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高校を卒業し、社会人となった俺は、就職と同時に実家を出て、一人暮らしを始めることにした。最初の方は親の居ない一人だけの生活に胸を踊らせていたが、ここ最近になって親のありがたみをことごとく感じるようになってきた。
掃除や洗濯に食事まで、全て自分一人で管理するのは大変で、仕事から帰って来ては家事をした後、疲れ果ててそのままソファーで寝る事が多かった。
安さで選んでしまったこのアパートは、どうも壁が薄く、隣の生活音もダダ漏れで、ろくに寝れたものではない。
いっその事大家さんに注意してもらおうかとも思ったが、お隣さんは子供も多く、色々とトラブルになるのも嫌だったので、結局何も言わずに我慢していた。 そんなある日の事だった。
いつものように夜遅くに家に帰る。
玄関の扉を開け、薄暗い部屋に言葉をかけるも、暗闇に消えて帰ってくることは無い。
靴を脱いで短い廊下を進み、リビングにある小ぶりなソファーに腰をかける。
疲労で今にでも倒れてしまいそうだった。
しばらくしてからまた立ち上がり、洗濯物を集めるが、袖の部分が引っかかっているようでいつもより取りづらい。
こういう小さなストレスでも、溜まればたまに爆発するので注意している。衣類を洗濯機に入れて、スイッチを押す。
そして、洗濯が終わる前に掃除を済ませる。
「今日は随分と汚れたな」
掃除が終わったタイミングで洗濯機のアラームが鳴る。
洗濯物を干した後、ようやく食事の準備に取り掛かる。
今日はお隣の佐藤さんから上物のお肉を頂いたので、久々に凝った料理を作ってみた。
食感はいつもより柔らかく、味もいつもより滑らかな気がした。
食事を終えた後は食器を片付けて、自室に戻り、布団に篭もる。
いつも通りの生活だったが、そろそろ限界を感じていた。
お隣さんからは毎日のように苦情を言われる。大家さんも既に口を聞いてくれなくなってしまった。
最近はストレスのせいか味もよく分からない。
仕事ではいつまでやっているんだと、上司に怒鳴られる日々。
布団の中で引っ越しを考えていると、玄関の方から足音が聞こえてくる。
ピーンポーン
静まり返る部屋をチャイムの音が鳴り響き、いつもより大きく感じた。
「こんな時間に誰だ?」
重い身体を持ち上げ、玄関へと向かう途中に 窓から赤い光が点滅しているのが見えた。
疑問に思いつつ扉のスコープを覗き、訪問者を確認する。
外には警官の格好をした男が二人。
何か事件でもあったのかと急いで扉を開ける。
「…ど、どうも」
「あ、こんな時間にすいません…〇〇署の者なんですけども」
警官の話によると、最近この近くで妙な物音がするとご近所さんから通報があったらしい。
「…いやぁ、音なんて聞いたことないですね」
「そうですか…とりあえず、最近何かと物騒なので気を付けてくださいね、もし何かあれば迷わず直ぐに通報してください」
警官を見送った後、急激な疲労感に襲われ、その日はそのまま玄関で寝てしまった。
次の日の朝、身体が思うように動かず、会社に連絡を入れて一日休む事にした。
「これ以上いたら、もう食っていけないもんな」
どうせならと丸一日の休日を使い、引っ越しの準備を始める。
大家さんは相変わらず口を聞いてくれないが、今度またちゃんと話し合えばいいかと後回しにした。
数日が経つと、もうお隣さんから貰い物を受け取る事も無くなった。
結論から言うと、 やっぱり俺の判断は正しかった。
二週間ほどで新居も決まり、直ぐに引っ越しする事が出来た。
いつも通り何もかも上手くいった。
仕事も一段落着いて、また新たに仕事が入った。
この家のお隣さんも大家さんも、前の家と同じくみんながが優しく歓迎してくれた。
次の仕事も、なんとかやっていけそうだ。