「ミラリネは身体能力が高く、護衛に向いています。明日、王宮の騎士の選抜試験をするのですが、そこにもミラリネがたくさん参加してきます」
ミランダが僕に戸惑いながらも話しかけてくるのは、先ほど僕の瞳の色を批判するようなことを言ったことを気にしているのだろう。
「王宮の騎士団を強くしたいのですか? ミラリネを受け入れることは、猛獣を王宮で飼うのと一緒ですよ。味方か敵か分からない人間を近くに置くことは危険です。それと、紫色の瞳の件は僕も根拠がなく無意味な話だと思っています。紫色の瞳の色が皇族の血が濃いという話がどうして生まれたか知っていますか?初代皇帝は37人の皇子全てが自分の子かどうか信じられませんでした。唯一、自分の瞳の色を受け継いだ子供を次期皇帝に指名したのです。その子の瞳が紫色だったというだけの話です。この瞳の色の神話はそういった人の疑惑を生み出したのです。だから、エスパルのような根拠のない王族に神の血が流れているという話とは違います」
僕が話を聞いてなぜか彼女は申し訳なさそうにした。
この話は別に解釈がそれぞれなだけで皆知っている話だ。
彼女はどうして初めて聞いたような顔をしたのだろう。
この間から彼女の反応が予想外で、僕は目が離せなくなっている。
「そうだったのですね。夫に自分の子かどうか疑われるのは苦しいですよね」
ミランダが7歳とは思えないような発言が増えたのはなぜだろう。
女王になって国を守る決意をして、早く大人になりたいと思ったのだろうか。
そういえば、ミラ国は一夫一妻制に法改正したと聞いた。
ミランダの発案だと聞いたが、彼女の望みはなんなんだろう。
「ミランダ、ただ1人の妻として愛されたいですか? 僕はミランダと結婚したらミランダだけを愛し抜きますよ」
彼女が欲しい言葉をあげたくて言ったつもりだが、彼女は複雑そうな表情をした。
♢♢♢
「ミラ王家め、ミラリネに謝罪しろ」
突然、突進してきたミラリネだろう男は恐ろしいほどのスピードだった。
確かに身体能力は人間ものものとは思えなく、まるで狩猟するのが得意な獣のようだ。
帝国の騎士達も呆気に取られている。
気がつけば、彼は僕とミランダの前にいて僕は慌てて彼の持っていたナイフのようなものを払った。
「うわー!」
その途端、帝国の騎士たちが突進してきたミラリネを切り殺した。
一瞬、彼女の護衛騎士が放心としているのが見えた。
ミランダの護衛騎士のくせに同胞を攻撃することに躊躇したのだろう。
「ラキアス皇子殿下、血が出ております」
僕は言われて初めて、少し擦ったような傷が手にあるのに気がついた。
自分の血を見るのははじめてで、驚いたせいかクラクラしてくる。
「ミラ国の帝国への攻撃と見做しますよ。ミラ国は覚悟してください」
僕の補佐官の言葉に、ミランダが怯えたように震えているのが見えた。
「僕のミスで怪我をしただけだ。国家間の争いになるような言動は控えなさい」
僕はミランダの不安を取り除きたくて、手を挙げて補佐官に言った。
思ったよりも血が出ていたようで、手のひらから手首に血が伝わってく。
僕にも普通の血が流れていたのかと、ぼんやり思っていたら世界が暗転した。
♢♢♢
「ラキアス、申し訳ございませんでした」
目を開けると、泣き腫らしたようなミランダの顔がそこにあった。
手を見ると包帯がぐるぐる巻いてある。
このような怪我をして帝国に帰ったら帝国は軍を挙げてミラ国に報復しそうだ。
ミランダはそのことが不安で泣いていたのだろうか。
「ミランダ、問題ありません。でも、怪我が治るまでミラ国においてもらえませんか?」
僕が言った言葉の意味を察したのか、ミランダは僕の手をぎゅっとして頬に添えてきた。
「はい、ここにいてください。先ほどのミラリネの暴走の件は申し訳ございませんでした。ミラ王家はかなりミラリネから恨まれているのですね」
「恨んでいる方も、そうでない方もいると思います。ミランダの護衛騎士はミラ国を恨んでいるのではなく助けたいと考えていると思いますよ。先程、僕が彼に対して意地悪を言ったのは、ミランダの心が彼にあるのではないかとヤキモチを妬いたからです。でも、彼は同胞を攻撃できない弱点を抱えてそうですね。相手が誰であろうとあなたを守る人間を側においてください。僕なんてちょうど良いと思いますよ」
少し血を見たくらいで失神してしまって情けないが、僕は正直に今の気持ちを伝えた。
僕は彼にヤキモチを妬いたのだ、そして彼女を守るのは自分でありたいと思った。
「ラキアス、私のことを好きになってくれてありがとうございます」
彼女は僕の顔をじっと見て、頬に口づけをしてきた。
傾国の美女とはこうやって君主を誑かしていくのだろうかとぼんやり思った。
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