、たぶんすごく時間がかかったんだろうと思った。
「だから、わたしは、お父さんが助けてくれたと思ってる」
みずきは何も言わなかった。
わたしは「そっか」と言った。それが精一杯だった。
◇
そのあと、わたしは石段を少し降りて、脇道に入った。
トイレを探していたわけでもなく、ただ、少しひとりになりたかった。ことはの話が、思ったより胸に残っていた。
脇道の先に、古い手水舎があった。屋根が傾いていて、水は出ていなかった。
その縁に、男の子が座っていた。
詰襟の、黒い制服。うちの学校のじゃない。というより、今どき見ない型だった。
わたしは足を止めた。
彼はこっちを見て、一瞬固まった。
「……見えてる?」
「え?」
「ぼくのこと、見えてる?」
変なことを聞く人だな、と思った。
「見えてるけど」
彼は目を丸くして、それから、変な顔で笑った。
「久しぶりだな。そういうの」
◇
そのとき、上のほうから声がした。
「りなー」
ことはだった。石段を降りてくる音がする。
わたしは振り返った。ことはが脇道の入口に顔を出す。
「ここ、なんかあった?」
わたしは彼のほうを見た。彼は動かなかった。手水舎の縁に座ったまま、ことはを見ていた。
ことはは、彼のいるところを、まっすぐ見た。
「……そこ、何かある?」
彼の、真横だった。
わたしは息を吸った。
「なんでもない。古い手水舎があっただけ」
「あ、写真撮っとこ。みずきー」
ことはは石段を戻っていった。
わたしは動けなかった。
彼が、静かに言った。
「あの子」
「え」
「本屋の子だろ。元気になった?」
心臓が、変な音を立てた。
「なんで、それ」
彼は手水舎の縁から降りた。降りたのに、足音がしなかった。
「押しのけたの、ぼくだから」
◇
その日、帰りの電車で、ことははずっとお父さんの話をしていた。
わたしは窓の外を見ていた。
これは、言えない。
そう思ったのが、たぶん、わたしがついた最初の嘘だった。
コメント
1件
ああーもう、ここすごすぎた!!😭💕 りな視点で静かに始まる日常、三人の絶妙な距離感、そして古い手水舎のあの子……「見えてる?」の問いかけ、一瞬で空気変わったよね。 最後の「言えない」で、りなが初めてついた嘘の重みがじわじわ来る……この伏線、次が気になりすぎるよ!!