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トットットっと階段を降りる音がつぶやいた。ガラガラっと引き戸が開き、優奈は眠たそうな目を擦りながらリビングに入った。水道が蛇口から出る音が優奈の眠気を少しずつ遠ざける。リビングでは1枚1枚食器を丁寧に洗う母の姿があった。リビングからは、人気の飲料水の広告の音がテレビから流れている。
優奈はリビングを歩きテレビのある居間に向かってゆっくり歩いた。そこには、リビングでのんびりしながら、片手に炭酸飲料の入ったペットボトル、そしてもう片手にはテレビのリモコンを握りテレビを見ていた優奈の弟、修也がいた。修也はゆっくり首を動かし彼女の方を見た。
「どうしたんだよ姉さん。目が死んでるけど」
優奈はゆっくり修也の横に座りながらテレビの画面を見る。
「帰ってきてからずっと学校の課題してたのよね…。てか、修也。あんたは課題とかないわけ…?」
修也は目を逸らし、目を細めた。宿題なんてしていない、それが修也の答えだと優奈は一瞬で察した。
「はぁ…、あんた大丈夫なわけ…?もうすぐ中間でしょ?」
「中間テストは範囲が狭いから余裕なの〜…」
修也は目を逸らしながら番組の広告が終わるのを待っていた。広告の音楽が終わると同時に番組が再開される。
『さぁー!今夜もやってまいりました゛暴くぜ!真実!゛今夜もテレビの前の皆さんを、不思議な世界にお連れしますよぉー!』
「おっ!暴くぜ!真実やってんじゃんー」
「暴くぜ真実…?」
近くにあったジュースのペットボトルを取りながら優奈は修也に尋ねた。
「姉さん知らないの?暴くぜ真実。今人気のオカルト調査番組だよ。」
「オカルト…?あんたそんなの信じるタイプなの…?」
修也は手のひらを優奈の前に出しゆっくり左右に振った。
「いやいや…幽霊とかUFOとか信じないから。でも、今夜の暴くぜ真実は…」
修也の言葉が途切れると同時にテレビからタイトル発表がされた。
『今夜の暴くぜ!真実!の特集内容は……今後80年以内に日本を襲う南海の悪魔!南海トラフ地震についてお届けします!』
ペットボトルからシュッと炭酸が抜ける音がした。優奈はゆっくり炭酸飲料を飲みながら言う。
「南海トラフ地震?」
「えぇ…姉さん南海トラフ地震だよ。南海トラフ地震…さすがに知ってるでしょ?」
「まぁ…南海トラフ地震くらいは知ってるわよ。でも詳しくは知らないわ」
修也は全く興味が無さそうな優奈に目を細め、スマホを取り出し南海トラフ地震について検索をかけた。検索結果画面を修也は優奈の目の前に突き出した。
「九州から関東に向かって通っているのが南海トラフ。で、ひずみが溜まっていってるのはここ」
「四国のほぼ真下じゃない…?」
スマホの画面を見つめながら優奈は修也に言う。
「そう。で、ここ和歌山の下にもプレートが通っているんだ。」
優奈は修也の知らない地震への知識に疑問をいだいていた。
「…あんた地震にそんな詳しかったっけ…?もしかしてそういう道に進みたいの?」
「……ちげぇよ。ただ気象庁に入るのを目指してる友達にこれでもかってくらい知識を教えられただけ…」
「ふーん」
優奈は素っ気ない返事を返した。2人はテレビの方に目をやる。
『さて、今回は有名予言占い師の東山楓さんにお越しいただいております!東山さんよろしくお願いします!』
司会の男性の声と共にテレビの画面には、スタジオの中心に座る一人の女性占い師が映された。
『さて、本日は有名予言占い師の東山さんに、南海トラフ地震はいつくるのか!について目の前で占っていただきましょう!それでは東山さん…!お願いします!』
女性占い師はカメラに向かって一礼しタロットカードのようなものを静かにシャッフルし、目の前に置かれた赤い木の机に何枚かカードを置いた。そして、1枚ずつカードをめくる。女性占い師は目をしかめ、ゆっくり司会の方を向く。
『非常に縁起の悪いカードが複数出ています。特にこのカード。』
1枚のカードが画面に向かって映された。それは太陽が沈み、人々が災いにのまれるような絵が描かれたカードだった。女性占い師はカードの説明を語る。
『これは、天日不昇来不というカードです。意味としては、太陽は2度昇らず、人々は災いの下で永遠を来す。という意味です。南海トラフ地震と照らし合わせると…非常に縁起の悪いカードです。』
テレビ越しからも会場のざわつきが伝わってきた。修也は目を見開き言う。
「えっ…!?それってやばいんじゃ…」
「ちょっと修也、なに占いに本気になってるのよ。こんなのって何の根拠もないじゃない?」
優奈は占いの結果を否定するかのように言った。しかし、同時に修也の不安を取り除いた。
「そ、そうだよな…」
テレビの画面からは依然と会場のざわつきが伝わってくる。
『そして、このカードが出たと言うことは、南海トラフ地震は近日…いや少なくとも明日には起こる…っと予言できます。』
占い師の言葉が会場をさらにざわつかせた。修也は片手に持つテレビのリモコンを画面に向けテレビの電源を落とした。
「…怖くなってきたからもういいや…そろそろ寝よう」
修也はそういい何も言わずリビングを出て階段を上がっていった。優奈の横にはテレビのリモコンと修也がさっきまで飲んでいた炭酸飲料が置かれていた。優奈もその少し複雑な気持ちを抑えつつ、修也の後に続くようにリビングを出て、自室に向かった。自室の学習机の上には、少量の消しカスと学校の課題が置かれていた。
優奈は消しカスを手で払い蛍光灯を消す。暗い部屋を歩きベッドに横になった優奈はそのまま眠気に体を任せた。
翌朝、優奈はゆっくり目を覚ました。外から聞こえる鳥のさえずりが心地よい。その時、優しくトントンっとドアがノックされた。ドアが開くとゆっくり優奈の母が入ってきた。
「ちょっと優奈?学校遅れるわよ?」
「うぅ…あっ…ごめんお母さん。今起きるね…」
優奈はゆっくり体を起こし背伸びをした。
「朝ごはん用意してあるから、着替えておいでね。」
優奈の母はそう言うと部屋を後にした。優奈はゆっくり立ち上がり、鏡の前で寝間着から学校の制服に着替えた。
優奈が階段を降りリビングに向かうと、そこには朝食を食べる制服姿の修也がいた。
「あっ、姉さんおはよ。早く朝ごはん食べなよ。」
修也は朝食を食べ終え、学ランを持ってリビングを後にし家を出た。優奈はゆっくり朝食の前に座り、朝食を食べ始める。テレビからは朝のニュースと天気予報が流れていた。すると、テレビの画面が切り替わり、画面右上に[速報]っと出た。
『番組の途中ですが速報です。フィリピンプレートを震源とするマグニチュード6の地震が起こりした。この地震による津波の心配はありません。海上保安庁は震源地近海の民間船舶に退避を促しています…』
優奈は昨夜の番組の予言を思い出した。しかし、まさか…っと心のなかで済ませ深くは考えなかった。優奈は朝食を食べ終えカバンを持ち玄関に向かった。
「優奈!弁当!」
母が靴を履く優奈に弁当を差し出した。
「あっ!忘れてた…ごめん。ありがとう。じゃあ!行ってきます!」
「いってらっしゃい…!」
優奈はドアを開け家を出た。
しかし彼女は思ってもみなかっただろう。この会話が、母との最後の会話になるということを…
第一章 終
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