14 ◇大石直也と渡辺玄帥と……石田唯と渡辺恵子らの混戦模様
石田唯は大石直也という婚約者のある身でありながら、直属の上司と
不倫をしていた。
やがてというべきか、案の定というべきか、しかしそれは前触れもなく突如として……
来たるべき日がやってくるのであった。
上司の渡辺の妻に自分たちのことが知れることになり、会社に乗り込んできたことから、
石田の婚約者である大石をも巻き込んでの社内中がてんやわんやの大波乱となった。
実際てんやわんやしたのは勿論当事者だけで、外野は皆一生のうちにあるかないかの
男女の爛れた関係の揉め事に興味津々で、ついつい下品だと思いつつも野次馬根性を
隠すことができなかった。
人の不幸は密の味がするのである。
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直也は『ただの気の迷いだった。予定通りあなたと結婚したい』と唯が
縋りついてくるものと思っていた。
謝罪があれば惚れている弱みで、両家両親たちには内緒にし予定通り結婚しても
いいと考えていた。
それなのに……渡辺の妻が彼に離婚を切り出したことを知ると、浮気相手に甘んじていた唯は、
渡辺が自分と結婚してくれるかもしれないという可能性を見出したため、直也に対して
誠意のある謝罪はせず『私が好きなのは渡辺さんなの。
だからあなたとは結婚できない』と言い放った。
いくら惚れていても、ここまで小馬鹿にされればいっぺんに
目が覚めるというもの。
何もかも許して結婚しようとしていた直也の怒りは凄まじかった。
唯は婚約者から婚約破棄された上、慰謝料を請求されることとなる。
もちろん婚約指輪代などの返金も要求される羽目に。
そして婚約者の大石直也に対して強気に出られる根拠となった渡辺との縁も、
渡辺からきっちりと引導を渡され、石田唯は捨てられる形で切り捨てられたのだった。
散々妻のことを蔑ろにしてきて長期に亘り外で女を作り
浮気三昧の限りを尽くしてきたというのに、何故か渡辺玄帥は妻とは離婚しないと
ゴネてなかなか離婚の判をつこうとはしなかった。
長年渡辺が余裕で浮気ができたのは、妻が自分に惚れている故黙認しているのだと
理解し、惚れられているのだから多少のことは許されて当然とばかりに、
惚れられていることに胡坐をかいていたことによる点が大きかった。
だが、妻に証拠を押さえられ離婚を言い渡されたことで、妻が自分に離婚を
申し渡してくることもあるという現実に初めて気付いたような有様で、渡辺は
戸惑うばかりだった。
石田は若くて美人だ。
だが、その石田に『結婚してほしい』と言われても微塵も妻にしたいとは
思えなかった。
婚約者がいながら……
尚且つ結婚を目前にしながら……
他の男に現を抜かすような女はご免だった。
遊ぶのにはいいが、生涯を共にできるような人間ではない。
自分が遊んできたからこその、徹底した線引きだった。
そんな女と、心許せる健全な家庭が築けるはずもない。
それくらいは、渡辺にも分かっていたからだ。
とにかく、しばらくの間判を押さず渡辺は妻の恵子にひたすら謝罪を繰り返し
詫びを入れる日々を過ごした。
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