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・【13 小学校】
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依頼者は女性だった。和香子さんと言うらしい。苗字で呼ぼうとしたら苗字は気に食わないから名前で呼んでほしいということで。
「――というわけで、撮り鉄が犯人だと思います」
すると和香子さんは嬉しそうに僕の手を握ってきて、
「渡りに船ね! 調べてもらって良かった!」
と言ってきた。一体何が渡りに船なんだろうと思っていると、真澄も僕と和香子さんが繋いだ手を握ってきて、
「じゃあこれから何かするんだろうから頑張るぞ! エイエイオー!」
と言って手を上にあげ、それに合わせて和香子さんも手を上にあげた。
急に円陣じゃぁないんだよ、和香子さんもよく合わせられたな。というか、
「渡りに船って、どういうことですか? もしかすると小学校をリノベーションするんですか?」
すると和香子さんは僕のことを指差しながら、
「その通り! 佐助くんは鋭いね!」
と言った。本当にそうなんだと思った。
でも確かに荒れていない小学校はリノベーションのし甲斐があるだろう。
撮り鉄が既に訪れていると分かれば、そこで軽食を出せば売れるチャンスもあるだろうし。
そもそも不法侵入の段階で人が来ているのだから、ちゃんとお店の形にすれば堂々と人も来れるだろうし。
そんなことを勝手に納得して、うんうん頷いていると和香子さんがこう言った。
「で、佐助くんって料理も得意なんでしょ! だから手始めにまず撮り鉄の人たちに売れるような軽食を一緒に考えてほしいんだ! 良いメニューをさがす、というのかな!」
「そんなさがしもの探偵に合わせて言葉を考えなくていいですよ。むしろ僕としてはそういうことをしたいので喜んでやります」
真澄はすぐさまグッドマークを出しながら、
「試食は任せろ!」
と叫んだ。
それに対して和香子さんは、
「元気っていいね!」
と言って笑った。
真澄も”いいね”と言われてかなり喜んでいるようだった。
マジでパブロフの全然バカ過ぎて何にもならなかったほうの犬じゃぁないんだよ。
まあそんなことはいいとして、
「何かコンセプトはあるんですか?」
「そうだねぇ、撮り鉄さんにばかり配慮してもあれだから、普通の人も来るようなカフェみたいにしたいんだ。ゆくゆくは宿泊とかしてみたいけどもね! この辺、民家とか工場も無いから星空も綺麗に見えるだろうし!」
「カフェですか、お洒落な感じですか?」
「お洒落というか、あったかい感じがいいかな! 誰でも入れるみたいな!」
つまり近くの住民も撮り鉄も気兼ねなく入れるような感じということか。
それならメニューも自由に作れそうだ、と思ったところで、和香子さんはこう言った。
「でも私の趣味趣向としては、カロリーカットみたいな、少ないカロリーで美味しくみたいな感じにはしたいと思っているんだ!」
「それならこんにゃくとか寒天ですね」
と相槌を打つと、和香子さんも嬉しそうにうんうん頷いてから、あっ、という感じに、
「まっ、立ち話も何だから教室で座って話そうかっ」
と言ったので、僕と真澄と和香子さんは近くの教室に移動した。
僕と真澄が席に着いて、和香子さんは教壇に立った。いや普通に授業を開始しますじゃぁないんだよ。まあいいか。
和香子さんは嬉しそうに喋り出した。
「いずれ工事を入れるにしても、まずはグラウンドにキッチンカーを出して、仮ですぐオープンしようと思っているんだ。これを機にツタだけは全部撤去して、どこからでも写真撮れるようにしたらいいんじゃないかなと思っています」
「それはいいと思います。そうすれば不法侵入じゃなくなりますし、市役所の人も近隣の人も喜ぶと思います」
「で、メニュー! メニューを考えてほしいんだよね! キッチンカーで作れるくらいのメニューを!」
とは言え、最近のキッチンカーは何でも作れる。でも和香子さんの言いっぷりから察するに、まずは簡単に作れるところからといった感じだ。
で、カロリーカットみたいなところからいくと、やっぱり僕が最初に浮かぶのは、
「事前に作って冷やすだけの野菜の寒天ゼリーなんてどうでしょうか」
それに対して和香子さんが僕を指差しながら、
「おっ、それはどういうことかなっ?」
「サイコロ型に寒天をカットして、いろんな味の寒天を透明なコップに入れればカロリーの少ないデザートになると思います。硬めに作れば爪楊枝でも食べることができますし。味は野菜を甘く煮たり、野菜ジュースを固めたりでもいいですし」
「それはいいね! 早速採用! ソフトクリームって多いけども寒天って面白いかもね!」
「野菜ジュースなら橙色に近くなりますし、牛乳寒天を入れれば白色もできますし、それなりにカラフルになると思います」
黒板にメモし始めた和香子さん。まあ採用になって嬉しい。
あとこういう、キッチンカーと言えば何だろうか。から揚げかな。
でもから揚げは少しカロリーが、と思ったところで、そう言えばと思って、また挙手をした。
「はい、佐助くん! どうぞ!」
「こんにゃくのから揚げはどうでしょうか」
するとすぐさま真澄が声を上げた。
「こんにゃくは水があるから揚げる時に跳ねるぞ! 却下! 却下! ハイ! アタシの怒られた経験が生きたぁ!」
「いやこんにゃくには重りを乗せて一晩水抜きするんだよ」
「水抜きっ?」
「そう、そして水抜きしてから味を馴染ませる。めんつゆやニンニクとかで。そうすることにより、味も染みやすくなるんだ。後は片栗粉を付けて普通に焼くだけ。そうするとこんにゃくのから揚げができるんだ。そんなにカロリーが低いわけでもないけども、物珍しさはあると思います。あとはブナシメジとかエノキとか、キノコのから揚げもいいですね、このあたりは揚げ焼きでも作れますし」
僕がそう言うと感心するように頷いた和香子さん。またすぐさま黒板にメモをしてから、
「こんにゃくとかキノコのから揚げは面白いね! これも採用だ!」
さて、寒天でスイーツ、から揚げと来たらあとは何だろうか、やっぱり主食があったほうがいいかもしれない。でも簡単に食べられる主食だと、やっぱりおにぎり? 勿論そういう基本的なモノはあってもいいと思うが、何か特色を考えるとしたら、
「またこんにゃくで恐縮なんですけども」
と言ったところで和香子さんが、
「全然! その路線でいっちゃおう!」
と言ってくださったので、僕は、
「こんにゃく餃子なんてどうでしょうか、具がこんにゃくで食感も楽しめると思います。焼きでも水餃子でもどちらでもなんですけども。冬の季節なら温かいモノも欲しいですし」
「それはいいね! 具がこんにゃくかぁ、考えたことも無かったなぁ!」
そんなこんなで会議も終了し、今度一緒に試食会をしようという話をした。
こんな繋がりができるなら、さがしもの探偵も悪くないなと思った。
真澄はその場では食べられないことを知り、大層悔しがっていた。
でも帰り道に笑顔で電車に手を振っていたので、もう別にいいんだな、と思った。
まあ今日のことはこの真澄が電車に手を振ることで分かったんだけども、それは黙っておこうと思う。何か面倒だし。