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「師匠ー!!」
「シンさん、お疲れ様です」
ブロンドの短髪の青年と、シルバーヘアーの
美少年が私に向かってあいさつする。
そして彼らの隣りにはそれぞれ、ブラウンの
ウェービーヘアーをした切れ長の目をした
女性と、
同じくブラウンの、ショートカットの髪型も
相まって童顔っぽく見える女性が座っていた。
私を師匠と呼んだのは―――
シーガル・レオニード侯爵様で、その妻である
エリアナ・モルダン伯爵令嬢と同席し、
同じように、ニコル・グレイス伯爵様と、
アリス・ドーン伯爵令嬢もこちらに
視線を向けて一礼する。
「おー、お疲れ様ー」
「ちとこちらはバタバタしておってのう。
あいさつが遅れてすまなんだ」
「ピュイッ」
私の家族……
同じく黒髪で、アジアンチックな外見の女性と、
欧米モデルのような目鼻立ちのドラゴンの方の
妻も、ラッチと一緒に頭を下げる。
「いえ、シン殿は多忙でしょうから」
「わたくしたちも質問責めに遭いましたしね。
仕方の無い事かと」
アリス様とエリアナ様が苦笑しながら語る。
この二組のカップルは、ランドルフ帝国との
合同軍事演習に参加するため、この大陸まで
来たのだが―――
帝都・グランドールの冒険者ギルド本部へ
あいさつを兼ねて、『神前戦闘』の評判を伺いに
出向いたところ……
モンステラ聖皇国とのトラブルに巻き込まれ、
その事後処理や、大使館に戻った後に各国の
スパイ対策をお願いされたりした事もあって、
ようやく落ち着いて顔合わせ出来たのは、
演習から五日後の事であった。
「しかし残念だったなぁ。
ウチもその力を存分に見せつけて
やりたかったのだが」
銀髪のロングヘアーに切れ長の目をした―――
フェンリルのルクレセントさんが笑いながら
語り、
「でもフェンリル様の得意魔法は、風と雷
でしたから……
それは難しかったかと」
やや日焼けしたような褐色肌の、犬耳・
アーモンドアイをした黒髪の少年―――
ティーダ君が妻(予定)の彼女をたしなめる。
水場で雷魔法はかなり効果的だ。
だからこそ……
女帝イヴレット様が余興とか言い出して、
雷雲を発生させた時は焦ったのだが。
それがフェンリルが発する雷魔法なんて、
あまり考えたくはない威力だろう。
「マギア様の名代として来るには来たが」
「自分たち以外にも空を飛ぶ種族は多かった
ですからね。
目立たなくて良かったのか悪かったのか」
魔族代表として―――
茶色の短髪に細マッチョといった感じの青年、
ノイクリフさんと、
横に細い眼鏡をかけた、青色の短髪の知的な
イメージの男性……
グラキノスさんが参加していた。
「みなさんもいろいろとお疲れ様でした。
特に話し合いには神経を使ったでしょう。
何せ私は帝国にずっといた事になっていたん
ですから―――」
私の言葉に、みんなは困ったような笑みを
浮かべる。
ランドルフ帝国と公都『ヤマト』とは、
『ゲート』で行き来していたのだが……
実際の私は二度目の渡航以降、合同軍事演習の
準備のために待機している事になっていて、
その間、結婚式にも出席している彼らとは、
口裏を合わせておく必要があったのだ。
「行きの船で師匠を見かけなかったので、
不思議だなあと思っていたんですけど」
「わたしどものためにいろいろと時間を割いて
頂いて、感謝いたします」
シーガル様とニコル様が軽く会釈する。
しかし、身分の高い人間に頭を下げられるのは
どうにも慣れない。
「まあでも、4人とも軍属ではかなりの地位に
いるんでしょう?」
「『ゲート』の秘密を共有出来る人間は
限られておるでのう。
この大使館に入れる人員の中でも
上位だからな」
「ピューウ」
実際、『ゲート』の機密情報を知る者は
そう多くない。
だからこそ、今ここに集っているメンバーは
一握りの有力者という事でもある。
「おう、待たせたな」
そこでウィンベル王国の有力者である、
ライさんが合流し、
さらに情報共有を行う事になった。
「師匠、間者対策までやっていたんですか」
「『抵抗魔法』はコイツのお家芸みたいな
ものだからな。
ティエラ王女様も感謝していたよ」
シーガル様の言葉にライオネル様が答える。
まずは先日あったスパイ対策の件と―――
「それと白翼族と天人族だが……
代表がモンステラ聖皇国に向かうらしい。
こっちはアレか?
確かここの冒険者ギルド本部長に関する件
だったか」
次いでライさんの口から出たのは……
天使のような羽を持つ亜人、白翼族と、
羽団扇で自由に空を飛ぶ天人族が、
モンステラ聖皇国の使節団と一緒に、彼らの
祖国へ行く事が決まったとの事だった。
元から聖皇国は白翼族へ『ぜひとも』と
接見を要請していて、
ウィンベル王国でもそうだったように、
どうも宗教関係者からは『天の御使い』に
見えるらしく、
また白翼族は昔、崇められていた事もあって、
(もっとも崇められていただけで、
何もしなかったのだが)
偉そうにする事に慣れている亜人と―――
崇める事が主軸の宗教国家という、
需要と供給が絶妙に合わさり、
この大陸で別行動を取る事になったのである。
「まあこれで、ベッセルギルドマスターへの
無理強いは止まるかと」
新しいオモチャ……
もとい崇拝対象を手に入れたのだから、
しばらくは大人しくしているだろう。
「あとシン、お前さん調べられているぞ」
「え? 何で?」
急にライさんが私に話を振り、首を傾げるが、
「シンさん、今回の演習の特別顧問じゃ
ないですか」
「それに確か、ドラセナ連邦の女帝に
物申したと聞いておりますよ。
一国のトップに直接注意するなんて、
普通は出来る事じゃないですから」
ニコル様とアリス様が続き、
「コイツは度胸があるのか小心なのか、
わからん時があるからなあ。
それにギルド本部でモンステラ聖皇国の
人間とも接触したんだろう」
ライオネル様に指摘され、
「そりゃー、『アイツ何者だ?』って話に
なりますよね」
「シンに取っては不本意であろうが、
否応なしに目立っておるからのう」
「ピュウッ」
家族にも追撃され、私は肩をすくめる。
「えぇ……
じゃあ私はどうすれば」
「いや別に師匠が悪いわけじゃないですから、
これと言って何もしなくても」
シーガル様がフォローに回ってくれるが、
隣りのエリアナ様が片手を挙げ、
「気になるのでしたら、こういう場合―――
そのドラセナ連邦のイヴレット様?
でしたっけ。
その方には一度お会いした方がいいかも
知れません。
『その節は大変失礼いたしました』とかの
お詫びの訪問であれば、向こうもスムーズに
受け入れてくれるかと」
さすがに貴族のお嬢様。
こういった場合の処し方は心得ているのだろう。
「そうだなあ。
その方が痛くも無い腹を探られる事は
無いかもしれん。
ま、せいぜいお土産をたっぷり持って行って
やる事だな」
ライさんの話でいったん方向性はまとまり、
「しかし、これでようやくウチも帰る事が
出来るんやねえ。
出来れば『ゲート』で帰りたいんやけどなあ」
「いったん船で来た事になっていますので、
それは難しいかと」
わがままを言うルクレさんに、ティーダ君が
困った顔になり、
「え、ええと……
ノイクリフさんとグラキノスさんは
この後どうされるんですか?」
私が魔族の二人に話を振ると、
「ここの魔族領大使館は、今まで最恵国待遇を
結んでいるユラン国に任せっぱなしになって
いたからなあ。
それで溜まった書類整理などに追われて
いるんだ」
「事務処理能力があるのは、魔王・マギア様を
抜かせばイスティールと自分くらいしか
いなくてね。
国同士の交易も絡んでいるから、それなりに
権限が高い者が処理しなければならないし」
「オルディラのヤツはこういう事はからっきし
だからな」
「貴様もその1人だと言っているんだが」
身内ならではの本音での会話に、周囲は苦笑し、
雑談にシフトしながら楽しいひと時を過ごした。
「え? 何だって?」
「で、ですからその―――
ウィンベル王国の、あの合同軍事演習の
特別顧問だった者が面会を申し出て来て
おります」
真っ赤な長髪に、いかにもな海賊風の衣装を
身にまとったアラサーの女性が、部下の報告に
聞き返す。
「シン、って言ったよなあ?
今連邦が総力を挙げて調べている男じゃ
ねーか。
それが向こうから?」
「は、はい。
何でも演習の日、直接注意をしてしまった
事に対し、その失礼を詫びたいとの事で」
ドラセナ連邦の女帝、イヴレットは……
突然訪問して来た調査対象に戸惑いを隠せず、
思案する。
「(こっちが調べているのに気付いたか?
それで、カウンターとして乗り込んで来た?
だがどうする?
詫びと言っている以上、追い返せば
『許さない』という事になっちまう。
今ここでランドルフ帝国を始め、
その同盟各国に悪印象を与えるのは
得策じゃあない―――)」
一人悩む彼女の沈黙に対し、筋骨隆々とした
立派な口ヒゲをたくわえた男が口を開いて、
「シンであれば、会っても問題は無いかと。
以前、巨大セイウチから助けてもらった
からではありませんが、話の通じる人間だと
思われますので」
(■212話 はじめての せいうち参照)
シルヴァ提督の意見に女帝は悩むのを止めて、
「しゃーねえ。
腹くくって話すとするか。
おい! 丁重にお通ししろ!!」
イヴレットの決断で、急遽会談が行われる
運びとなった。
「その節は、大変申し訳ございませんでした。
ドラセナ連邦の女帝とはつゆしらず―――」
私はイヴレット様に出会うと深々と頭を下げる。
そしてライさんから言われた事を頭の中で
反芻していた。
私の魔法という事になっている『抵抗魔法』で、
彼女の雷魔法を無効化した事には触れない事。
これは、恐らく女帝はドラセナ連邦の最高戦力と
推測しての事で、
それをあっさり破った事を認識されると、
下手をすれば連邦そのものの存続に関わり、
トップの交代、もしくは内乱につながる可能性が
あったからである。
だからあくまでも……
『あの時は注意してしまった事』
『そしてそれを聞き入れてもらった事』
にして、話をする事になった。
「いやあ、こちらこそ―――
アンタにゃウチの連中を助けてもらった事が
あったんだって?
今回はそれでチャラといこうや」
こちらの意を察したのか、彼女もその前提に
沿って話す事を選択したようだ。
しかしずいぶんとフランクだな……
「ありがとうございます」
そして最初の挨拶が終わると、用意された
ソファに腰かけ―――
改めて同席している部下か側近の顔ぶれを
見ると、見知った顔がいて、
「あっ、シルヴァ提督?」
「お主も来ておったか」
「ピュイッ」
メルとアルテリーゼ、ラッチが彼に話しかけ、
「あの時はどうも助かりました。
……って、その子はドラゴンの?」
「おう、我が子じゃ」
ラッチをテーブルの上に差し出すと、
シッポをぶんぶんと振って、
「おー! ドラゴンの赤ちゃん!
アタシ初めて見たよー!」
「ピュ~ウ」
突然の可愛い生き物の登場に、イヴレット様は
顔をほころばせる。
「あ、では―――
ちょっとラッチの面倒を見て頂けないで
しょうか。
贈り物を持ってきたのですが、厨房を
貸してもらえれば調理いたしますので」
「お!? 何か作ってくれるのかい?
わかった、ラッチの面倒は見ておくよ!
おいでラッチ~♪」
そう言うと女帝はラッチを抱き寄せ、
私たちは厨房に案内してもらった。
「な、生の魚がこれほどまでに美味いとは!」
「何だ!? この魚の生臭さを消すショウユと
いうものは……!」
「帝都で一度だけ食べた事があるぞ。
向こうの大陸から、いろいろと調味料も
入って来ているとかで」
私たちがイヴレット様やその側近にお出し
したのは、魚を中心とした料理。
フライに天ぷらはソースやタルタルソースを
中心に味付けし、
刺身や生食は醤油をかけて―――
食してもらったのである。
「魚が生で食べられるようになる方法が
あるとはな。
それにこのニホンシュという酒……!
とても美味い上にツマミにも合う!」
女帝は上機嫌で、豪快に飲み食いする。
「ドラセナ連邦では、魚は食べないのですか?」
「そりゃあ食うさ。
だけどこういう食い方は初めてだねぇ。
煮るか焼くかだけだったから―――
いやあ、演習を見に来て良かったよ、ホント」
そこで私はメルとアルテリーゼに目配せして、
「意外と、魚を獲っているところって少ないん
ですよねー」
「帝国でも需要が高まっておると聞くし、
ドラセナ連邦でも1つ考えてみたら
どうじゃ?」
それとなく、今までの奴隷貿易で儲からなく
なった分……
それで補填してみてはと提案する。
「まあそうだね。
いちいち向こうの大陸から持ってくるわけにも
いかないだろうし。
確か、特殊な下処理をしなければならないん
だっけか? コレ」
切り身をフォークで突き刺しながら、彼女は
たずねて来て、
「はい。普通に水が凍る温度の2倍の魔力を
かけて、氷魔法を使えば―――
今回の贈り物の中に、その手法も含まれて
おりますれば」
私のその言葉に、側近たちが顔を見合わせる。
「い、いいのか!?」
「ランドルフ帝国は承知しているのか?」
「これほどの秘伝をあっさり……!?」
そこで私は飲み物を口につけながら、
「まあ、ウチの大陸はその辺、結構緩いと
言いますか。
特に食べ物や娯楽品に関しては、
教えてもらうか購入すれば誰でも、
って感じですね」
女帝はそれを聞いて考え込み、
「大々的に漁を行った事は無いんだが。
そのやり方も言えば教えてくれるって事?」
私はその質問にうなずき、
「釣り竿という魔導具がありますれば。
すでにランドルフ帝国でも、独自に作って
売り出すところが増えていますよ」
魔力を流せば疑似餌が動くというもので、
地球のものとは少し異なるが―――
ウィンベル王国周辺の各国はもとより、すでに
こちらの大陸でも量産され始めていた。
それは前回、新型の対空飛翔体の訓練航海の際、
『事故』によりウィンベル王国側の海岸に
『漂着』した兵士たちが、
(■172話
はじめての かいせん(らんどるふていこく)
参照)
帰国する際に本国に持ち帰ったものであり……
今ではその魅力に取りつかれ、一種の娯楽として
定着しつつあるのだという。
しかも釣ってきた魚は食費の助けともなるし、
売る事も出来るので―――
趣味と実益を兼ねている人も多いと聞く。
「……なるほどなぁ。
船ならドラセナ連邦には腐るほどある。
それで獲った魚を生でも食えるように
下処理して売れば、
奴隷に変わる収入源にもなるだろう」
さすがにトップとして状況処理と把握は
早いようで、こちらの意図を瞬時に理解して
語る。
恐らく、側近たちに説明しているのも
兼ねているのだろう。
「この際だ、もう1つついでに聞いておきたい
事がある。
奴隷売買は先細りだとアタシもわかっちゃ
いるんだが―――
ガキどもの事でなぁ」
そこでイヴレット様は大きく息を吐いて、
「今後は合法的に『労働力』の確保に努める
つもりじゃいるが、
そうなるとガキどもって使えねーんだよなぁ。
だがガキは食わなきゃ死ぬ。
そして奴隷としても労働力としても引き取って
もらえねぇ。
このままだと見殺しにしかならないんじゃ
ねーのか?」
女帝の言葉に、彼女の側近たちは固唾を飲んで
見守るが、
「いえ、今は子供たちの働き場所も多いですよ?
『足踏み踊り』―――
まだご覧になった事はないですか?」
「んあ?」
かつて町で大浴場と共に始めた、
子供たちで行う足踏みマッサージだが、
向こうの大陸にいた兵士たちも、大浴場を
利用するとともにそのサービスを受け……
情報を持ち帰っていたのである。
すると孤児や身寄りの無い子供たちの
救済措置として、ティエラ王女様が主導して、
各孤児院と浴場が提携し、
ランドルフ帝国でも1つの娯楽として、
受け入れられていた。
私がその説明をすると、彼女は側近たちと共に
ふむふむとうなずき、
「今はそんな商売があるのか」
「ええ。それに料理関係の店も増えて来て
おりますから。
魔法が弱い人材の方が微調整が利くとの事で、
雇用の幅も広がっています。
ですので、人の集め方さえ合法であれば、
働き先はたくさんあるかと」
私の答えに満足したのか、女帝はふぅ、と
一息つき―――
その後は雑談に興じ、何とか謁見を終わらせた。
「いかがでしたか?
思ったより話せる男だったでしょう。
それにドラセナ連邦の危惧した事も、
ある程度の解決策を示してくれました。
これで少しは見通しが明るくなったのでは」
シルヴァ提督が女帝イヴレットに話を向けるが、
「ホント、その通りだよな。
まるでこちらの質問を知っていたかのように、
すらすらと答えを出してくれた。
あれじゃあ、アタシの警告すら無意味だったの
かも知れねぇ」
トップの言葉に、シルヴァ提督含む側近たちは
黙り込む。
「考えてもみりゃあ、いくらドラゴンの嫁さんと
一緒に行動しているとはいえ……
単体で出歩くかね?
そして当人にゃ、ほとんど魔力は感じないと
来たもんだ。
ただ単に度胸があるのか、それとも何か
切り札でも持ってんのか―――」
彼女の言葉を最後に、部屋には沈黙が訪れた。
「ふ~っ、緊張したなぁ」
私は自分で自分の肩を揉みながら、家族と共に
帰り道を歩く。
「ま、これでわだかまりとか無くなったと
思うし、いーんじゃない?」
「酒と美味い食い物があれば、たいていの事は
解決するものじゃて」
「ピューイ」
メルとアルテリーゼも軽口を叩いて、
話が無事終わった事を喜ぶ。
「でも最後の言葉は何だったのかなあ。
大ライラック国とは接点無いんだけど」
「あー、アレね。
『大ライラック国には気を付けた方がいい。
あれはある意味、モンステラ聖皇国より
話が通じん』
だっけ?」
女帝イヴレットが、帰ろうとする私たちを
呼び止め……
そう忠告じみた事を言って来たのだ。
危険な可能性即排除、っていうのは、
刺客を送り込まれた事もあるから、
ある程度は覚悟しているけど。
(■126話
はじめての げいげき(ひなんじょ)参照)
「しかし各国が集まっておるのであろう?
その中でそのような事をするか?」
メルに続いてアルテリーゼも疑問を口にするが、
「むしろ、各国が集まっているからこそ、
やる機会だと思う場合もあるからなあ。
何か仕掛けた後、別の国になすりつけるとか、
手段はいろいろとあるし―――」
「うっへー」
「面倒な事よのう」
「ピュ~ウ~」
こうして新たな懸念を抱えた私たちが
大使館に戻ると……
もう一つ、難題が持ち込まれていた。
「大ライラック国の使者が?」
大使館に帰るのと同時に……
女帝イヴレット様の警告に出て来た国―――
その使者が大使館に来て、ライさんと面談
していると聞かされた。
「は、はい。
もうかれこれ3時間経過しているのですが、
中からは何の応答も無く」
職員が困ったような表情で説明する。
「妙な事はしてないと思いたいけど」
「まさかこんなに早く出くわすとはのう」
女帝イヴレット様からの警告を聞いていた
私たちは、思わず顔を見合わせる。
「私たちが行って、様子を見てきましょうか?」
「お願いします!!」
ピンチの時に駆けつけたヒーローを見るような
目をして、職員は勢いよく頭を下げた。
「だから、自分1人の権限では決められないと
何度も言っているのだが?」
「ですからお願いしているのです。
今回、ランドルフ帝国との合同軍事演習で
披露した軍事技術……
それの全公開と共同維持。
その実現に向けて動いて頂きたく」
「ランドルフ帝国はこの事を知っているのか?」
「帝国にも協調路線を促すよう、ライオネル様に
ご協力して欲しいのです」
その頃、ウィンベル王国大使館エリアでは、
大ライラック国の使者数人とライオネルが、
問答をループさせていた。
騎士のような外見の使者たちは涼し気な
表情だが、王族の方は疲労の色が濃く―――
「だから何度も言っているが、軍事技術は
同盟を結ばない限り渡せない。
順序が違うと思われるが?」
「ですから、先に公開して頂ければ同盟締結は
前向きに加速するでしょう。
これはこの大陸の安全保障上、正当な
要求であると確信しております」
ライオネルは言質を取られまいと、
使者と相対し続けていた。
本来なら改めて来い、と会談を中断する事も
出来たのだが、
「(どうやら魔法遮断みてーな
魔法の使い手がいるようだな。
さらに閉じ込めるような、何らかの魔法も
感じる。俺とした事が油断したぜ)」
発動時間は長くは持たないだろうが、
その間にライオネルから協力を取りつけようと、
使者たちも言葉を弄して迫る。
「何もウィンベル王国と敵対しようという
つもりはありません。
ただ平和的な姿勢を見せて頂きたいだけ
なのです」
「それにしては、やり方があまりにも短絡的
ではないのか?
ここはいったん改めて後日、話し合いの場を
設けて……」
「我々もクアートル大陸の平和のために
必死なのです。どうかご理解を」
ああ言えばこう言う彼らに、ライオネルの
ストレスも限界に達しつつあり、
「(クソッ、まさか大使館の中で拘束される
ような事になるとはな。
だがこれを国際問題化しては―――
ランドルフ帝国も巻き込んじまう。
よりによってシンがいねぇ時に……!)」
と、その時……
聞き慣れた声が耳に入って来た。
「あれ? 何か魔法で弾かれる?」
「大使館の中じゃぞ?
そんな事はあるまいて」
妻二人の話に魔法で何らかの妨害がかけられて
いると判断した私は、『それ』を無効化させ、
扉を数回ノックした後、
「失礼します。
ライオネル様、大丈夫でしょうか?
会談の時間が長引いているので、職員たちが
心配しておりまして」
真っ先に私が室内に入ると、大ライラック国の
使者と思われる数名が、信じられない生き物を
見るような目で見つめて来た。
「もうそんなに経っていたのか。
ご使者殿、何度もこちらの意見を伝えたが、
これは私一人、それも短時間で答えが出せる
ような問題ではない。
いったんお引き取り願いたい」
ライさんの言葉に使者たちは顔を見合わせる。
そして彼は、そのまま自分の片腕でもう片方の
腕の手首を握る。
実はこれはライさんと私で決めていた合図で、
『相手が明確に敵対した』時のサインだ。
私はそれを見て軽くうなずくと、
「この半径5メートル以内の範囲において―――
非科学的な魔法など
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、
「!?」
「!!」
騎士のような格好の男たちは、急に顔を
青ざめさせ、自分の手を握ったり閉じたりして
見つめる。
だが、リーダー格であろう男は冷静を
取り戻し、
「今日のところは失礼いたします。
ですが、どうか威嚇や争いではなく、
協調と提携の時代を望まれますよう」
そう言って退室しようとする彼らをライさんは
呼び止め、
「ああ、そういえばな。
ここは向こうの大陸各国の大使館が
あるんだが……
その中にチエゴ国にはフェンリルもいるんだ。
最近、そのフェンリルの逆鱗に触れるような
事をした罰当たりが、魔法を使えなくなって
しまって―――
そのフェンリルに謝罪して事なきを得た人間が
何人か出て来ている。
使者殿も心当たりがあれば来るといい」
「……ご忠告、感謝します」
そして彼らは大使館を後にし―――
ある程度離れたところを見計らって、
「この半径50メートル以内の範囲に
おいて―――
この世界で魔法が使える事は当たり前だ」
そうして、ライさんや妻たちの魔法を元に戻し、
そのまま詳しく話を聞く運びとなった。