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9S視点
遊園地廃墟中央にある城の内部に入った僕たちは慎重に行方不明となった部隊員を捜索していた。
中央のホールにつながるであろう両開きのドアが天井から降ってきたであろう割れたガラスに当たり、光の反射でキラキラと照らされている。
その場所だけとびきり異質な雰囲気を漂わせている。
まるで…僕たちを誘い込むような……。
僕が警戒して入るのを躊躇っていると2Bが僕の前を歩いてホール内へ入っていく。
その姿を見て僕も遅れてホール内へ入る。
円状に囲まれた観客席と大きな舞台。
ボロボロになった部隊幕と薄暗い光で照らす照明。
警戒していた僕とは真逆に静まり返っているホール内に僕はあっけらかんとしてしまう。
2B「9S、気を抜かないで」
僕が立ち止まっていることに気がついたのか2Bが声をかけてくれる。
9S「は…はい!」
そうだ、驚いている暇なんかない。
S型はヨルハの中でも調査に特化したモデルなんだ。
行方不明の部隊員くらい、さっさと見つけて……。
僕が周囲をスキャンし行方不明の部隊員を捜索し始める。
その時だった。
ブーーーーーーーッッ
ホール内に劇でも始まるようなブザー音が流れた。
僕は咄嗟に黒の誓約を握りしめる。
その判断は正しかった。
部隊の閉じられていた幕が上がり中からドレスを着たような機械生命体の特殊個体が現れたのだ。
ドレスといっても赤い生地にアンドロイドの死体の様なモノを飾りをつけた趣味の悪いただの布切れだ。
9S「2B!あの個体…特殊個体です!!」
9S「接敵ログに記憶がないのでおそらく…新種の特殊個体だと思います!」
「ギキャアアアアァァァァァッッ!!」
特殊個体の悲鳴の様な叫び声と共に僕たちはハッキングされた。
データ空間に強制移動させられる。
『キレイニナッテアノヒトヲフリムカセタイノ』
9S「逆ハッキングか……」
敵の記憶データが僕の領域にずかずかと侵入してくる。
『ワタシアナタノコトガ大好キナノ』
脳内にこびりつくような妙な飽和性を用いて頭に直接語りかけてくる様なデータに嫌気が刺す。
『タクサンノ飾リヲツケレバ綺麗ニナレル』
『ダカラ、アンドロイドヤ仲間達モ食ベタ』
くそっ…敵の記憶データが永遠と流れ込んでくる。
『ワタシ頑張ッタノ、キレイニナリタカッタノ』
気分が悪い。
『ネェ、ワタシ……キレイ?』
っ!!
僕は敵のハッキングプログラムを破壊してデータ空間から逃げ出した。
意識が戻ってくると視界の先で2Bが覚束ない足取りでなんとか立っていた。
9S「2Bっ!」
僕は2Bの背中に手を回し彼女のデータ空間へアクセスする。
そして一秒と経たずにハッキングプログラムを破壊する。
2Bの意識が戻る。
9S「大丈夫ですか!?」
2B「あ…あぁ、なんとか……」
2B「それより……沢山の飾りって………」
2Bが敵を見て言う。
「アア…アァァッ」
ぎこちなく動く敵はゼンマイの切れた機械のようだ。
苦しそうに胸を抑える仕草に違和感を覚える。
「ワタシハ…」
「モット……モット…」
「キレイニナリタイノオォォォッッ!!」
「ギキャアァァァァッ」
再び甲高い叫び声のような悲鳴と共に頭上から何かが降ってきた。
落ちてきた衝撃波に反射で顔を隠す。
衝撃波が止み恐る恐る目を開くと目の前には十字架のような形をした鉄筋の切れ端にアンドロイドが貼り付けられている光景が広がっていた。
ポッド153「…ブラックボックス反応を検知」
9S「なっ…!?ブラックボックス反応ってことは…ヨルハ部隊員!?」
怯む僕を置いて2Bは戦闘体制に入っている。
2B「いくよ」
その声を皮切りに2Bは敵へと挑んでいく。
白の斬撃と銃弾。
金属音がホール内に鳴り響き、攻撃は止まない。
揺れる白銀の髪と整った顔立ち。
真っ直ぐに振り落とされる白の契約が僕の目に焼き付く。
回転しながら武器を振り回すその姿は芸術的で目が離せない。
視界にノイズが走る。
2Bの姿と重なるように誰かの像が見える。
澄んだ青い瞳、彼女と同じ白銀の髪、口元の黒子
荒れた表情に相対するように僕らへ向ける慈しみのような柔らかな表情
白の契約と僕らの運命
鋭い金属の交わる音で僕は意識を戻した。
なんだ…今の……。
目の前の光景を見るに時間は経っていない。
体感では数分経ったように感じたはずなのに…。
2B「ポッド!」
2Bの声で我に帰る。
違う、今はこんなこと考えてる場合じゃない。
再び2Bに意識を向ける。
ポッドの援護射撃と2Bの華麗な身のこなしで敵を翻弄することができているが白の契約からの斬撃は敵の厚い装甲に阻まれて思うようにダメージが与えられていない。
同様に、ポッドの射撃もだ。
近距離、遠距離ともに攻撃が効いていない様子を見てふと閃く。
9S「2Bっ!僕が敵にハッキングで攻撃をします!」
9S「僕がハッキングしている間、僕を援護してください!」
2B「了解!」
2Bがこちらに走ってくるのが見える。
9S「ハッキング!!」
僕の意識はデータ空間へと移動した。