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「『恋人契約』を解消したい」
ああ、やっぱり。
覚悟はずっとしてきたけど悲しい気持ちは捨てきれない。蓮の顔を見ていられなくて、そっと目を伏せる。
「その上で、俺の話を聞いて欲しいんだ」
「蓮の話?」
え、まだ続くの。
契約を終了して、今までありがとーで終わりかと思ってた。
まだ蓮の目を見る度胸はなくて、目は逸らしたままこくりと頷く。
「…佐久間くんが契約の恋人になってくれて、恋人とやってみたかったことがたくさん出来て楽しかった。これまでの人とは遠慮してしなかったことも、佐久間くんとなら出来たし受け入れてくれたから。だから、幸せだったよ」
「うん…」
俺とだから出来たことなんてあったんだ。
全然気付かなかったけど、それは俺にとっても何て幸せなことだろうと思う。
思い出を反芻しながら、まだ続いてる蓮の話に耳を傾ける。
「でも、だからこそ思っちゃったんだ。何でなんだろうって」
「何でって、何が?」
「…何で、佐久間くんは本当の恋人じゃないんだろうって」
「……は…?」
一瞬何を言われたのか分からなくて、思わず顔を上げる。ぶつかった蓮の視線は思いの外熱を帯びていて、予想と違いすぎる状況に戸惑った。
今、何て言った?
「俺、意外と重いでしょう。くっつきたがりだし甘やかしたがりだし、それなりに嫉妬も束縛もするし。これまでの人は抑えて隠してたとこいっぱいある。でも佐久間くんはどんなことも受け入れてくれたから…だから俺もつい、恋人としたいこともしてあげたいことも全部、佐久間くんとしたくなっちゃったんだ」
自嘲気味に笑いながら蓮はそんな風に話す。
でも俺はそれを受け取るのに精一杯で、戸惑いで頭の中がぐるぐるしてる。
「佐久間くんが受け入れてくれてたのは、契約だからって分かってるのに。それでも、幸せだったんだ。佐久間くんと恋人になってから、ずっと」
「しあ、わせ…」
「…本当は、ずっとこのままでいいかなって思ったんだ。偽物だけど幸せだから、それでいいんじゃないかって。でもやっぱりそれじゃ駄目だから。佐久間くんの気持ちを置き去りにしたままじゃ、俺が嫌だから。だから、ねえ、佐久間くん」
真正面から向き合う蓮の目は、熱っぽくて真剣で。
まさかって思いながら、もしかしてって期待も抑えられなくて。どきどきと早くなる心臓を服の上からぎゅっと抑えつけた。
射貫くような目線で見つめながら、蓮が口を開く。
「佐久間くんが、好きです。本当の恋人になってくれませんか…?」
「…え…」
「佐久間くんにその気がないなら、ちゃんと振って。中途半端に優しくされたら諦められないから。そのくらいもう、すごく好きなんだ」
蓮に『好き』って言われたこと、これまでなかった。契約の恋人になってからは一度も。
でも、今、蓮が。俺に好きだって、そう言ってる。
どういうこと?
パニックになる頭とは裏腹に、涙腺の方は正直だった。
膝の上に握り締めてた手の甲に、ぽとりと水が落ちた感触がする。
それは後から後から滑り落ちてきて、俺の頬を濡らした。
驚いた顔の蓮が俺に手を伸ばそうとして、躊躇うように止まる。止めなくていいのに。
蓮が、俺に、好きだって。そう、言った。
夢見てなかったわけじゃない。偽物の恋人でも幸せだったけど。これが本物になったらなって、夢想しないわけがないんだ。
だって、幸せだったから。
蓮の温もりが、愛し方が、束縛が。全部全部気持ちよくて幸せで。本物だったらいいのになぁって、何度も何度も思って。でもそんな都合のいいことあるかよって、同じくらい何度も何度も思った。
でも、今。真剣に俺を見つめる蓮の目は、恋をしてる人の目で。俺と同じ目だから、自惚れじゃなく分かっちゃう。
ねえ、蓮。俺ずっと幸せだったよ。
このまま終わっても、記憶を抱えて生きていけるくらい、ずっとずっと幸せだった。
だけど、どうしよう。今ね、もっともっと幸せなんだ。
「…ちゃんと、抱きしめて」
「え…?」
「躊躇わないで。手を止めないで。恋人なら、ちゃんと俺のことぎゅうって抱きしめてくれよ」
「佐久間、くん…?」
「好き。蓮、好き。もうずっと好きだった。契約でもいいから恋人になれて幸せだって、そう思えるくらいずーっと好きなんだよ」
溢れる涙を拭う余裕すらなく、一生懸命そう伝える。
戸惑いに揺れていた蓮の瞳がやがて止まって、一筋だけ涙がこぼれ落ちた。
蓮の涙って、こんなに綺麗なんだ。
そううっとりと見惚れていると、蓮の腕が俺に伸ばされて強く抱きしめられる。
蓮の温もりが気持ちいい。蓮の匂いが心地好い。俺も蓮の背中に腕を回して強くしがみついた。
「佐久間くん、佐久間くん…好きだよ、大好き」
「俺も好き。ずっとずっと好きだった…っ」
俺を強く抱きしめて頬を摺り寄せてくる蓮に、涙が止まらない。
小さい頃は、声を上げて泣いたことなんてほとんどなかった。
でもまさか、大人になってからこんな風に、嗚咽を漏らしながら泣く日が来るなんて思わなかった。
ねえ、蓮。俺ずっと幸せだったよ。
でもこれからは、2人で幸せになれるって。そう思っていいんだよな。
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やっとめめさくが本物のカレカノに幸せ💞