10月26日 PM1:00
兵頭会本家から数キロ離れた場所に1台の車が停まっていた。
車内にいたのは八代和樹と晶の2人で、部屋に仕掛けた盗聴器を使って会話を聞いている所だった。
八代和樹と行動を共にする数日前、兵頭雪哉にバレないように、晶が本家に忍び込み仕掛けていた。
「しかし、よく仕掛けられたな…。バレたら、殺されるだろ」
「雪哉さんが今、周りに気を掛けてる場合じゃねーんだよ。あの人は他人に隙を作ったりしない、ましてや本家の警備もいつも手薄にしたりもしない。それなのにここ数日、本家の置いている組員の数がかなり減っていた」
「晶は知ってんのか?兵頭雪哉がそうなった理由」
「盗聴器を仕掛ける時、四郎に関する資料がテーブルに置いてあった。その資料に、四郎が若の腹違いの弟だって書いてあった」
晶の言葉を聞いた八代和樹は、飲んで缶コーヒーを噴き出しそうになった。
「ゴホッ、ゴホッ!!!し、四郎君が弟!?兵頭拓也のか!?」
「汚ねえな…、よくある話だろ。他所で女作って孕ませたって、雪哉さんもそうだった。確かに言われてみれば、四郎と若は顔がよく似てた。だからだったのか」
「何が?」
「…」
八代和樹の問い掛けに答えずに、缶コーヒーを口に運ぶ。
神楽ヨウと離れてから不眠症になってしまった晶は、何故か四郎といる時だけは眠れていた。
四郎に対して謎の安心感と懐かしさを感じ、自分に絶
対に手を出して来ないと謎の確信があった。
晶自身も長年疑問に感じていた事が資料1枚で解決してまい、四郎が肺癌の事も知ってしまったのだ。
「四郎が今、ステージ4の肺癌で他の事に頭が回らないのは当然だ」
「おいおい、サラッと言ったけどよ。四郎君が肺癌で、しかもステージ4だと?入院は…、出来ないのか」
「静かにしろよ、2人の会話が聞こえないだろ」
「わ、悪い」
晶と八代和樹は再び、兵頭雪哉と神楽ヨウの会話に耳を傾ける。
「四郎君の行方不明、椿恭弥が動き出したって事ですよ。何故、椿恭弥が動き出したと思います?
四郎君が、拓也さんと腹違いの兄弟って知ったからです。闇闘技行のVIPルームに資料が落ちていたでしょう?」
「三郎は見ていたが、俺は見ていない。椿が四郎だけを狙う理由は」
兵頭雪哉の質問を聞いた神楽ヨウは溜め息を吐きながら答える。
「単純な話ですよ、アイツは四郎君を拓也さんと重ねて見ているんです。分かりますよね?椿恭弥は、拓也さんの事が恋愛感情して好きなんです。アイツは、四郎君と一緒にいる気なんですよ。その為に奴は別宅を買ったんです。拓也さんとの思い出のある軽井沢に」
「そう言う事だったのか、椿が若の周りに居た人間を痛め付けていたのは」
兵頭雪哉と神楽ヨウの会話を聞いていた晶は、中学の頃の椿恭弥の行動を思い出していた。
***
兵頭拓也と付き合っていた女達は皆、浮気をして兵頭拓也の事を振っていた。
今まで付き合う女が同じように他の男に寝取られ、その男の元に戻っても捨てられると言うパターンが出来上がっていたのだ。
神楽ヨウから話を聞いていた晶は、兵頭拓也の歴代の女に手を出しているのは同一人物だと、考えが付いていたのだが…。
調べと言われていなかったからか、晶もそこまで気に留めていなかった。
そのまま時が過ぎ、兵頭雪哉が若頭就任式の時に、晶にだけ当時の事を話したのだ。
「晶には感謝しているよ」
「は?何だよ、いきなり」
「君、神楽ヨウと付き合ってるんでしょ?お陰で、アイツがあまり本家に来なくなった」
椿恭弥は本当に嬉しそうに、晶に向かって微笑む。
「だから、俺に感謝してるって?笑えるな」
「晶の僕に対する悪態も可愛く見えるよ。だからさ、今まで言いたかった事があったんだよね。別に君じゃなくても良いんだけど、誰でも良いから言いたい時ってあるじゃん?」
「キモッ、大した事じゃねーだろ」
「拓也の女を寝取って来たのは僕なんだよね」
突然の椿恭弥の発言に、無表情の晶も驚きの表情を見せてしまう。
「あははは!!!晶の驚いた顔、初めて見たんだけど!!!面白いね」
「お前、正気か?さすがにおかしいだろ」
「おかしい?何が?拓也に近付く女はみんな、ヤクザの兵頭会の組長の彼女って言うブランドが欲しい奴等だったよ。僕は顔が良い方らしくて、甘い言葉を吐いたら簡単に落ちたよ」
「若の為にやっただけじゃねーだろ」
晶の言葉を聞いた椿恭弥は、壁にもたれながら答える。
「そんなの当たり前じゃん、拓也にはそう言った方が好かれるだろ?拓也と別れさせて、傷付ける為。馬鹿女共は拓也と別れた後、すぐに僕の元に来たよ。そう言う馬鹿女が好きな男達に回して、犯されてる途中で騙されてる事に気がつく瞬間は最高に面白い」
その時の椿恭弥の表情は、おもちゃを貰った子供のような嬉しい表情をしていた。
***
椿恭弥の行動は全て、兵頭拓也の事が好きなだけだった事に気が付いた晶は、思わず頭を抱えてしまった。
「雪哉さんが四郎君の事を心配するのは、分かりますよ。拓也さんが…、ガサガサッ…。少し、席を外します」
盗聴器の会話を聞いていた晶の耳に、物を探すような物音が小さな音が聞こえた。
兵頭会の本家の前で待機していた組員の1人が、スマホを耳に当て始める。
その様子を見ていた晶は、すぐに八代和樹に指示を出す。
「おい、車を出せ」
「何でまた…」
八代和樹が戸惑う中、門の前で待機していた組員達が慌ただしく駐車場の方に走り出した。
「いいから早くしろ!!!盗聴器の存在がヨウにバレたからだよ!!!」
「なっ!?マジか、分かった」
急いでを走らせたが、後方から数台の車が追って来ているのがサイドミラーで確認出来た。
「ヨウの奴、どうして分かったんだ!?」
「アイツは常に気を張って行動してるし、記憶力がめちゃくちゃ良い。雪哉さんの部屋の構造も家具の配置も、覚えてるから少しの変化も見逃さない。俺が仕掛けた時に戻した家具の位置が、少しズレてたのに気付いたんだ」
晶の予想通り、神楽ヨウは兵頭雪哉が座っている椅子の横に飾られている龍の置物が、ほんの数ミリ右にズレている事に気が付いた。
兵頭雪哉とお話しながら置物の位置の変化に気付き、置物を持ち上げ後ろ側を見ようとしたした時、岡崎伊
織が声を出すのを、自身の唇に指を当てて静止させる。
神楽ヨウはそのまま龍の置物の後ろ側を見ると、黄色の光が小さく点滅している小型の盗聴器が付けられていたのだ。
接着剤か何かで付けれてい盗聴器を見た神楽ヨウは、部屋を出て自分の組員に連絡を入れた。
「もしもし、竹?僕だけど。本家に盗聴器が仕掛けられてたから、周囲に車が停まってないか確認して。もし、走り出す車が居たら追い掛けて連れて来い」
「分かりました」
竹に指示出した神楽ヨウは部屋に戻り、兵頭雪哉を睨み付けながら龍の置物を床に叩き付けた。
ガシャーンッ!!!
大きな破壊音と共に重苦しい空気と静寂が訪れ、少しの間の沈黙を破ったのは神楽ヨウだった。
「雪哉さん、勘弁して下さいよ。何、盗聴器仕掛けられてんですか。しっかりして下さいよ、マジで」
「す、すまん…」
「おい、ヨウ。頭に対して、高圧的な口調で話すのやめろ。お前は兵頭会の傘下に入ってる組の息子だって事、自覚してねーのか。兵頭会は神楽組より上なんだよ」
神楽ヨウと兵頭雪哉の会話に割って入った岡崎伊織は、神楽ヨウの前に立ちながら睨み付ける。
「雪哉さん、貴方が動く気がないなら良いです。ただ、就任式の場を設けてくれれば十分ですよ。それと、僕のやる事に口を出さないで下さい。勿論、僕も貴方がやろうとしいている事に口は出しません」
「…、分かった」
「頭!?」
神楽ヨウの申し出を了承した兵頭雪哉の返答を聞き、岡崎伊織は目を丸くさせた。
「お前の若頭就任式の場をすぐに儲けよう。参加の組と椿会への連絡は、伊織に任せる」
「ありがとうございます、僕はこれで失礼します」
涼しい顔をして部屋を出て行った神楽ヨウの後を岡崎伊織は、すぐに後を追い神楽ヨウの肩を強く掴む。
ガシッ!!!
「おい、ヨウ!!!お前、こないだから親父に対する態度はなんだ」
「丁度良かった、貴方とサシで話したかったんですよ」
「…、俺が追い掛けてくるように仕向けたな」
「えぇ、雪哉さんが居たら本音で話せないでしょ?伊織さんが僕と同じ思いなのも、知っていますから」
神楽ヨウの言葉を聞いた岡崎伊織は口籠る。
「僕は一度だって、忘れた事はありません。拓也さんが殺されて、雪哉さんよりも早く霊安室に来た貴方を」
冷たくなった兵頭拓也の体に触れ、その場で泣き崩れた岡崎伊織を神楽ヨウは鮮明に覚えていた。
父親の立場に近い位置にいた岡崎伊織は、兵頭雪哉よりも父親としての泣き方をし、心に穴が空いたような廃人化していた。
「貴方の復讐の炎は小さくなっていない、今もまだ燃え続けてる。伊織さん、雪哉さんの中で四郎君の存在が大きくなって来ています。貴方は違う、拓也さんをまだ忘れていない。だから、僕は貴方が必要なんです」
「俺は四郎の事も小さい時から見てきて、殺し屋としての知識を叩き込んだ…。俺も、四郎の事を拓也と重ねて見ていた所はある。だが、血は繋がっていても顔が似ていても、アイツは拓也じゃないんだよな…」
そう言った岡崎伊織は悲しげに笑い、神楽ヨウの方に顔を向ける。
「椿恭弥を殺さない限り、四郎もモモちゃんも殺される危険性はある。ヨウ、四郎の代わりに俺を使え」
「へぇ、そう来ますか」
「俺も良い歳だし、この先の未来に希望もねーよ、拓也が死んでからな。お前にこき使われてやるって言ってるんだ」
「今はそれで手を打ちましょう。貴方には神楽組に入って貰いますから、兵頭会を抜けて下さい」
神楽ヨウの言葉を聞いた岡崎伊織は、もはや神楽ヨウの命令を受け入れるしかなかった。
***
10月26日 PM5:30 軽井沢のとある一角の部屋
CASE 四郎
モモの母親、白雪からの話を聞いていて、何か違和感を感じていた。
椿恭弥が恋愛感情として兵頭拓也の事が好きで、白雪の事を恨んで殺そうとしている理屈はつく。
白雪と兵頭拓也の子供であるモモも、椿恭弥が殺そう
としてるのにも説明がつく。
だが、兵頭拓也が椿恭弥に殺される理由は?
この女の口からは、兵頭拓也との省略された恋愛話を聞かされているだけだ。
一目惚れをすると言う事はあり得る話だが…、何かが引っ掛かる。
何だ、この違和感は…。
「どうしたの?ボーッとして」
白雪の声掛けで我に帰り、ハッとしたまま白雪の方に視線を向けた。
この女のJewelryPupilyには光がない。
不気味な程に黒色を帯びたイエロースキャポライトの瞳を見ると、この女の不気味さが増して行く。
あの魚が死んだような生気がない瞳を、生きた状態の人間で見たのは初めてだ。
隣にいる女から危険な匂いがする。
「兵頭拓也の死を最初に見たのは、誰なんだ」
俺の言葉を聞いた白雪の上瞼が一瞬だけ座り、女の感情が動いた瞬間だった。
「あの男が殺したんだから、最初に拓也の死を見たのはアイツよ。貴方達もヨウから聞いてたんじゃないの」
「詳しい事は聞いていない、聞く暇もなかったからな」
「そう…、時間がなかったのも無理はないわね。私達の子供を守ってくれてたんだから…」
白雪が俺の顔に手を伸ばしてきたが、俺は反射的に白雪の手を叩いた。
パシンッ!!!
まさか手を叩かれるとは思っていなかったのか、白雪は目を丸くさせている。
俺は生きてきて、色んな人間を見てきた。
コイツは危険な野郎なのか、そうじゃないのかくらいは分かる。
大体の事は直感で感じているが、白雪を直感的に危険だと判断した。
この女は、何か他に隠している事があるのは間違いない。
俺にも神楽ヨウにも、うちのボスにも誰にも言っていない事かもしれねぇ。
「アンタ、深く聞いてこないんだな」
「え?」
「守るとは言え、モモの事を闇市場に置いただろ」
「だって、聞いたら元気だって答えたじゃない」
白雪はキョトンとしながら答える姿を見て、母親ってこんな感じなのかと思った。
普通の母親がどんなものか、俺は知らない。
俺は母親に首を絞められ、殺されかけたからな。
「普通なら、俺達と出会う前の事と出会った後の事を知りたいんじゃないのか。自分の子供が、モモがどんな風に成長しているのか知りたくないのか」
「雪哉さんが私達の子供を死なせる訳がないもの、死んだかの心配はしていなかった。モモも私と同じで、不思議な力を持っている。簡単に死なない」
「アンタ、本気で言ってんのか」
「本気だって言ったら、私の事を殺す?私の胸ぐらを掴んでるけど」
いつの間にか、俺は白雪の胸ぐらを掴んでいた。
白雪の言葉を聞いて、手が勝手に出てしまっていたらしい。
モモの事を知ろうとしない白雪に、腹の底から何かが湧き上がってくる。
「モモは普通のガキと違って、大人の汚い部分を見て来た。妙に、大人顔向けな言葉を吐く事がある。ただモモだって、まだ6歳のガキだ。母親のアンタが、モモの事を知ろうとしないんだよ」
「あの子を産んだ事を後悔した事は、今まで一度もない。その理由、貴方には分かる?」
「は?」
「貴方はモモの事を好いていてくれてる。だから、私の言葉を聞いて怒るのでしょうね」
意味の分からない言葉を並べ出しながら、俺の目を覗き込む。
「子供を産む理由なんて、いくらでもあるって事。欲しいから産む、後継を残す為に産む、中絶する金がないから産む、金になるから産むとかね」
この女の話を聞いていて、嫌な考えが頭を過ぎる。
まさかとは思うが、不純な動機でモモの事を産んだとかじゃねーだろうな…。
「お前、さっきから何言ってんだ。訳の分からない事言いやがって」
「モモを孕った時、本当に嬉しかったわ。だって、あの人を永遠に縛る事が出来るんだから。だって、書類上の永遠を誓うのも大事だけど、別れる可能性だってなくはないでしょ。子供さえ出来たら、あの人は私の側を離れる事はなくな…」
ドサッ!!!
白雪が言葉を言い終わる前に押し倒し、白雪の細い首を力強く掴んだ。
「これ以上、喋ったら殺すぞ女」
「何、怒ったの?ゴホッ!!!」
「殺すって言ったろうが、聞こえなかったのか」
「…」
大人しくなった白雪の首から手を離し、部屋の扉をジッと見つめる。
この女も椿恭弥もだいぶ頭がイカれてやがる。
本当に椿恭弥が兵頭拓也の事を殺したのか?
何故、俺はそう思ったんだ?
情報屋から得た情報にも椿恭弥が殺したと書かれていて、誰しもが椿恭弥が殺したと言っている。
そもそも、兵頭拓也の死を誰が知らせた?
椿恭弥がボスか神楽ヨウに知らせたのか?
それとも、バーのマスターが警察か救急に連絡を入れたのか…。
誰もその事に触れていなかった、いや気にも留めていなかった気がする。
ふと閉ざされていた扉が開き、入って来たのは佐助だった。
「椿様が戻って来るまで、私が貴方達の事を監視する。貴方に倒れられたら、椿様が悲しむ」
「暴れた所で逃す気ないだろ」
「今の貴方は病人、大人しくしてて」
佐助が俺に対して、気遣いのある言葉を言って来るとは思ってなかった。
白雪に向ける視線だけは殺気を帯びていて、佐助が白雪の事を好意的に思っていないのが分かる。
「私にそんな視線を向けて良いの?佐助、私がアイツの事を助けたの…、忘れた?」
「アイツ?誰の事を言ってるんだ」
「ふふ、四郎君も見た事あるんじゃない?」
俺の問いに答えた白雪は、佐助に不適な笑みを浮かべる。
何だ、この女…。
俺と2人でいた時と雰囲気が変わってないか?
「アイツが生き返って、嬉しそうだったじゃないの」
「黙れ」
「ヴッ!?」
ドスッ!!!
佐助が素早く白雪の背後を取り、白雪の首元に力強く
手刀を入れ気絶させた。
「本当に良い性格してますよ、嘉助もこの女も。椿様を騙していたんだから、どっちが悪魔なんだか。椿様から貴方が大切な人の弟だって、貴方の病気の事も聞きました」
「同情でもしてんのか」
「貴方が勝手に病気で死のうが、私に関係ない事だから興味ない。ただ、椿様が悲しむような結果になりたくないだけです」
「どうして、椿恭弥に忠誠を誓えるんだ。アンタの目を抉ったの、アイツだろ?自分に酷い事をした相手だろ」
俺の言葉を聞いた佐助は、眼帯に触れながら口角を緩ませる。
「椿様は私の事を殴ったりするけど、あの人は私の大切な人。椿様を壊した奴を、私は暴く為に生きてきた」
「椿恭弥を壊した?どう言う事だ。それに、白雪が助けた相手って誰だよ」
「貴方のボスが殺した…、……だよ」
佐助の口から出された名前を聞いて、俺は驚きのあまり言葉が出てこなかった。
***
10月26日 PM6:00 東京市内 椿会事務所
この日も東京市内全体に冷たい雨が降り注いでいた。
ザァァァァア…。
激しく雨が窓ガラスに当たり、静かな事務所内に響き渡る中、椿恭弥は対面のソファーに座っている男を見つめている。
あの時よりも伸びたサラサラの黒髪、左顎から唇にかけてある切り傷、椿恭弥に開けられたピアス達が輝く。
長くなった前髪かから宿していない真っ黒な瞳が覗き、男もまた静かに椿恭弥を見つめ返す。
椿恭弥は内心、目の前にいる男が自分の元に帰って来るとは思ってもいなかった。
この男に対して、椿恭弥は酷い事しかしていないし、男に恨まれる事を多くしてきた。
椿恭弥は男に理由を吐かせるように、言葉を吐く。
「まさか、佐助がお前を探し出して、連れて帰って来るとは思ってなかったな。白雪も何故か、お前を助ける事に乗り気だったし。でも、アルビノの血の力とJewelry Wordsの力のお陰か」
「佐助が俺の事を助けたのは、椿様の味方を1人でも増やす為。俺は貴方のやり方が、正しいと思った事はなかったんです。佐助から、貴方が行動に移す動機を」
「へぇ、それで?また死ぬかもしれないのに、僕の元に帰って来たんだ」
「切られた足は元に戻らなかったのを見て、貴方は俺に義足を着けてくれた。椿様、貴方はこのまま悪者のままで良いんですか」
男の言葉を聞いた椿恭弥は、煙草を咥えて火を付けながら話しをする。
「お前を助けたのは佐助で、僕は義足を与えただけ。感謝されるような事は何もないし、この先もする事はないよ。僕の事を好きになる人間も、僕が生きている限り現れる事もない。佐助から何を聞いたかは知らないけど、僕はお前に好かれようとも思っていなよ、それでも側に居る気?」
「嘉助がいなくなった穴を、今度は俺が埋めます。俺は貴方がやろうとしている事を、最後まで見ていたい」
「だったら、好きにしたら良いよ。本当は帰って来る気はなかったけど、雪哉さんから招待を受けたからね。僕もアイツとは会わないといけないからさ」
そう言って椿恭弥は招待状を開き、中身を確認して行く。
神楽組若頭就任式が行われるのは、兵頭会本家で傘下に入っていない椿会の参加は異例だ。
「さてと、支度をしないとな。組員達に連絡を入れろ、それと祝いの花の手配を」
「花って、アイツに贈る必要があるんですか」
「呼ばれた以上、組の頭としての礼儀があるだろ。大人の事情てヤツ」
「分かりいました、車の手配してきます」
男は慣れない義足を使い、慌ただしく部屋を出て行った。
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