テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ん…」
微かなアラーム音で目が覚める。
4時30分。よし、ジャスト。
今日は金曜日。このあとZIPの生放送がある。
隣で規則正しい寝息をたてている佐久間の頭を撫でる。
今日で最後かもしれないから、これくらいは許して欲しい。
失敗して欲しい、そんな想いが頭をよぎった。
最低だ。
こーじと佐久間の幸せを願っているのに、佐久間を幸せにするのはおれがいいと考えてしまう。
戸棚から賞味期限ギリの食パンを取り出し、1口大にちぎって食べる。
佐久間を起こしちゃいけないので、慎重に玄関をあけた。
腕時計を確認する。まだ5:00。
お酒が抜けた今、正直佐久間が自分のベットで寝ているという事実に息がつまり、こんな時間に出てきてしまった訳で。
ちょっと早かったかな、なんて思うけど、電車には既に人が沢山乗り込んでいて飲み込まれそうだった。
「〜、!…〜〜…!〜笑笑」
「〜〜、?」
「ーーー!!」
「〜、ーー?!」
「…お疲れ様でしたー!」
「、お疲れ様でした、!」
放送を終わらせ、そのまま早足でスタジオを移動する。
今日は来週のそれスノの撮影があるのだ。
ピコン。
タクシー内でメッセージがあった。
『 ZIP見たよぉー、昨日はありがと!
もう皆スタジオ入りしてるよ!』
「ん。ありがと。今向かってる」
素っ気ない返事になってしまった、と反省しながらタクシーを降りた。
「っ、すいませッ、遅れましたぁ…」
「ふははぁっ!!阿部ちゃん息切れやべー!!」
人の顔を見るなり爆笑しだした翔太。
失礼な奴だよ、本当に…
「おはよ、阿部ちゃん。お疲れ様ぁ」
「うん。ごめん、ありがと…」
ふっかの優しさは本当に身に染みる。
貰った冷たいココアを飲んで一息つき、収録が始まった。
「阿部ちゃん…っ」
収録終わり、もじもじとやって来た佐久間。
たじたじとこちらに歩み寄り、身長差故上目遣い。
仕事で疲弊しきっていたおれには結構きた。
「…っ、どしたの?」
「あのねっ…」
「ん」
「今日、こーじに告白しようと思って…」
「、そ…っか。頑張って、佐久間なら大丈夫だよ」
「んぅ…、そぅかな…」
不安気な佐久間を撫でる
「絶対成功させてもう家でお世話になることはないように!」
「ふふ、にゃす!」
顔を赤らめながらも、意気揚々とこーじに話しかけに行く佐久間の背中を見送った。
結局、何も出来なかった。
でも、佐久間が幸せなら、それで。
そんなの、本心じゃない。
奪ってやりたかった。佐久間を。
「どしたの阿部ちゃん」
「っえ、」
こちらを覗き込むふっか。
本当に、何処までも気が利く。
「べ、つに…」
気にかけてくれて、嬉しかったのに。
素直になれないな。
「…阿部ちゃんさ、今日飲み行こ?」
「んぇえ?、ぅん、いいよ」
突然のお誘い。楽しそうだからいっか。
見せられたふっかのスマホには幾つかの居酒屋が表示されており、「ここいいね」、だの「これ食べたいね」なんて他愛ない事を話し、早速店へとむかった。
「ぁはは、こうやって飲むのも悪くないね」
「ふっか、飲みすぎね」
「あべちゃんも飲みなよぉ、!」
「もぅ…」
酔っ払ってヘロヘロなふっかを介抱しながら、会計を済まして店を出た。
途中で水を買って、ふっかの口に突っ込む。
「ゴクッ、…んー…」
「んー、はこっちのセリフ!しっかりしてよー!」
「んん…」
「もう我慢ならん…」
フラフラ歩行のふっかに肩を貸すのはいいのだが、俺の重心までズレて転びそうだから勘弁。
ついにはへたり込んだふっか。
こういう時はねー…
「もしもしぃ…」
『もしもし、阿部?』
「そー。ふっか酔い潰れてさぁ。迎え来れそぉ?」
『あー。なるほど。それはごめん、今行く』
「助かる」
電話を切り、ふっかを何とか立たせて再び歩き出す。
「はぁ…はぁ、」
「阿部!」
「ひかるぅー!!」
ひかるにふっかを引渡し、おれはふっかの荷物を持つ。
そのまま家まで送っていった。
それにしても、この筋肉…
もといひかる、マジで力持ちすぎる。
ふっかをひょいと持ち上げ、早足で軽々運んでいる。
「阿部、ありがと」
「んーん。俺も息抜きになったから、ふっかにもありがとって言っておいて」
微笑みを浮かべ頷くひかる。
ふっかを任せて、俺は家へと向かった。
それにしても肩がいてぇ。
スマホを取り出し、ふっかに
”今日はありがと”
とだけ連絡を入れ、スマホを閉じた。
マンションの鍵を取り出し、エレベーターをおりたその時。目に入った自分の部屋を見て愕然とした。
ドアの横で蹲る人影…あれは確実に、
「…佐久間?」
「、ぁ?あべちゃ、?おかえり」
その瞳は腫れていて、目元が薄らと赤らんでいた。
「取り敢えず入って」
「うん…、ありがと」
いつもの佐久間じゃない。
「ごめんね…、今日も…来ちゃった」
力無く笑う佐久間を抱き締めると、何かが崩壊したように泣き始めた。
しゃくりあげる佐久間の背中をさすり、さらに強く抱きしめた。