10月26日 PM6:30 東京市内道路
四郎がいる軽井沢に向かう為、三郎はモモを乗せ車を走らせていると、三郎のスマホに着信が入る。
ブー、ブー、ブー。
「三郎、スマホ鳴ってる」
「こんな時に誰からだよ、近くのコンビニの駐車場に入るよ」
「うん」
三郎は左斜線側にある古臭いコンビニの駐車場に入
り、車を停めスマホの画面を確認すると、晶からの着信だった。
「あ、晶からだ」
「晶って…、あの?」
「そう、あの晶。もしもし、何?」
モモと会話をしながら通話ボタンを押し、三郎は晶からの着信に応じた。
「お前等、四郎の事を迎えに行こうとしてる所か?」
「あれ、何で晶がその事を知ってるの?もしかして、ボスから聞いたの?」
「正確には雪哉さんの部屋に仕掛けた盗聴器から、ヨウとの会話を八代和樹と聞いていた。すぐに、ヨウに盗聴器の事がバレて壊されたけど」
「晶、ちゃんと元通りに家具の場所戻した?あの手のタイプは常に気を張ってるから、少しの違和感でも察知するんだからさ」
三郎の言葉を聞いた晶は深い溜息を吐きながら、言葉を続けた。
「はぁ、うるせーな。俺達も四郎を迎えに行くのに同行する。どこにいんだ、お前等」
「は?晶も付いてくるの?何で、また?」
「深い意味はねーよ、ただ少し嫌な予感がするだけ」
「晶の勘って、嫌な感じで当たるんだよな…。良いよ、位置情報送る」
現在位置を晶に送り、晶達の到着を待つ事になり、三郎の中で椿恭弥の行動に、一つだけ疑問に思っている事があった。
何故、モモではなく四郎だけを攫ったのか。
九条美雨を攫った椿恭弥が、闇闘技場でモモを攫おうと思えば、簡単に攫えた状況だったにも関わらずだ。
「モモちゃん、闇闘技場で椿に会ったよね?何か、言われたりしたでしょ」
「ガキが大人の話に割って来るなってだけ。私の事が嫌いみたいだった」
「嫌いな割に、吐いた言葉はそれだけだったって事ね」
「四郎の事を連れて行きたそうで、四郎の事を見る目が優しかった」
モモの言葉を聞いた三郎は、持っていた煙草を自身の太ももの上に落としてしまう。
椿恭弥が優しい眼差しを意味もなく送った事に、三郎は驚いてしまった。
「あの人、よく分かんない」
「それは同感だね、晶達が来る前に、飲み物買ってこっと。すぐ戻るから、大人しく待ってて」
「うん」
そう言って、三郎はモモを車内に残してコンビニの中に入って行った。
CASEモモ
四郎と離れ離れになって数日、こんなに寂しいものだって知らなかった。
早く四郎に会いたい。
四郎にギュッて抱き締めてほしい。
やっぱりあの時、2人きりにするんじゃなかった。
だけど、四郎は私の事を連れて行こうとしなかったのは、私の為だって分かってる。
私の事を守る為に、四郎は罠だって分かっていた上で付いて行ったんだ。
自分が攫われるかもしれないのに…。
病気になってから、四郎は最初の頃より痩せて来ている。
ご飯も食べられてないし、ゆっくり眠れてもいない。
今こうしている間も、四郎の体は弱って…。
私達が迎えに行く前に、四郎が死んじゃったら…。
コンコンッ。
誰かが運転席の窓を軽く叩いて来た音がし視線を向けると、四郎みたいな雰囲気の女が立っていた。
私は一目見て、この女が晶だって分かった。
初めて四郎に会った時みたいに、近寄り難い感じ…。
この女に呼ばれて、四郎が一緒に寝たんだ。
そう思うと、なんか腹立つ…。
コンビニから戻って来た三郎が、晶の方を見て声を掛けるのが見えた。
「久しぶりじゃん?晶」
「隣に座ってるガキが、例の?」
「そうそう、例の」
「ふーん、若に全く似てねーな。白雪さん似だ」
三郎と会話をしながら、晶は助手席に座る私に視線を送る。
晶は私になんか1ミリも興味がない事が、見て分かるし、私も興味なんかない。
初めて四郎に会った時、四郎が私に向けて来た視線と同じ…。
私は少し睨み付けるように、晶の事を見つめ返す。
「後ろから付いて来る感じ?」
「2台で走行した方が万が一に備えんだろ。何個か弾丸くれ、お前の事だから詰んでんだろ」
「仕方ないな…」
三郎は詰んで来ていた弾丸が入った箱を、何個か晶に渡す。
晶は私の視線を気にする事なく、八代和樹の車に乗り込んで行った。
「お待たせー」
晶との会話を終わらせた三郎が車に乗り込み、袋からオレンジジュースを取り出し、私に渡してくれた。
三郎も私に対して、少しだけ優しくなった気がする。
「私、あの人嫌い」
「モモちゃんとは気が合わないだろうねぇ」
私の言葉を聞いた三郎は、苦笑いしながら買ってきた煙草を開ける。
「まー、四郎を迎えに行くのに、晶が付いて来てくれるのは助かるよ」
「何で?」
「晶、腕は良いからね」
軽い話をしながら三郎は運転を再開し、晶達も三郎達の車を追い掛けるように動き出す。
高速道路を走り出してから数分、三郎がバックミラーに何回か視線を送っていた。
後ろを走る晶達の様子でも伺っているのかな…。
ブー、ブー。
そう思っているとスマホが振動して、三郎はすぐに通話に出た。
さっきまでの穏やかな雰囲気はなくなり、張り詰めた空気が流れ出したのが分かる。
「晶の方で片付けた方が早いでしょ、こっちは前に出て来た奴を殺るから」
三郎はそれだけ言って電話を切り、アクセルを全開に踏み、スピードを上げた。
ブゥゥゥゥン!!!
***
三郎に通話を掛ける少し前、バックミラーに映る黒塗りの数台の車に違和感を覚えていた。
自分達が乗る車を追い掛けるように、走行している車
を追い越しては距離を取っている動き。
三郎の車の距離が近そうになれば、スピードを少し下げて走行する。
晶は瞬時に、この車が三郎の車の後を追い掛けている事が分かった。
「おい、お前は今から何が起きても運転に集中してろ。ハンドルから手を離すな」
「は?いきなり何だ?」
八代和樹の言葉を無視して、晶は三郎に電話を掛ける。
「付けられてんぞ、お前等。こっちで処理しといてやる」
三郎との通話を終わらせた晶はベレッタM92Fに弾丸を装填し、窓を全開に開けて体を乗り出す。
「ちょ!?何してんだ!?あぶねーぞ!!!」
「チッ、うるせーな。もう少しスピード上げろ。照準がズレる」
バンバンバンッ!!!
体を乗り出したまま、左側車線を走っている車のタイヤに銃口を向け引き金を引く。
キュルルルッ!!!
ドゴォォォーン!!!
晶の放った弾丸がタイヤに当たり、車体は回転しながら壁に追突し、車から灰色の煙が上がる。
その光景を見ていた八代和樹は、額に冷や汗をお流しながら隣にいる晶に声を掛けた。
「おいおいおい、そう言う事かよ…。ちゃんと説明しといてほしいんだがな
「死にたくなかったら、ハンドルから手を離さない事だな」
カチャッ。
八代和樹の問い掛けに短く答え、右車線を走っている車に銃口を向ける。
バンバンバンッ!!!
晶はさっきと同じようにタイヤに狙いを定め、引き金
を引くが後部座席の窓から1人の男が身を乗出す。
カチャッ。
男が晶に向けて銃口を向け引き金を引こううとした時、男よりも先に引き金を引いたのは晶だった。
バンバンバンッ!!!
ブシャッ!!!
晶が放った弾丸が男の頭を貫き、血飛沫を上げながら窓から道路に転がり落ちる。
左側を走っていた車が晶達が走る車線に入り込み、急ブレーキを掛けて来たのだ。
キキキキキーッ!!!
道路にタイヤが擦れる音が響き渡り、八代和樹は前方の車と打つかる寸前でハンドルを右に切る。
キキキキキーッ!!!
右車線に入った八代和樹はアクセルを踏み込み、車に追い付かれないようにスピードを上げた。
晶は更に窓から身を乗り出し、運転席に座る男の額に銃口を向け引き金を引く。
バンバンバンッ!!!
ブシャッ!!!
晶が放った弾丸が男の額と右目に命中し、ハンドル操作が効かなくなった車は壁に激突する。
ドゴォォォーンッ!!!
キキキキキーッ!!!
残りの2台の車が、両サイドから車が猛スピードで走って来るのが見えた。
「おいおい、アイツ等まだ追って来るぞ!!!どうする!?」
「いちいち、うるせーな…。片付けるに決まってんだろうが」
カチャッ。
晶は煙草を咥えながら、もう一つ持って来ていた銃をズボンのポケットから取り出し、左手で持ち変える。
両サイドっを走る車の窓から、銃を構えた数人の男達が体を乗り出して来た瞬間、晶が素早く引き金を引く。
「当てずっぽうに銃をぶっ放すのは…」
ブシャ、ブシャ、ブシャッ!!!
八代和樹が言葉を言い終わる前に、晶が放った銃弾は
男達の額に命中し、次々と額から血が噴き出す。
「何なんだよ、この女!!?」
「めちゃくちゃ過ぎんだろっ、グアアアアアアア!!!」
驚く男達を次々と射撃し、自分達を追い掛けて来ていた車達は1台も追い掛けて来なくなった。
安堵の溜め息を漏らしながら、八代和樹は涼しげな顔をして助手席に座り直した晶に声を掛ける。
「はぁ…、本当に全員殺すとはな…。凄いなって、褒めて良いんだろうか」
「俺がいなかったら、5回は死んでたぞ。ハンドル離さなくて、良かったな」
「本当に殺し屋なんだな、アンタ」
八代和樹の言葉を聞いた晶は、横目で八代和樹の顔をチラ見し、前に視線を戻しながら口を開く。
「俺達は、アンタ等とは根本的に違う。今だって、お前の事も簡単に殺せる」
カチャッ。
晶は八代和樹に銃口を向けながら、更に言葉を続ける。
「俺達、殺し屋は簡単に引き金を引ける。ヨウだって、若が死んでから頭のネジが外れちまったんだ。お前が出会った頃のヨウは、もういない」
「…、俺とヨウが出会ったのは高校だった。3年間、同じクラスでさ?すぐに仲良くなったんだよ。俺も大切な人を失う辛さは分かる。アイツは悲しむ前に動き出しちまったんだな…」
八代和樹の言葉に嘘を感じなかった晶は、黙って煙草を咥えて火を付けた。
「晶、四郎君が肺癌だって聞いてさ、どう思った?」
「四郎が死ぬなんて、想像出来ないな。アイツは俺が認めた腕の男だし、一緒に寝るだけの特別な仲だ。だけど、俺達はいつ殺されても、死んでもおかしくない世界の住人だ」
「仲間が死んで悲しいって、思ったりしないのか?」
晶の脳裏に槙島ネネと木下穂乃果の顔が一瞬だけ浮かぶが、すぐに脳裏から消えた。
「お前の目には俺が普通の人間に見えるのか?」
「…、普通に見える時もあるし、見えない時がある。
だが、どんな人間にも心がるだろ?誰だって、感情があるんだ。知っている人が死ねば、感情は少しでも動くだろ?」
「やっぱり、お前等とは違うよ。俺達のような腐った人間は」
そう言って、晶は口から白い煙を吐き出した。
***
10月26日 PM10:27 兵頭会本家
兵頭雪哉と一郎、二郎は岡崎伊織の言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
眉間に皺を寄せながら、もう一度岡崎伊織に詰め寄る。
「どう言うつもりだ?伊織」
「組を抜けさせて頂きます。頭には世話になりました、いや世話になり過ぎました」
「そんな事を聞いてんじゃねーよ、伊織。急に組を抜けたいって、常識ないのか?理由があんだろ、理由が」
「神楽組からスカウトされまして、そっちの組に移動するだけです」
岡崎伊織の答えを聞いた兵頭雪哉は、机に拳を強く叩き付けた。
ゴンッ!!!
「スカウトだ?ヨウに唆されたんだろ。拓也の事でも言われたか?大体、予想がつく。ヨウの復讐に加担するんだろう?だったら、好きにしろ。こちとら、玲斗
の病を治せる医者を探すのに手一杯だからな」
「貴方は昔から、拓也に対して淡白でしたね」
「あ?」
「拓也が何故、貴方にあまり懐かず、俺に懐いていたのは知っていたでしょう?貴方は幼少期の時から、拓也に関心がなかった。俺は、拓也が殺されて凄く悲しかったんですよ」
岡崎伊織が唇をお強く噛みながら、兵頭雪哉を見つめた。
一郎と二郎は今まで岡崎伊織が兵頭雪哉や他人に対して、感情を面に出す所を見た事がなかった。
兵頭拓也に対してだけ、岡崎伊織は感情を隠す事を忘れてしまうのだ。
「俺が悲しく思ってないとでも言うのか?今まで俺の側にいながら、そんな事を思ってやがったのか。だったらよ、組を辞めるなら礼儀を通すのが筋だろ?一郎、持って来い」
「あ、はい…」
兵頭雪哉に言われた通り、一郎は別室から綺麗な木の板と短刀を持って部屋に戻って来た。
テーブルの上に木の板と短刀を置き、一郎は岡崎伊織に視線を送る。
自分達の殺しの師である岡崎伊織が、兵頭会を兵頭雪哉野側を離れる事が想像出来なかった。
誰よりも兵頭雪哉に忠誠を誓っていた男の変貌ぶりに、2人は神楽ヨウと言う男を恐ろしい男だと感じていた。
岡崎伊織は黙って左手を木の板の上に置き、躊躇なく自身の小指に短刀を振り下ろした。
ドスッ!!!
ズシャッ!!!
切り味の良い短刀は一振りしただけで、綺麗に小指が
切断され、木の板の上には赤い血が垂れている。
顔色一つ変えずに岡崎伊織は切断した小指が乗った木の板に短刀を突き刺し、兵頭雪哉の座るテーブルに置く。
ガタッ。
兵頭雪哉は机の引き出しからホルマリン液が入った小瓶を取り出し、岡崎伊織の切断した小指を小瓶の中に入れた。
ポチャンッ。
「これで、お前は兵頭会の人間じゃなくなった。神楽組でも好きな組に入れ」
「お世話になりました、失礼します」
「ちょ、伊織!!!」
兵頭雪哉と短い会話を終わらせた岡崎伊織の後を二郎が追い掛ける。
タタタタタタタタタッ。
二郎が部屋を出た後、兵頭雪哉は険しいしたまま一郎に声を掛けた。
「一郎、伊織の代わりをしろ。二郎と2人で仕事を分けても構わん」
「分かりました」
「七海からの連絡は?」
「連絡は頻繁に来ますが、移植手術しか助かる方法はないそうで…。短期間の間にドナーが見つかれば…」
一郎の言葉を遮るように、兵頭雪哉が口を開く。
「闇ルートで探させろ、玲斗と同じ血液型の肺だ。どのオークションでも臓器の一部が出品されてんだ。金なら幾らでも積んでやると、七海に連絡を入れておけ」
「分かりました」
「さっさと二郎をお連れ戻して来い。辞めた人間と話をしても時間の無駄だからな」
「…、すぐに連れ戻して来ます」
兵頭雪哉の強い口調で命令された一郎は、早足で部屋を出て行く。
***
「おい、伊織!!!何で、急にあんな事を…」
「俺がいなくても、お前等がいれば問題ないだろ。勘違いされねーように言っとくけどよ、神楽ヨウの唆されたとか脅されたとかじゃねーよ。こんな世界にいれば、いつか殺されて死ぬか、ただ死ぬかのおどちらかだろ?だったら、俺は心残りだった事をしようと思ってよ」
「伊織の心残りが復讐立ったって事?」
「二郎、俺もお前と同じようなものだ。こう言えば、分かり易いだろ?」
岡崎伊織の言葉を聞いた二郎は、口を閉ざす事しか出来なかった。
二郎は深呼吸に近い深い息を吐きながら、岡崎伊織の顔を見ながら苦笑いをする。
「それを言われたら、何も言えなくなるな…」
「頭の前で言えなかったが、俺は俺に懐いてきてくれていた拓也が、可愛くて仕方がなかったんだ。自分の息子みたいに思っていたし、アイツが成長して行くのを隣で見ていたかった」
「伊織…」
「頭には四郎の事だけ考えてくれれば良いんだ。二郎、後の事は頼むな」
そう言って、岡崎伊織は二郎に背を向け歩き出す。
「二郎、ボスが呼んでる。早く戻れ」
岡崎伊織が去った後、二郎に声を掛けて来たのは一郎だった。
「行ったのか、伊織は」
「俺、伊織って淡白な人間だと思ってたけどさ…。全然そんな事なかったよ、父親みたいな顔して…、拓也さんの話をしてくれたんだよね」
「…、自分の子供じゃなくても可愛かったんだろう。これからは、俺達が伊織の仕事を引き継ぐ事になる。神楽組の若頭就任式の招待状を、傘下に入ってる組に送らねーといけねぇ」
「事務的作業は苦手なんだけどね」
他愛のない話をしながら、2人は兵頭雪哉がいる部屋に向かって歩き出す。
***
東京市内 PM10:33 美容外科ビル
「椿さん、着きました。美容外科なんかに、何の用事があるんですか?」
「お前は何も詮索しなくて良いよ、ただ僕の後ろに居れば良い」
椿恭弥は義足の男を連れて、ビルのエレベータに乗り込み4階まで静かに上がる。
チーンッと音を鳴らしながらエレベーターの扉が開き、椿恭弥は扉を5回ノックをした。
コン、コン、コン、コン、コン。
ガチャッ。
「どうそ、お入り下さい」
扉のノック音を聞き付けた看護師が扉を開け、椿恭弥と義足の男を部屋の中に招き入れる。
椿恭弥達は案内されたソファー席に座ると、すぐに診察室から院長である女医が2人の前に現れてた。
「もしかして、貴方が血液を送ってきた本人で間違いないかしら」
「あぁ、合ってるよ。四郎君…いや、東雲玲斗君と同じA型の血液型の僕が、貴方にABO検査をして貰いたくてね。検査の結果が出たから、血液と一緒に僕の名刺を見て連絡してきてくれたんでしょ?」
東雲玲斗の名前を聞いた女医の眉毛がピクッと動き、一瞬の戸惑いを見逃さなかった椿恭弥は、女医に詰め寄る。
「僕が血液を送る前に、兵頭雪哉からA型の人間の血液を貰ったんじゃない?東雲玲斗君の肺移植する為に、必要なABO検査させる為に。僕の予想だけど…、2人ぐらいヒットしたんじゃない?」
「貴方…、よく頭が回るわね…。まるで、目の前でカルテでも開いてるような…、え?」
カチャッ。
椿恭弥に向けられているトーラス・レイシングルの銃口を見て、女医と看護師達は顔を青くさせながら口を閉じた。
「ぼくの検査結果は?どうだったのかな?」適合はしてたのかな。女医さん、さっさと答えないと死んじゃうよ?」
「わ、分かったから。答えるから、看護師達の事は撃たないでちょうだい…」
銃口を向けられながら、女医は椿恭弥のABO検査の結果を伝える。
検査結果を聞いた椿恭弥は、微笑みながら女医に向かって言葉を吐く。
「あはは!!!これはこれは、良い検査結果で何よりだ。女医さん、僕の目の前で、雪哉さんに電話掛けて」
「え?」
「え?じゃないでしょ?死にたいの?」
「わ、分かったわ」
女医は恐る恐る椿恭弥の目の前で、兵頭雪哉に通話を掛けた。
***
ブー、ブー、ブー。
一郎が二郎を迎えに行った後、兵頭雪哉のスマホに着信が入る。
着信相手は、四郎を診てもらった美容外科の女医からであった。
兵頭雪哉は咥えようとしいていた煙草を箱に戻し、女医からの通話に応答する。
「あ、雪哉さん?今、少し宜しいかしら?」
「玲斗と同じ血液型のメンバーの血液から、検査の結果が出たんだろう?誰のが一致したんだ」
四郎が診察を受けている間、同じA型の血液型である一郎と六郎の2人に健康診断と嘘を付き、闇医者の爺
さんの事務所で血液を取っていた。
また同じA型だった兵頭雪哉と三郎は、ダメ元でその場で血液を取り検査に回したのだった。
女医に自分を含めた4人の血液を渡し、肺の移植手術を行う為のABO血液型検査を行わせていた。
*ABO血液検査とは、オモテ検査とウラ検査の2つの検査を行い、両方の結果が一致する事で血液型を確定します。
オモテ検査は患者の赤血級球表面の抗原(A抗原、B抗原)を調べ、ウラ検査は患者の血漿中の抗体(抗A抗体、抗B抗体)を調べ、輸血の為に非常に重要です*
女医は軽く咳払いをした後、ABO検査結果を報告した。
「ABO検査の結果、適合したのは三郎さんと雪哉さんの2人が移植するするのに問題ありませんでした。ただ、椿恭弥さんって方は御存じ?」
「あぁ、知っているが。椿がなんだ?」
「えっと…、あ、ちょっとっ…。どうも、雪哉さん」
電話越しから女医から、何故か椿恭弥の声が聞こえ、兵頭雪哉は唇を強く噛み潰した。
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