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「はあ~歌った、歌った。次、何処行くよ」
「お前のだみ声音痴のせいで、こちとら気分が悪いんだが?」
「おい、明智。今何つった!」
カラオケで三時間歌い、その半分以上は高嶺が歌っていたのだが、如何せんやはり彼奴の音痴はなおっておらず、その上だみ声、ガラガラと耳で聞くには耐えられない声で歌うため、此方としてはストレスが溜まるだけだった。
俺の言葉に噛みついてきたので、はいはいと適当に流していると神津がクイッと服を引っ張ってきた。顔を向けると少し申し訳なさそうな顔をしていたので、どうしたのかと首を傾げれば、神津は高嶺に向かって感謝の言葉を口にしていた。
「ありがとう、みお君、楽しかったよ」
「そうだろ! 俺の歌声もなかなかなものだろう」
「そら君も誘ってくれて、ありがとう」
「おい、無視かよ」
「へへ~そう言って貰えると、連れてきたかいがあるって感じで、オレも嬉しいよ。ユキユキ」
神津に名前を呼ばれて、颯佐は嬉しそうに笑うと彼の頭を優しく撫でようとしていた。が、彼の身長では届かず、その場で尻尾を振るだけだった。まるで飼い主に褒められて喜ぶ犬みたいだ。
そんな様子を横目で見ていると、今度は俺の方を向いていた。
そして、神妙な面持ちになると、颯佐は俺に「久しぶりのカラオケどうだった?」と尋ねてきた。
「どうと、聞かれてもなあ。ひさしぶりっつうか、お前らと来たっきり以来だしな。まあ、楽しかったが……高嶺の歌さえなければ」
「明智!喧嘩売ってんのか!」
と、外から高嶺に怒鳴られてしまったが気にしないでおこう。
俺の言葉を聞いて、颯佐は安心したような表情を浮かべると俺の手を掴んできた。いきなりの行動だったので驚いていると、彼はそのまま俺の手を引いて歩き出した。
だが、もう片方の腕を神津に捕まれる。
「神津、痛い」
「あ、ごめん。でも、手を繋ぐなら僕と繋ごう?」
そう神津は俺の指の隙間にするりと、指を差し込んでき、所謂恋人つなぎをした。それを見ていた高嶺は颯佐に手を離すよう顎で指示していた。颯佐は可愛らしく小首を傾げていたが、スッと腰を捕まれ、高嶺に持ち上げられた。まるで子供みたいだ。
「ダメだぞ、空。またあの束縛彼氏が嫉妬しちまうだろうが」
「でも、オレとハルハルは友達で、ハルハルとユキユキは恋人同士だよ?」
「それでもだ。ほら、見て見ろよ。彼奴の怖い表情。目が笑ってねえ」
と、高嶺はコソッと話しているつもりなのだろうが丸聞こえな声で俺たちの方を見てそう言った。
俺はまたかと思いつつ、繋がれている手がいつもより熱くて、神津もドキドキしているのではないかと錯覚してしまう。心臓が煩いのは俺だと分かっていても、神津も俺に……とまた期待をしてしまうのだ。
その期待は何度も裏切られているため、期待しないようにと自分に暗示をかける。
「ユキユキ、次、何処に行きたいとかある?」
「次かあ……あんまりそういうの詳しくないから、連れて行ってくれるだけで嬉しいよ。だから、何処でも」
神津はそう言ってにこりと笑った。百点満点の回答過ぎて、返す言葉が見つからない。さすがすぎる。
でも、お世辞や気遣いで言っているわけではないようで、素ででた言葉なんだろうなとさらにあきれというか、神津様々だと思う。
それでもいつもより楽しそうな神津の顔を見ていると、高嶺や颯佐のおかげだなとも思え、一応あの二人に心の中で感謝の言葉を告げておく。
すると、颯佐は神津の顔を見つめながら何か考えていたが、急にパッと笑顔になると俺の方に視線を向けた。
嫌な予感がする。
その証拠に神津は困ったように眉を下げていた。
だが、時すでに遅し。
「じゃあ、じゃあ。ヘリ乗りに行こうよ」
と、颯佐はうきうきと言った感じに目を輝かせていってきた。
ヘリ、ヘリコプターに乗りに行こう。すなわち、自分が運転するからそれに乗ってくれと言っているようなものだった。
颯佐の家は、ヘリコプターの倉庫でもあって、今やヘリコプターを乗れる施設になっているらしい。そのため、免許を持っている颯佐は貸切状態で遊べるとのこと。
正直、興味の会った俺は、警察学校時代、外出許可を取って高嶺と颯佐と俺の三人でいったことがある。その時の爽快感というか、言葉では表せない空の旅はとても良かった。だが、調子に乗って、荒い運転をする事もあったため、最終的には嘔吐してしまったのだが。
だが、神津は乗ったことがないだろうし、興味もあるだろうなと……そう思って、チラッと隣にいる神津を見ると、神津は俺の方を見て目を輝かせていた。どうやら乗りたいらしい。
「ヘリコプターって……そら君が運転するの?」
「そうだよ。ハルハルに自己紹介してもらったように、これでも警察航空隊のパイロットだしね。ユキユキにもあの爽快感、空の綺麗さ知って欲しいし」
颯佐はそう言って、高嶺の腕を組んだ。
「ね? ミオミオもいいでしょ?」
そう颯佐が聞けば、高嶺はゆっくりと空を見上げた。空はだんだんと鈍色に染まっていっており、とてもじゃないが空の綺麗さ。を感じられはしないだろう。それに、これから雨の予報なのだ。いまいっても飛べるか危うい。
その事を察したのか、颯佐は残念そうに肩を落とした。
別に今日じゃなくても良いだろうと、俺が言えばそうだね。と返したが、それでも悲しそうなかおをしていた。颯佐にとってしてみれば、空とヘリコプターは恋人のようなものだろうから。
すると、ポンと手を叩き高嶺が口を開いた。
「じゃあ、温泉にでも行こうぜ。歌ったら、汗かいちまってよぉ」
高嶺はそんな提案をし、ぐっと親指を立てていた。