テラーノベル
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次の日の放課後、わたしはひとりで神社に行った。
行く理由を、自分でもうまく説明できなかった。確かめたかったのかもしれない。昨日のあれが、本当だったのかどうか。
石段を登りきると、彼は昨日と同じ場所にいた。
「来ると思わなかった」
「わたしも」
彼は、名前を「透」だと言った。とおる。
「古い名前だね」
「古いから」
いつからここにいるのか聞いたら、分からないと言った。自分が何年生まれかも、どうしてこうなったのかも、覚えていないらしい。ただ、この町から出られないこと、誰にも見えないこと、それだけは分かっていると。
「ずっと?」
「たまに、見える人がいる。小さい子とか。でも、すぐ見えなくなる」
「なんで」
「さあ。大きくなると、いろいろ持つから、じゃないかな」
透は、わたしを見た。
「君は、空いてる気がする」
失礼だな、と思った。でも、否定できなかった。
◇
「これ、見て」
透は片手を上げて、境内の奥の木のほうにかざした。
木が、透けて見えた。
手の向こうに、木の幹の模様がうっすらと見えた。
「……なに、それ」
「薄くなってる」
「え」
「押しのけると、減るんだ。本屋の日は、だいぶ使った」
ことはの店で、棚の本をぜんぶ落として、電気を消して、あの人を止めた。その分だけ、この人は減った。
「減ったら、どうなるの」
「たぶん、なくなる」
透は、それを天気の話みたいに言った。
わたしは、言葉を探した。見つからなかった。
「じゃあ、やらなきゃいいじゃん」
「見えてるのに、見てるだけって、できる?」
できる、と答えようとして、できなかった。
わたしは、たぶん、見てるだけの人間だ。ずっとそうだった。誰かが困っていても、自分が動かなくても誰かがやる、と思っていた。それで困ったことはなかった。
透は、違うらしい。
◇
帰るとき、わたしは手を伸ばした。
彼の手に、触れようとした。
冷たい水の中に、手を入れたみたいだった。感触はあるのに、掴めない。指が、彼の指の中を通っていく。
透は、少し困った顔をした。
「ごめん」
「なんで謝るの」
わたしがそう言ったとき、ふと、ことはの声を思い出した。
◇
石段を降りる途中で、わたしは気づいた。
明日も来たい、と思っていた。
誰にも言われていないのに、自分から、そう思っていた。
ほしいものが思いつかない、と言い続けてきた人間が、初めて何かをほしいと思った気がした。
それが、消えていく人だった。
その日から、わたしは毎日、彼がどれくらい薄くなっているかを、数えるようになった。
コメント
1件
うわあ…第6話、すごく切なくて胸がぎゅってなった😢💔 「空いてる気がする」って言われた主人公が、透に触れようとしてすり抜けるシーン、映像が浮かぶみたいだった…。 「初めて何かをほしいと思った気がした/それが消えていく人だった」ってラスト、エモすぎて声出たよ…! この物語、静かなのにすごく心に刺さる。続きめっちゃ気になる…!✨
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