森の中は美しかった。ここで幾度となく不可解な事件が起こっているのが不思議なくらいに。川の流れる清涼な音、鳥の囀り、木々のざわつく音、木々の隙間から漏れる日の光、すべてが美しかった。
「まずは魔女が子供達を埋葬したとされる石の棺 “コフィンロック”から探そう」
「森は嫌いなんだよな。虫多いし。」
「我慢しなさいよ、重要なシーンを撮ったらすぐに引き返すから」
「わかってるよ」
森は美しいが恐ろしい面も存在する。時間感覚や方向感覚が失われるので、森で迷うと外に出る事は不可能に近い。
「地図は持ってるんだろうな?」
「もちろん、ちゃんと持ってるわよ」
男2人は森に敏感な所がある。虫や毒を持つ植物が怖いのだろう。私は小さい頃よく森を散歩していたので慣れているが。
「コフィンロックなんて本当にあんのかよ、2時間も歩きっぱなしだよ。」
「この先にあるから、地図もちゃんと見てるしね。」
「楽しい会話をしようぜ、明日までの課題みんな出したか?」
「それのどこが楽しい会話なわけ?」
「将来につながる大切な話だろ??」
「やってないわよ」「俺もやってない」
「俺は1週間前にやった、少しは見習えよ」
「はいはい、私も今日帰ったらやるわよ。」
マイクは真面目なタイプだ。宿題や課題は必ずやり遂げるし、約束も必ず守る。未成年での飲酒や喫煙にも反対派なようだ。
そんな会話をしているうちに夜がやって来た。
「テントを張らないとね、手伝ってよ」
「ここら辺でいいか?」
「ええ、そこに張りましょう」
マイクとジェリーは不慣れな様子でテントを張り始めた。見ているともどかしい気持ちになるほどに不慣れだ。
「私は今晩のご飯を作るわ」
「頼むよ、この前みたいなグチャグチャカレーはもう勘弁してくれよ」
「大丈夫だって、ちゃんと練習したんだから」
私達は食卓を囲み、テントの中でジョークを言い合い、持って来たトランプでババ抜きや大富豪なんかを楽しんでいた。そんなこんなで時間はあっと言うまにすぎ、気づいたらみんな眠っていた。
「おはよう」
どうやら私が1番遅く起きたらしい。みんなはすでに支度を始めていた。
「昨日の夜中によ、二つくらい声がしたんだよなぁ」
「どんな声?」
「一つはおそらくフクロウだね」
「もう一つは叫び声のような声だったな」
「そんなの聞いたらチビッちまうよ」
私達は何の気にも留めずジェリーの報告を流した、きっと鹿か何かの声だろう。森の中ならどんな声がしても不思議ではない。
「森に入って2日目だけど、どう?」
「虫が多くて最悪だよ、寒いし」
「確かに寒いぜ、凍えそうだよ」
もっと防寒具を持って来るべきだっただろうか?アメリカは土地が広い為、アメリカ全体が同じ気温だとは限らない、地域によって温度も変わるのだ。
「防寒具をもっと持って来るべきだったわね」
「こんな寒いものか?昨日まで暑いくらいだったのに」
「森の朝は寒いものよ」
「2人とも来てくれ!これじゃ無いか?コフィンロック!」
マイクの声がする方へ向かう。そこには明らかに棺とはほど遠いが確かに何かを埋葬した様な跡があった、石が積み上げられている。
「嘘だろ、マジかよ」
「本当にあったんだわ」
「誰かのイタズラじゃないよね?」
「だとしたら相当悪趣味だよ」
明らかに棺では無いが、何かを埋葬した物だと一目でわかるその光景。間違いなくコフィンロックだ。魔女伝説はあながち嘘では無いのかもしれない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!