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※ふわっと死ネタ。マイクラ肝試し(前川郷)でのご都合設定。
年に一度だけ、入ることのできる場所。
死者も生者も集う所。
「おぉ、やっぱすげーな」
「前より広がってますねぇ」
「すごいよね」
「ですね」
賑わうそこに変な懐かしさを感じつつ楽しそうにしている3人を見ていた。
「どこから行く?」
「とりあえず新しい場所とか見て回ってみますか?」
「サウナ残ってんのかな」
「トラゾーそればっかじゃん」
そんな会話をしながら歩いていると、ぺいんとが急に立ち止まりそれにしにがみさんとクロノアさんがぶつかった。
「いったッ、ちょっとぺいんとさん、急に立ち止まってどうしたんですか…っ」
「ぺいんと危ないよ。しにがみくん大丈夫?」
「僕は大丈夫ですけど…」
「……」
無言かと思ったら急に走り出したぺいんとにみんなして驚く。
「「「ぺいんと(さん)⁈」」」
ぺいんとが走って向かう方向を見れば、どことなく見たことのある服装の人物。
2人もそれに気付いたのか同じように走り出した。
「「「リアム看守!!」」」
呼ばれた人物は驚きもせずゆっくり振り返っていた。
前ほどの顰めっ面はなく、少しだけ和らいだように見える。
目つきは鋭いままだけど。
なんとなくみんなの後を追うようにそっちに向かうと抱きつこうとしていたぺいんとたちを交わしてリアム看守は溜息をついていた。
「相変わらず騒がしい奴らだな」
「辛辣っ!本物のリアム看守だ!」
「俺の偽物がいたら……いや、いたにはいたのか」
「あいつ…道化師は結局どうなったのかは分かりません…。…生死は不明です」
「そうか…」
詳細までを聞いたわけではないけど、クロノアさんにとっても因縁のある相手。
新聞にはメデューサ号で発見された遺体は2人。
リアム看守とスティーブ看守だったらしい。
ずっとそわそわしてるしにがみさんに気付いたのかリアム看守がどうしたと声をかけた。
「リアム看守がいるってことはスティーブ看守もいるんですか⁈」
「あぁ……あいつは向こうの屋台で買い食いしている。…全く死んでもあの性格は治らんな。…あとで声をかけてやってくれスティーブも喜ぶ」
リアム看守がいることに驚きと喜びが隠せてない3人の後ろ姿と、呆きれと滲み出ている嬉しそうな顔のリアム看守に少し後退る。
俺がいないほうが良さそうな雰囲気だ。
そもそも話には入れないし。
「…えっと、…みんな話したいこと沢山あるだろうし、俺邪魔になるだろうから向こうのほう行ってるわ」
「え、トラゾー?」
「トラゾーさん?」
「トラゾー?」
じっと制帽から覗く鋭いアクアブルーの瞳。
俺の汚い心を見透かしているようで、怖くて逃げた。
「俺の知らないみんながいるのを見たくない…」
そんな醜い感情を。
1人でぶらぶらと散策しながら、知り合いたちと話をしたりしてなんとなく時間を潰していた。
「はぁ…俺ってなんて心が狭いんだろうか」
友達を取られた、って感覚に近い。
そして何より俺の知ってるリアム看守はもっと厳格な人で、あんな柔らかく笑ったのは見たことがなかった。
3人と長く関わったことでそれなりの関係を築いている為だと思う。
「…いっつもひとりだな」
別のエリアに行く為の橋の欄干に寄りかかる。
いつもひとり。
1人で潜入して1人で下調べして、独りでみんなを待つ。
だから、俺はひとりだった。
「慣れたことだろ…今更、拗ねるなんてガキか、俺は」
3人はリアム看守と一緒にスティーブ看守のところに行って話でもしてるのだろうか。
だとすれば尚更俺は戻らないほうが良さそうだ。
「邪魔はしたくねーからなぁ…」
「誰の邪魔をするんだ?」
「うわぁあっ⁈」
突然声をかけられて驚きのあまり下の川に落ちそうになった。
「危ない…!」
咄嗟にリアム看守に腕を引かれて川に落ちることなくその場に座り込む。
「あ、ありが、とう…ございま、す…」
心臓がすごく跳ねている。
「…いや、俺も急に声をかけたからな。すまなかった」
「いえ…ぼーっとしてた俺が悪いし、結果助けてもらったんでそんなに謝らないでください」
掴まれてる腕を引かれ立ち上がる。
申し訳なさそうな表情。
表情筋は死んでると思っていたから、案外こう言う顔をすると幼く見える。
「……お前、失礼なことを考えていないか」
「え?なんのことですか?」
顔に出たか?
パーカーフェイスは得意なはずだけど。
「8番と同じような顔をしているぞ」
「ぺいんとと?」
あいつは顔に出るより口に出しそうだけど。
「あいつは顔にも出て口に出していたがな」
「あ、やっぱ?だと思いました」
「…俺はお前のほうが幼い顔に見えるがな」
「……それ気にしてるんで言わんでもらってもいいですか」
「…ふっ」
口元を押さえて笑うリアム看守に、諦め半分嬉しさ半分で笑った。
「いつもそう笑ってたらぺいんとたちも怖がらなかったのに」
「威厳というものがあるだろう。それに、看守と囚人だ。仲良くなる必要はない」
「命かけてあいつらのこと助けてくれたのに?」
「……」
ずっと言いたかったこと。
会うことができないと思っていたから、やっと言える。
「……ありがとうございました。俺は3人の仲間を一度に失うとこでした。リアム看守のおかげで、俺はまたみんなと笑い合うことができてます。ずっと感謝の言葉を言いたくて、でも会うことは叶わないだろうと思っていたので…ここで会えたことも含めて感謝してます」
「………情が全くなかったわけではないが、目の前で助かる命があるならばそれを守るのが俺の使命だ。俺は当然のことをしたまでのこと」
制帽を被り直したリアム看守は欄干に寄りかかった。
「それでも、…あなたがいなければ俺は大切な友人であり仲間を永遠に失うところでした。…本当にありがとうございました」
はぁと溜息をついたリアム看守がそっぽを向く。
「あいつらにもお前のような誠実さと素直さがあればな…」
「可愛げがあった?」
「そこまでは言っていない」
深く制帽を被るのは照れ隠しの癖だろうか。
きっと無意識だと思うけど。
「案外面白い人なんですね、リアム看守って」
思わず笑ってしまうと、リアム看守は肩を竦めた。
「俺とは無縁の褒め言葉だな」
アクアブルーが急にこっちを見る。
「……」
「?、リアム看守?どうかしまし…」
ドォォン、と空と地上に鳴り響く音。
体を震わせるような重低音に空を見上げる。
「あ」
空に大輪の花が咲いた。
それは、ここが閉じるという合図。
「10番……いや、トラゾー」
「はい…?」
「約束しよう。俺はお前のことだけを待つ。だから、お前も俺以外のことは考えるな」
次々に上がっていく花たち。
色とりどりのその火花は、一瞬で散っていく。
この人が散ったように。
「そんな顔をするんじゃない。死んだ身ではあるが、こうやってここに留まらさせてもらっている」
「…リアム、看守…?」
「ほら、あいつらが待っている。お前はお前のいるべき場所に戻れ」
一際大きな花火が上がり、空を照らした。
これが完全に消えればここに来れるのは1年後。
「また1年後逢おう。それまでお前のことを待ってる」
「嘘、じゃないですよね」
「俺はできない約束はしない」
勝手に溢れ落ちる涙が伝う頬を撫でられ、ふっとリアム看守が優しく微笑んだ。
「さぁ行くんだトラゾー」
肩を押されて、急いでみんなのところに走り出す。
ちらりと肩越しに後ろを向けば、まだそこにリアム看守は立っていた。
ちゃんとみんなと合流するまで見張ってるように。
あぁ、俺はあの人のことが好きだったからみんなと仲良くする姿を見たくなかったんだ。
俺の勝手な無意識な一目惚れ。
「(それを、今自覚させておいて、ああいうこと言うんだもん)」
時間は残り僅か。
立ち止まって振り返る。
遠目にも驚いて見開かれるアクアブルー。
「俺もあなたの為に1年後また来ます!だから、待っててほしいです!」
リアム看守の言ったことに対して返せる精一杯の言葉。
ちゃんとした言葉は1年後に言う。
きっと、さっき以上に驚いた綺麗なアクアブルーが見れることだろう。
「リアムさんまた!!」
もう振り返りはしなかった。
あの人もそれは分かっているのかもう、何も言わなかった。
「間に合うか…っ⁈」
3人の焦った顔とそわそわしてる後ろ姿が見える。
この橋を渡れば、もう入れない。
「ごめんみんな!!」
バッと振り返ったみんなは泣きそうな顔になっていた。
「焦るじゃんか!全然、トラゾー戻ってこないし、リアム看守もどっか行っちゃったし…!」
「ごめんって…」
「トラゾーさんがこのままどっか行ったままかと思いましたよ…」
「帰ってこないかと思ったよ…」
「すみません…」
完全に橋を渡りきったところで、ふっと辺りが明るくなる。
元の場所に戻されたようだ。
「……」
さっきの場所は本当に現実とは全く違うのだと実感する。
現世(うつしよ)と隠り世で住む世界は違えど、年に一度だけ会うことができる。
「(まるで織姫と彦星みたいだな。…まぁ、どっちも男だけど)」
「てかごめん。俺のせいであんま回れなかったな」
「いいって。来年も行けるし」
「そうですよ。それにここでだってお祭りはあるんですから」
「2人の言う通りだよ。トラゾーがいてこそなんだから気にしないで」
「みんな…。…うん、ありがとうございます」
「つーか1人でどこ行ってたんだよ」
みんなで歩いているとぺいんとにそう聞かれた。
クロノアさんとしにがみさんも俺を見ている。
「んー……秘密。来年教えてあげる」
人差し指を立てて笑うと、急に拗ね出す3人。
「は⁈いや今教えろ!」
「「そうだそうだ!」」
「教えなーい」
「「「はぁ⁈」」」
と言うより説明が難しいし、めんどくさい。
だからちゃんと言えるのは来年になると思う。
あの人と同じような驚いた顔をするのかもしれないし、どう言われるかは分からない。
でも、自覚してしまった以上はリアム看守にもそれなりの責任は取ってもらわないといけないからな。
「(開口一番に言ってやろ)」
あなたのことが好きです、って。