どれくらいの時間、腹の傷を蹴られ続けたのだろうか。
まるで永遠のように感じられた暴力が、ふと、止んだ。
🧡……はっ、……ひゅ…
荒い呼吸を繰り返す康二を見下ろし、ようやく気が済んだのか、Aは「チッ」と大きな舌打ちを一つした。
もう意識はほとんどない。床に広がる自分の血を、康二はただぼんやりと眺めていた。
しかし、地獄はまだ終わらない。Aは近くにあったティッシュで康二の腹の血を乱暴に拭うと、鞄から取り出した清潔なTシャツとパーカーを、無理やり康二に着せた。
まるで汚れた人形の服を着せ替えるように、その手つきに人間に対する配慮など欠片もなかった。
A「おい、立て」
有無を言わさぬ命令。康二は震える足で、壁に手をつきながらなんとか立ち上がる。
その体を、Aはゴミ袋でも運ぶかのように担ぎ上げると、隣の本来の楽屋へと運んだ。
ドサッ、と音がして、体が柔らかい何かに沈む。楽屋のソファだった。Aは康二をそこに投げ出した。
まるで「疲れて寝てしまった」かのように体勢を整えさせ、何事もなかったかのような顔で部屋を出ていった。自分の仕事に戻るのだろう。
バタン、とドアが閉まる音。
今度こそ、本当に一人になった。
しんと静まり返った楽屋で、康二はソファに横たわったまま、なけなしの意識を必死で繋ぎ止めていた。
🧡(あかん…このままじゃ…)
腹が焼けるように熱い。着せられた服の下で、きっとまた血が滲み出している。このままメンバーが帰ってきたら、一瞬でバレてしまう。
康二は、最後の力を振り絞って、ゆっくりと体を起こした。視界がぐらりと揺れ、吐き気がこみ上げるのを奥歯を噛んでこらえる。
ソファのクッションに、赤い染みがうっすらと付いていた。
🧡(消さな…)
ふらつきながら立ち上がり、楽屋の隅にあったウェットティッシュを手に取る。
そして、ソファに戻ると、震える手で必死にその血の跡を拭き取った。
自分の服についた血も、できる限り拭った。
血の匂いを誤魔化すように、近くにあった消臭スプレーを部屋に撒く。
全ての力を使い果たし、康二は再びソファに崩れ落ちた。もう指一本動かせそうにない。
🧡(これで…大丈夫…かな…)
朦朧とする意識の中、腹の傷をパーカーの上からそっと押さえる。大丈夫。きっと、寝てるフリをしてれば、バレない。疲れてるだけだって、みんなそう思ってくれるはずだ。
遠くから、だんだんと近づいてくる賑やかな声が聞こえる。大好きな、8人の声だ。
康二はゆっくりと目を閉じ、ただひたすらに、メンバーたちの帰りを待った。
嵐が、すぐそこまで来ていることも知らずに。
コメント
6件
康二〜!!早くメンバーにたすけてもらいな!!
