コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
***
(佑輝が江藤ちんとイチャイチャしていないことを祈って、お助けコール!)
宮本はスマホを思いきってタップし、弟を呼び出す。数秒後にあっさりと繋がり「もしもし、兄貴。珍しいね」なんていう、のんきな声が耳に届いた。
「今、大丈夫?」
「うん、平気。もしかして、恋人と喧嘩でもしたの?」
ズバリと切り込んできた弟の問いかけに、宮本の頬が一瞬引きつった。
「喧嘩はしてないよ。だけど電話の理由が、恋人繋がりだというのを外してない。佑輝、すごいな」
「すごくないって。友達の江藤さんじゃなく、俺に電話してきたことが結構驚きだよ。いったいどんなこと?」
興味津々な様子が、電話の向こう側からひしひしと伝わってきた。
「実はバレンタインのことで、相談したくて………」
「バレンタイン?」
「そう。佑輝さ、甘いもの苦手だろ。それなのに昨年江藤ちんにチョコを貰ったって聞いてたから、どこのメーカーのものを食べたのかなって。俺の恋人も、甘いものが苦手な人だから」
「あ~、なんか理解。江藤さんに相談したら、ここぞとばかりに冷やかされそうなネタだもんね」
ウシシッという下品な笑い声をあげた弟に、内心ドン引きしつつも、縋る気持ちを込めて返事をする。
「だからこうして、佑輝に相談してるんじゃないか。頼むよ、教えてくれ」
「その店のこと、電話が終わったらアプリ経由で詳しい場所とか教えてあげるけど、果たして兄貴にできるかどうか……」
うーんなんていう唸り声を出した弟の態度で、嫌な予感がした。
「どういうことだ?」
「江藤さんから貰ったチョコ、そこら辺のお店で売ってるものじゃなくて、有名なチョコ専門店で売ってる商品なんだよ。それこそ、行列ができるようなところなんだ」
「行列……。しかもバレンタイン時期だから――」
「そうそう、キャピキャピしてる女子高生やOLがこぞって並んでる場所に、厳つい兄貴が並んだりしたら、ものすごく場違いだろうね」
「そんなところだというのに、佑輝のために江藤ちんは並んで買ったのか」
友人の愛の力をまざまざと思い知り、尻込みしかけた自分が恥ずかしくなった。
「江藤さんの場合、女ばかりの行列に並んだとしても、違和感があまりないと思うんだよね。そこにいるだけで、絵になるからさ。きっとお客さんのために買うのかしらなんて思われて、自然とスルーされるんじゃないかな」
のろけまくる弟の話を聞いて、宮本の口角が自然と上がっていった。
「だよね……。江藤ちんは俺と違って格好いいから、たとえ下着売り場にいたとしても、彼女のものを買うと思われて、自然とスルーされそうだ」
「兄貴の例え話、なんだか極端だなぁ。だけど俺たち兄弟が江藤さんが平気なところに顔を出しても、女性客にスルーされないことくらいはわかる」
「佑輝、すっごく美味しかったって言ってたよね。江藤ちんから貰ったチョコレート」
昨年わざわざ電話を寄越すなり、ここぞとばかりに自慢されていたせいで、強く印象に残っていた。
「うめぇってもんじゃなかった。もんのすごく美味って感じ! チョコレートの味が濃くてさ、それが口の中で溶けていく感じがまろやかで甘すぎなくて、躰が震えちゃうくらいに美味しかった」
「へぇ、そんなに美味しかったのか」
「うん! 江藤さんに言わせると「芳醇なカカオの香りが……」って、テレビに出てくる美食家みたいなことを言ってたっけ。忘れちゃったけど」
一番聞きたいことを忘れた弟に、宮本はできの悪さをひしひしと感じた。
「今年は、どうするんだろうな」
「マメな江藤さんのことだから、二年連続で同じ店のものを贈るなんてことを、絶対にしないと思うんだよね。決算期で仕事が忙しいのに休日を使って、きっとどこかのお店に並んでるような気がする」
「そっか。ふたりは相変わらず、うまくいってるんだな」
「……実は、そうでもなくて」
「喧嘩するほど仲がいいっていうだろ?」
(そういえば最近、江藤ちんからの愚痴メッセや電話が着ていないな――)
「喧嘩というか、そういうんじゃなくてさ。この間、江藤さんの実家に顔を出したんだ。ものすごい勇気を出しまくった」
一度は逃げてしまった挨拶の場に顔を出したことを、心の中で賞賛しまくった。口に出すとすぐにつけ上がるので、あえて言葉にしない。兄として、弟のコントロールはバッチリなのである。