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・【14 ホイッスルがうるさい】
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七月下旬、そろそろ夏が始まる。
日差しは強くなってきたし、何よりも夜が遅くなってきた。
それに伴って、僕と真澄はより長く一緒に行動するようになり、何だかもう、なんというか、付き合ってるくらいの感じだ。
勿論全然そんなような感じのことは無いんだけども、恋愛と捉えるしか考えられないほど同じ時間を過ごしている。
真澄のSNSアカウントには毎日のように依頼がやって来て、それを毎回こなしている。修行じゃぁないんだよ、シンプルに修行じゃぁないんだよ。
まあそんなに嫌というわけではないのはきっと慣れてしまったせいだ。そんなことを考えていると、真澄が急に叫んだ。
「見たこと無い電車だ! おーい!」
相も変わらずこんな調子の女子高生だ。大丈夫か、本当にコイツ。
というか、
「あんまり大きな声を出すなよ。今日はどこからともなく聞こえてくるホイッスルがうるさいという事件だ。その大声とホイッスルの音が被ったら困るでしょ」
「でもホイッスルの音ってその上をいくから」
「場所によるよ、ホイッスルの音は天から降り注ぐじゃぁないんだよ」
それにしても、ホイッスルの音がうるさいから調べてほしいって、どういう事件だよ。
しかも依頼主は昼寝をちゃんとしたいからという理由。ホイッスル吹いてるヤツ見つけたら注意して、というカスの言い分みたいな。
今のところホイッスルが聞こえるような感じもしないし、と思って歩いていると、真澄がどこかに指差しながら、こう言った。
「この木! イチジクの木!」
「……それがどうしたんだよ」
「このイチジクの木、実が成っても全然とらないんだよ! アタシが野生だったら絶対もらうのに!」
「真澄は女子高生だから、一般家庭の女子高生だから。サバンナ奥地に住む謎の四つ足生物じゃぁないんだよ」
「でもさ、何でイチジクの木とか、柿もそうだけども、とらない家庭があるんだろうねっ!」
「まあ祖父母が好きだったけども、もう取る人いないみたいな話なんじゃないの?」
すると真澄は嫌そうに溜息をついてから、
「そんな悲しい話をするなっ!」
と言いながら僕の背中を叩いてきた。
いや、
「真澄がそういう話を振ってきたんでしょ、というか全然ホイッスル関係無いし」
「笛もイチジクも口でしょ!」
「ザックリ分けすぎでしょ。脳内の引き出しガバガバじゃぁないんだよ」
とツッコんだところで、真澄が今度は僕の肩を叩きながら、
「あれ! あれ!」
と声を上げたので、何なんだと思っていると、街中に突然見えてきたグラウンド場があった。
「佐助! きっとこのグラウンド場からホイッスルが鳴っているんだ!」
今、このグラウンド場では子供たちがサッカーをしていた。
確かに笛を持っているコーチのような人もいる。
すると、一人のコーチがホイッスルを吹いた。
ピーっという音が周りに響いた。
真澄は呟くように、
「サッカーの練習じゃ鳴っても仕方ないか」
と言ったんだけども、僕は、
「このくらいの音がうるさい? ちゃんと街中に配慮した、抑えめの吹きだったけども」
「いやでもホイッスルじゃん」
「依頼主の家はもっと遠くじゃなかったっけ? まあ文字だけの情報だから自信無いけども」
「でもほら、子供が遊んでデカく吹くんじゃないの?」
「コーチのホイッスルを奪って吹く子供っているのかな?」
疑問文の応酬をしつつも、僕と真澄はとりあえず街中をまた歩き出した。
この辺りは閑静な住宅街で、たまに子供が走りながら声を上げているけども、別段うるさいわけではない。
人通りも車通りも少なく、住みやすいだろうなと思っていると、目の前から警察官が歩いてきた。
何かあったのかなと思いつつも、まあ横目で見て歩けばいいかと思っていると、なんと話し掛けられた。
「すみません、君たちはこの辺の子ですか?」
警察官に話し掛けられた真澄は何だか目をランランと輝かせ始めた。
何か面倒なことにならないといいけどな、と思っていると、真澄が、
「何かあったんですか! アタシたち! 探偵をしています! さがしもの探偵って言います!」
いや、唐突な自己紹介じゃぁないんだよ、何かこの感じ嫌だなぁ、と思いながら真澄の言葉を聞いていると、警察官は鼻で笑ってから、
「可愛い子供の遊びだなぁ! いやいや! ハハハッ!」
鼻で笑うだけじゃなくて、完全に高笑いまでしてきて、この警察官も嫌な感じだ。
まあ僕も同じ立場ならバカにしてしまうかもしれないけども、こんなあからさまにやらなくてもいいのに。
警察官は笑い過ぎて咳き込んでから、こう言った。
「まあ一応聞こうか、ハハッ」
それに対して真澄が嬉しそうに、
「はい!」
と叫ぶと、警察官はまた吹きだしてから、
「君たち、空き巣じゃないよね? 探偵ごっこのついでに空き巣してないよねっ?」
と言って笑った。何その流れと思いつつ、僕は、
「空き巣なんてしていませんよ」
と答えると警察官は、
「そっかそっかぁ! じゃあ大事件! 頑張ってね! ハハハハッ!」
と言ってその場を後にした。
何だよあのイヤミ、めっちゃ腹立つ。そもそも空き巣がこの辺にあるのなら笑っていられる状況じゃないだろ。
そんなことを思いながら真澄のほうを見ると、真澄は強くガッツポーズしてから、
「大事件解決するぞぉ!」
と声を荒らげて、もう、何かもう、マジで恥ずかしかった。
絶対あの警察官、振り返ってみただろうし、俺はもう真澄のほうを見られない。もうホント、やめてほしい。真澄のこういう鈍感なところ。
真澄は何かノシノシという効果音が聞こえてきそうなほど、明日へ向かって歩いている。
何がそんな良かったんだよ、激励受けたなぁじゃぁないんだよ、受けていないんだよ、と思ったその時だった。
《ピィィィイイイイイイイイイイイイイイ!》
どでかいホイッスルの音が聞こえた。何この音。デカすぎだろ。巨人のホイッスルじゃぁないんだよ。
真澄が、
「あっ!」
と叫んだところで、
《ピィィィイイイイイイイイイイイイイイ!》
と、もう一回聞こえた。
鼓膜をつんざくくらいデカい音だった。
電柱に止まっていた鳥も何羽か飛ぶくらいの音。
真澄は俺の顔を見てから、
「これだとお昼寝起きちゃうな!」
「まあ確かにそうかもしれないね、突然だったもんな」
「じゃあサッカー場に戻ろう!」
そう言って走り出した真澄に、僕は待ってと肩を掴みたかったんだけども、真澄はもう止まらない。
「待てって! 真澄!」
と言ってもぐんぐん僕を引き離す。さすがスポーツ推薦組。ケガしてプロにはなれないらしいけども、一般人の中に入ったら普通に男子よりも速い。あと、人の話を聞かない。
先にサッカー場に着いて、じっと見ている真澄の隣に行き、
「真澄、何でサッカー場なんだよ」
「だってホイッスルということはそういうことだろ!」
「でも、ほら、普通にサッカーしてるだけじゃん」
そう、サッカー場の子供たちは普通にゲーム形式のサッカーをしているだけだ。
電光掲示板に表示された時間を見ると、ゲーム形式をし始めてから二十分は経過しているらしい。
「二十分経過しているということは子供がホイッスル奪って吹くタイミングは無いだろ」
「でもコーチのテンションの上がるプレーがあって、大きくホイッスルを吹いたかもしれない! 話聞いてくる!」
「やめろって、真澄!」
やっと肩を掴めたから良かった。
真澄は納得のいかない表情で僕のほうを見てきた。
いや、
「多分別の音だよ、ここじゃない。真澄の理論なら別にここに限らず、子供が遊びでホイッスルを吹いていてもいいんだろ?」
「まあそうだけども……」
「何か違う気がする。あの音は正直異常だったよ。あまりにも大きすぎる。あれはまるで遠くにいる人に伝えるための音だ」
「遠くにいる人に伝えるための音?」
「そう、それも絶対に。ちょっと調べたいところがあるからスマホで調べて行くわ」
僕はスマホを取り出して、この近くにあるスーパーやコンビニを調べた。
するとスーパーがあることが分かり、
「真澄、スーパーに行こう」
「分かった。佐助が何か分かったんならついていく」
真澄はこういうところ従順だからまだ有難い。いやまあ助手が反乱を起こしたら困るけども。