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――夜。
無事に準備も終わり、予定通り歓迎会を開くことになった。
参加するのは――
いつものメンバーの、私とルークとエミリアさん。
かつてミラエルツで仲間になった、ジェラードとアドルフさん。
クレントスに戻ってから仲間になった、リリーとグリゼルダとグレーゴルさん。
クレントスまで追いかけてきてくれた、商人のポエールさん。
警備メンバーの、チェスターさんにノーマンさんにレオボルトさん。
メイドさん五人衆の、クラリスさん、マーガレットさん、ミュリエルさん、ルーシーさん、キャスリーンさん。
……合計17人!!
こういう会では決して多くない人数ではあるものの、よくぞ集まってくれたと思ってしまう。
警備メンバーのチェスターさんとノーマンはまだ関係が浅いけど、それ以外は付き合いを重ねてきた面々だし。
ちなみに人数がそれなりにいるので、今回もまた立食形式のパーティである。
クラリスさん的には、みんなにしっかり席に着いてもらって、しっかり給仕したかったそうなんだけど……人数も多いことだし、そこは諦めてもらうことにした。
そもそもメイドさんたちだって、本来は歓迎される立場でもあるわけだからね。
参加者が揃ったところで、みんなの前に立って簡単に挨拶をする。
「今日は集まって頂きまして、誠にありがとうございます。
私の旅はクレントスから始まって、王都を経由して、またクレントスに戻ってきました。
今まで色々なことがありました。これからも色々あると思いますが、引き続き、みんなと一緒に歩んでいくことができたら嬉しいです」
特に薬にも毒にもならない挨拶だけど、ひとまず拍手をもらえたので――
「それではここからは、自由に食べて飲んで、楽しんでいってください。
メイドさんたちも歓迎される側なので、みなさんセルフサービスでお願いしますね!
それでは、かんぱーい♪」
私の音頭に、乾杯の声が食堂に響く。
いやぁ壮観、壮観……っと。
「アイナちゃん!」
食堂のあちこちで挨拶が繰り広げられる中、私の元にジェラードがやってきた。
「ジェラードさん、今日は楽しんでいってくださいねー。
知らない人も増えたでしょう?」
「そうそう、それそれ!
あのさ、あの小さな子が『疫病の迷宮』で、あの不思議な雰囲気の女性が光竜王様……なんだよね?」
ジェラードの視線の先では、リリーとグリゼルダが仲良く話をしていた。
何だかんだでグリゼルダはリリーの面倒を見てくれるからありがたい。
「はい、そうですよ。リリーは怖くないから、優しくしてあげてくださいね。グリゼルダは……まぁ、うーん?」
「……アイナちゃん、光竜王様を呼び捨てにしてるんだね……」
「いやいや、私も最初は敬称を付けたかったんですよ?
でもグリゼルダが、呼び捨てにしろって言うんですもん」
「な、なるほど……。
ところで僕も……挨拶はした方が良いよね……? い、いやぁ、緊張するなぁ……」
「ジェラードさんがそんなに緊張しているところ、初めて見ましたよ……」
「さ、さすがに僕だって、光竜王様が相手じゃ緊張するよぉ……」
珍しく弱音を吐くと、ジェラードは意を決したようにグリゼルダの元に歩いていった。
まぁジェラードのことだから、あんまりな粗相はしないだろう。ひとまず遠いところから、幸運を祈っておこうかな。
改めて食堂の中を眺め直すと、隅っこの目立たないところで、レオボルトさんが一人でお酒を飲んでいた。
みんなと交流を持ってもらいたいところだけど、もともと口数が少ない人だからなぁ……。ひとまず私が話し掛けてみようかな?
「レオボルトさん、お久り振りです! クレントスまで来て頂いて、ありがとうございます。
また、よろしくお願いしますね!」
「………………よろしく」
相変わらず小さな声ではあるけど、レオボルトさんはしっかりと返事をしてくれた。
仕事振りは真面目そのものだから、これからも頼りにさせて頂こう。
ひとまずレオボルトさんを、近くにいたチェスターさんとノーマンさんの師弟コンビに合流させて、私は他のところに行くことにした。
……余談ではあるが、レオボルトさんは私の奴隷だったけど、今ではミュリエルさんが主になっているらしい。
知らない間に、何とも複雑な関係になっているようだ……。
「ママー!」
「うん? リリー、どうしたの?」
「いろおとこがおばちゃん取ったから、ママのところにきたのー」
……は?
とりあえずグリゼルダの方を見てみると、ジェラードとグリゼルダが二人で話をしているところだった。
『いろおとこ』って、ジェラードのことか……。
「そっかー。それじゃ、他の人とお話してみる?」
「はーい」
辺りを見まわすと、アドルフさんがルークとエミリアさんから離れるところだった。
アドルフさんにはお孫さんもいることだし、ちょっとリリーを預けてみようかな。
「アドルフさーんっ」
「お、アイナさん。今日は招待してくれてありがとう。
これからも頑張るから、何かあれば言ってくれな!」
「はい、よろしくお願いします!
ところでちょっと、リリーの相手をしてくれませんか?」
「おお、それではそうしよう。
リリーちゃん、おじいちゃんとお話をしてくれるかなー?」
「うん、分かったの!」
アドルフさんの言葉に、リリーは元気よく返事をした。
……ふむ、リリーの預け先をひとつ確保できた気がする。何かあったときはお願いすることにしよう。
「――アイナ様!」
一息ついたところに、ポエールさんがにこやかに近寄ってきた。
「あ、ポエールさん。突然のお誘いで申し訳なかったのですが、来てくださってありがとうございます」
「いえいえ! まさか私までがこのような場に招待して頂けるだなんて、本当に感激です!
何事も全身全霊で対応させて頂きますので、今後ともよろしくお願いします!!」
「ふふふ。
まだ全容が見えていないのでお話できないのですが、結構大きな話になると思いますからね!」
「まったくもって楽しみです!
ポエール商会はそれまで、全力で体制作りを進めさせて頂きましょう!」
「そうですね、色々とルートを開拓しておいて頂けると助かります。
何を頼むことになるか、まだまだ分かりませんから」
「かしこまりました、あらゆることを想定しておきます!
……それにしても、今日のお料理は大変美味しいですね」
「はい、うちのメイドさんの自信作なんですよ。
今回は突然の開催だったのですが、こういうことを想定して、事前に仕込んでいたそうで」
……実際、私もこれには驚いていた。
あり合わせのもので料理を作るのかと思ったら、下拵えから準備万端だったのだ。
「ほほう……。
さすがにそのレベルのメイドは、クレントスで急募しても集まりませんね……。
しかしアイナ様にご満足頂けるよう、斡旋の方面も力を入れて参りましょう」
「ああ、そうですね。そういった業務もあると良いですね……!」
新しい街を作ることになれば、人材の確保が必要になってくる。
そういう面で、信頼のできる人が手綱を握ってくれていれば一安心なのだ。
「ふむふむ、なるほど。アイナ様は人材が必要なことをご検討中なのですね。
楽しみに待っています!」
「できるだけ早めにお伝えできるようにしますね!
ところでポエールさんって、ルークとエミリアさんとはあまり話したことがありませんよね?」
「はい、私はアイナ様やクラリスさんとやり取りをしていますから。
……そうですね、せっかくですので、この機会にお話をさせて頂きましょう」
「それじゃ、改めて紹介しますね!」
ポエールさんを連れて、ルークとエミリアさんのところに行く。
そこではエミリアさんが、グレーゴルさんとミニ大食い大会を開いているところだった。
「アイナ殿! 美味しく頂いてるぞ!」
「アイナさん、とっても美味しいですよ!」
……言ってることも大体同じだし……。
まぁ美味しく食べているのであれば、それはとても良いことだ。
「量もたくさん作ったので、二人ともどんどん食べてくださいね。
ルーク、ちょっとポエールさんのことをお願いして良い?」
「かしこまりました」
「ルークさん、よろしくお願いします!」
「ところでグレーゴルさん、今って警備はどうなっているんでしたっけ?」
そういえば、警備メンバーは全員がこの場にいるんだよね。
確か、事前の打ち合わせでは――
「ああ、今はポチとルーチェが見張っているぞ。
俺もこれを食べたら、すぐに戻る予定だけどな」
「うぅ、歓迎会なのにすいません……」
「はは、何てことは無いさ」
「ありがとうございます。代わりといっては何ですが、ポチとルーチェにもご馳走を用意したんですよ。
タイミングを見て、食べさせてあげてください」
「おお、そんなことまで申し訳ないな。
きっと凄く喜ぶと思うぞ!」
「…………」
グレーゴルさんと話していると、不意に後ろから気配を感じた。
振り向いてみると、そこにはレオボルトさんが立っていた。
チェスターさんとノーマンさんはマーガレットさんと話しているから、その隙に離れたのかな?
「…………」
「…………」
「……ああ、そうなんですね。
グレーゴルさん。レオボルトさんが警備に戻るついでに、ポチたちのご馳走を一緒に運んでくれるそうです」
「――え!?
アイナ殿、今ので何か伝わっていたのか!?」
グレーゴルさんの言葉に、レオボルトさんは静かに頷いた。
そういえばいつの間にか、彼の言いたいことは何となく理解できるようになっていたんだよね……。
「レオボルトさんは真面目な方ですから、きっと良い関係になると思いますよ!」
「そ、そうか……?
レオボルト殿、これからよろしく頼むぞ!!」
「…………」
グレーゴルさんの圧のある挨拶に、レオボルトさんは少し微妙そうな顔をした。
でもそのうち、二人ともお互いに慣れていくだろう。……きっと。