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とにかく、不安がっててもしょうがない、よね。
彪斗くんが来ちゃうかもしれないし、須田さんとの約束の時間も迫っている。
わたしは須田さんがプレゼントしてくれたビットローファーに素早く履きかえると、真っ白な校舎に足を踏み入れた。
日の光がさんさんと降りそそぐ吹抜け構造のエントランスを通り抜けると、目指す校長室がある二階へ向かった。
それにしても綺麗な校舎だなぁ。
外は洋風のお城みたいだけど、校内の造りは、スタイリッシュなアートホールとかホテルみたいんな感じ。
校舎とは全然思えなくて、とにかく日の光がよく入るガラス張りの開放的な内装になっている。
いたる所で外の高原の緑が目に入ってきて、ほっと安らぎを感じて、不安だらけの心も落ち着いてくる。
それにしても…
どうして彪斗くんはわたしの名前が芸名か?なんて言ったんだろう?
わたしの名前は、小鳥遊優羽(たかなし ゆう)
変わった苗字だから「小鳥なんとか」とかって言われるのはいつものこと。
もちろん本名で他に名前なんてない。
芸名だなんて…どうしてわたしがそんなの持つ必要があるんだろう。
しかも『特別許可』ってどういうこと?
てっきり、時季外れの意味だと思ったんだけど…もっと深い意味があるみたい。
そもそも『S級ぞろい』って?
わたし…
ちゃんと普通の学校に転入できたんだよね…?
※
その不安は、しばらく歩いたところでもっと大きくなった。
キーンコーン…
チャイムがなった。
それとほとんど同時に、そばの教室から出てきた女の子たちに、わたしの目は釘づけになった。
どうしてKIRAのメンバーがここにいるの!?
そのコたちはまぎれもなく、今人気絶頂のアイドルユニット『KIRA』のメンバーだった!
さらにその後から出てきたのは、
最近テレビでよくみるモデルのRYO…!
それから次から次へと出てくる生徒も、みんな本当に可愛かったカッコ良かったり…。
まるでドラマで出てくる学校みたい。
どうして?どうして?
どうしてこんなに特別な人たちがたくさんいるの?
この学校、なに!?
驚いているのはわたしだけではなかった。
生徒たちも、わたしに驚いているみたい…。
けど、じろじろ見てくる視線は冷ややかで、馬鹿にするように笑ったり、しかめ面を浮かべたりしている。
絶滅危惧種
なんて、さっきの彪斗くんの言葉を思い出す。
たしかに、こんな人たちの中じゃ、黒髪をきっちり三つ編みおさげにして、地味メガネをかけているわたしは、大いに目立ってしまう、よね…。
前の学校では別に良かったけど、
こんな人たちの中じゃ、あまりにも目立ってしまう…。
たまらなくなって、わたしはうつむいたまま駆けた。
「っきゃ」
けど、すぐに人にぶつかってしまう。
「ごめんなさい」
悪いのは、つい危ない走り方をしたわたし。
怒られるんじゃないかと、身を縮めたけど、
「だいじょうぶ?怪我はなかった?」
返された言葉は、予想外にやさしかった。
「なにか急いでいたのかな?ちゃんと前向いて走らなきゃね」
くすり、と笑ったけど、口調はとても穏やかだ。
思わず顔を上げると、
わぁ…きれい…。
栗色の髪、ブラウンの瞳。
白い肌、柔らかく微笑まれた唇
まるでおとぎ話に出てくる王子さまのような、甘い顔立ちをした男の人が、わたしをやさしく見下ろしていた。
彪斗くんもすっごく綺麗だったけど、それとはまたちがった感じ。
この人の方がずっと安心して向き合える。
「もしかして君、小鳥遊優羽ちゃんかな?」
「え、あ、はい…」
どうして、わたしのことを…?
「よく来たね。須田さんが向こうの部屋で待っているよ。案内してあげるよ」
この人、須田さんのお知り合いなのかな…?
そっと背中に手を回されるまま、わたしは黙ってつれていかれた。