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それは何年も前の、アルベルトの父がまだこの世で権力を謳歌していた頃の生前の記録なのか。そのときから交流があったなんて話は私の父からは一度も聞いたことがない。
『……期待以上だ、ローゼンタール。スラムから拾ってきた名もなき孤児だったが、痛覚を去勢し、記憶を上書きすれば「嫡子」としてこれ以上ない出来栄えになった。今や鏡を見ても、自分がかつて誰だったかさえ思い出せん。完璧に改造された「最高傑作」の兵器だ』
先代公爵が、愉悦に満ちた声で笑う。
その残酷な笑みは、画面越しでもこちらの肌を粟立たせる。
その隣で、私の父は冷酷な笑みを浮かべ、琥珀色の液体が揺れるグラスを傾けていた。
『名もなきゴミが、公爵家の主か。面白い。愛などという不確かなものを捨て、ただの「機能」として生きる。お前が創り上げたその怪物は、我が娘エカテリーナの毒とどちらが鋭いかな』
「……あ……」
背後で、かすかな、けれど今まで聞いたこともないような深い喘ぎが漏れた。
振り返ると、アルベルトの顔色は、青を通り越して病的なまでに真っ白に染まっていた。
漆黒の瞳が異常なほど大きく見開かれ、焦点が合わずに宙を彷徨っている。
「アルベルト……?」
「……私、私は……」
彼は言葉にならない呻きを漏らし、突然、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
鋼のように強靭だったはずの指が、自分の頭蓋を砕かんばかりの力で食い込んでいる。
浮き出た血管が、彼の内側で暴れる嵐を物語っていた。
「、ア、アアア……ッ!!」
獣のような悲鳴が図書室に響き渡る。
彼の脳内で、封じ込められていたナニカが激しく衝突し、凄まじい拒絶反応を起こしているのが分かった。
どろりとした負のオーラと根源的な恐怖を溢れさせている。
「アルベルト! 待って、今止めるから……!」
私は慌ててテレビの電源を叩き切り、床にしゃがみこんで激しく震える彼の肩を掴んだ。
あの冷徹で、死体すら事務的に解体していた男が、今はただの、傷ついた子供のように怯え、存在の根底を揺さぶられて苦しんでいる。
「アルベルト! ど、どうしたのよ……!? しっかりして、アルベルト!!」
彼の肩を、壊れるほどの力で激しく揺さぶる。
だが、彼の手は止まらない。
白目を剥き、歯を食いしばり、自らを内側から破壊しようとするほどの激痛にのたうち回る。
その姿を見て、私の胸に走ったのは「合理的」な計算や損得勘定ではなかった。
ただ、この怪物を、この壊れかけた孤独な魂を
今すぐこの手で繋ぎ止めなければならないという、ひどく人間臭い焦燥だった。
私は彼の両頬を強く、痛いほどに挟み込み、狂ったように見開かれた瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。
「アルベルト!!」
だが声は届かない。
彼の眼球の奥深くで火花が散り、意識は完全に歪められた過去の迷宮へと閉じ込められている。
「仕方ないわね……」
そう呟くと同時に、私は彼の首筋めがけて、渾身の掌底を打ち込んだ。