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#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン
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意外というか、常識的な態度に虚を突かれた。てっきり自分の欲を満たさないと、満足しないと思っていたから拍子抜けだ。
それから日用品や小物など購入し、琥珀色のリボンと白銀の髪留めを貰った。
(ぐっ……結構高価そうな物を選んだのに、ルティ様を喜ばせただけなんて……)
完敗だった。八つ当たりのようなもので、ちょっと高いものを強請って、ルティ様を困らせようとしたのだ。しかし困るどころか嬉々として即買い。しかももの凄く上機嫌。
「シズクが強請ってくれるなんて……!」
(逆効果!)
「しかもこの色は私の色……ふふっ」
(墓穴を掘った!!)
ラッテ商会とリンデン商会の皆様方に祝福されて、足早に帰って行った。家の中にはこれでもかというほどの服と小物、そしてアクセサリー一式が。
(こんなはずでは……)
敗北感に打ちひしがれていると、家の呼び鈴が鳴った。商人の次は食事の配達だそうだ。この世界でも料理の配達があることに少しだけ驚いたが、前世は王族だったので市井の生活環境に明るくなかったことを思い出す。
(そういえば西の森全域フェアリーロズって、19年前にあった? 戦争や紛争で国の名前が変わることもあるし……うん、世界地図も必要だわ)
そんなことを思いながら、客間で待っていると女性が配達用の紙箱を運んできた。人族のようで金髪のポニーテルに、ウエイターらしい白いシャツと黒いスカートを履いていて美人さんだ。もっとも私を見た瞬間に、笑顔から一変して明らかな殺意を向けてきた。
「チッ」
(今、舌打ちされた!?)
ルティ様の恋人、あるいは彼を好いているのだろう。その眼差しは前世でよく見た。あれは自分こそが彼にふさわしいという目だ。
まさかこの人がルティ様の友人なんてオチはないだろうか。あの幼馴染みと性格の悪さは同じくらいだと思うけれど。
(それにしても子どもの私にまで殺意を振りまくなんて、性格が歪みすぎてない?)
「エルリカ、代金だ」
「まあ、ルティ。いつから養い親になったのかしら」
「料理をテーブルに置いたら早く出て行ってくれ」
超塩対応。
ルティ様は商会の人たちのように、彼女を私に紹介する気はないようだ。友人ではない感じがして、ちょぴっとだけ安心した。
(これで親友とか言い出さなくて本当に良かった)
ルティ様の素っ気ない態度に対して、女性は全く怯まない。そして察しも悪いようだ。あるいはワザとか。
「もう。いつもは一緒に食べても良いって言ってくれるのに酷いわ」
ルティ様は、盛大なため息を漏らした。
「今すぐ帰らないのなら、店に言って配達禁止扱いにするが?」
「ごめんなさい! そんなつもりは……! ただ養い親なら、その母親が必要だって思って……。もし母親役が必要なら、私立候補してもいい?」
「そんなものは必要ない」
「もう、冷たいんだから!」
(何この茶番……。なんで今日に限って、美玲と同じような性悪女を二度も見かけないといけないの)
男に媚びを売って同性を蔑む悪女。どの世界にも居るのだなと思ってしまった。テーブルには持ち帰り用の紙箱が三つある。確実に彼女も居座る気な満々だ。そして二人きりになるのに、私は邪魔だったので先程睨んだのだろう。
モヤモヤしたけれど、私には関係ない。
「私は部屋で食べますね」
「ええ!?」
「まあ! 聞き分けのいい子ね」
「失礼します」
私は自分の分の食事を手に取って、部屋を出た。面倒なのには関わらない。ルティ様は同居人で保護者なのだから。
面倒ごとには関わらなければ良い、そう思っていた私は甘かった。
***
「ルティ! 今日は良い肉が獲れたから、ローストビーフを持って来たわ!」
「ちょっと作り過ぎちゃって」
「今回のキャラバンで良いワインを譲って貰ったの!」
(メンタル強っ!)
毎日のように朝昼晩押し掛けてくるようになった。ぐいぐい来るがルティ様は《緑竜の酒場》の料理が気に入っているのか、出禁にしていないようだ。
私的には美味しい料理が食べられれば良いのだけれど、考えが甘かった。
(わあ……テンプレすぎる)
二日目以降、私の料理は明らかに残飯と思われるものが詰め込まれていた。どう考えても食べられるようなものではない。それを確認して紙の箱を閉じた。思わずため息が出てしまう。
(前世でもヴィクトルの傍には幼馴染みがいた。自分が妃になると思っていたと喚いていた人。陰湿で狡猾でほんとーーーに嫌いだったわ!)
思い出したら腹が立ってきた。今世でルティ様とあの女性がどうなろうと、私には関係ない。でもあの人がルティ様の妻になったら虐げられるか、追い出される。
この年齢で一人で生きていくのは現実的ではない。それに元の姿にひょっこり戻ったら、それこそ全力で殺しに来そうな気がする。
私に何もしてこないのなら良いけれど、明らかに害しようとしてきたのだ。そんな人間を放逐するつもりはない。
(それに今回の件を言い出してみて、ルティ様がどう反応するか……。知りたい)
無視するか。表面上取り繕うか。あの女の味方になるか。
見極めるにはちょうど良い機会だ。
翌日。
私は昼のランチパックの三つのうち、星のマークのない紙箱を取った。二日目以降、「お嬢ちゃんの子供用は、星マークを付けているから」とあの女の人──エルリカのほうから言い出したのだ。
(私が星マークじゃない紙箱を手に取ったら、確実に自分が残飯か、ルティに残飯を開けさせることになる)
「あら。お嬢ちゃん! 貴女の食事は星マークだって言ったわよ。ほら、手に持っているのをテーブルおいて」
「いや」
きっぱり断るとエルリカは笑顔が引き攣った。思った以上に挑発に対して耐性が低そうだ。私は目を潤ませてルティ様に向き直る。
「ルティ様は、私が嫌いなのですか?」
「シズク? どうしてそんなことを言うのですか?」
「ルティ、子ど」
「お前は黙っていろ」
ルティ様はエルリカを押しのけて、私の傍に歩み寄る。片膝を突いて目線を合わせてくれた。ヴィクトルとは全く違って紳士的だ。そして今にも死にそうな顔をして私を見つめ返す。
「シズク」
(そんな簡単に絶望した顔されると、良心が痛むのですが……。いや復讐的には大成功なのですが……なんか複雑)
「私がシズクを嫌いだと、どうして思ったのですか?」
「だって私だけ料理がいつもぐちゃぐちゃで、ゴミとかも入っているから」
「!?」
「なっ、何を言い出すのよ!?」
エルリカは声を荒らげた。私が何も言わないと思って安心したのね。様子見をして証拠を押さえるために泳がしていただけなんだけれど、そう考えないのだろう。
そう考えると前世の幼馴染みは、かなり悪質で狡猾だったと思う。だって証拠を残しておくんだから。爪が甘い。
私が大人しくて、ルティ様に言い出せないとでも思ったのかしら残念でした。