テラーノベル
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「貴方様へのデザートでございます」
目の前には直径30センチはありそうな皿の中央に寄り添う黒と緑。黒は多分ガトーショコラで、緑は…多分、抹茶かピスタチオのアイス。腹は程よくパンパンだが色のコントラストに食指が俄然伸び、幅広のスプーンで掬って一緒に口へ。
そこで漸く、気付いた。
体の内と外を蝕んでいた疲弊が飛び、胸にへばり付いていたヘドロのような檻が融解していた事に。
口にする度に癒されるような…不可思議で感動的な現象の名が分からず、傍らで紅茶を注ぐ月下美人を見上げて笑い掛ける。目黒なりの言葉を添えて。
「…美味しくて、素敵なご馳走を…ありがとう」
「お元気になられたのならば、何よりです」
ふわり。笑みの花が綻んで咲く。
あぁ……やっぱり好きだ。
俺はこの人が好きなんだ……あ、そうだ。帰る前に名前訊いておかないと。
紅茶の絶妙な渋味を啜りながらそう思い付いた、その直ぐ後だった。
──ドクンっ…!
鼓動が激しく一鳴きし、下腹部に血流が集まっていく、そんな感じがして。足首までスッポリ隠れるテーブルクロスを急いで捲り、目黒は自身を確かめる。
…、…最悪だ。
立派なテントを張った股間をやや内股で、プラス前傾になって隠しつつ、気拙げな目線をエプロン辺りへ彷徨わせ。
「…~すみません、お手洗い…どこ、ですか」
弱々しい声音で呟き、訊ねた。
「あ…~、…そういう事でしたら」
言いながらしゃがむもんだから、バッチリ目と目が合ってしまった。
ヤっバ、上目遣い激かわ…~じゃなくて、鎮まれ、俺…っ!
慌てふためき俯くしかない目黒の視界端で人影がパっと消え。あろう事か再び逢瀬を交わしたのは、自身の膝の…先。
「うおっ!?…なっ、な……」
表なしのテーブルクロスを暖簾をくぐるように掻き分けて微笑む顔は、一目惚れをした相手で間違いない。
でも、なんでこんな所に…。
テーブルの下に潜ったのだ、と分かった時には既に遅く。目黒の下肢はあっという間に寛げられ、喜んで飛び出す目黒の目黒に両の指先が添い。
「失礼いたします……ぁむ」
浅く飲まれた亀頭が、あくまでも慎ましく吸われた。
「っあ、…~くっ」
図らずも弾んだ声が上がって奥歯を噛むが、感じ取った快感は誤魔化せない。熱い吐息、滑る舌、窄まる唇…自分でする稚拙な手淫とは丸っきり別ものに目黒の呼吸は荒ぶり、膝が自然に開いていく。
「んっ……おっきい」
囁いて横の髪を耳に掛ける仕草が色っぽくて堪らず、軽く腰を突き上げて上顎を抉る。
「ぐぅ…~んん、んっ」
こら、めっ。
そんな風に聞こえて、目黒は腹筋を揺らして笑いを零す。
お詫びに濃い茶の髪をわしゃわしゃしてあやし、戯れに耳の穴へ小指を忍ばせたら。
「ひゃっ~…もう、大人しくしててっ」
弱点だったらしく身を捩って逃げられ、あまつさえ爪先を甘噛みされた。
…かっわいい。にゃんこみたいだな。
ちょっぴり走った疼痛さえ愉悦になり、亀頭から先走りがとぷっ…と零れる。舌が艶めかしく這い雄臭い雫を啜って飲み下す、その尽くしっぷりが目黒の恋情を酷く焦がした。
髪を手で梳き、項まで撫で降ろして愛撫をする。言い付け通り大人しく繰り返す内に、膝上の瞳が潤み出す。偶に見上げて来るのがあざとくて、流石にクるものがある。
一際硬く張った陰茎に気付いたか、喉奥まで届きそうなほど咥え込まれ、目黒は天を仰いで熱息を吐いた。
「はぁ…っ、いい…~さい、こ…」
唇でキツく食まれ、掌で根元を握られ、目黒の全てが性急に扱かれていく。呼吸の間隔が徐々に縮まり、汗の玉がこめかみからつぅ、と伝い。
「ぅ、く……っ!!」
閉じた瞼の裏が白一色になった、瞬間。
初対面の、名前も知らない人の口内に、目黒は精を吐き出す。
「はっ…はっ、…」
「ふ、ん…んっ…んぅ」
眉を寄せて苦し気な声を漏らし、それでも咥えて離さずに嚥下を試みる姿は、まるで愛されているようで。気付けば、手の甲で頬を撫でていた。
そんな優しさに擦り寄って甘えて来ながら、陰茎を隈なく舐めて綺麗にし、元通りに仕舞う淫らで健気な人を、恋人だと錯覚してしまい。キスがしたい…そう思い顎を取る前に、来た時同様パっと消えた。
「え……」
間抜けな声と共に横を見たら、折目正しく立ち上がる清き人に微笑み見返され。 狐につままれたような心地になった、が。
口端に付いた白濁を指で掬って舐める挙動で夢ではなかったと思い至り、胸を撫で下ろす。
「あのっ…今の、あの……」
一時は性欲に負けた勇気を振り絞って、先手を打つ。なのに、気恥しさが湧いて来て語尾がしおしお萎んだ。
…今の、どういう意味だったかって訊くのか?~…出来ない。あんなのされたの自体初めてだし…こんな時、なんて言えばいいんだろう。
迷って押し黙る目黒へ温かい声が降り注ぎ、一緒に空のカップへ紅茶が注がれる。
「お茶をもう一杯どうぞ。…きっと、心が安らぎますよ」
…お茶ぐらいで ドキドキしっぱなしの心が安らぐかっての。
思ってはいても嫌われたくない目黒は、少し冷めた紅茶を飲んだ。
383
──…ん。なんだ…心臓が、煩くなくなった。
騒がしかった筈の動悸がやたら静かだ。怖いくらいに。訳が分からなくなって、得体の知れない人を見詰めて問う。
「紅茶…飲んだだけで、どうして…」
「すみません、そろそろ店仕舞いのお時間になります」
返事は答えになっていない。けれども片付けを始める姿を見ては、追求をするのも躊躇われた。いや、どちらかと言えば変に食い下がって悪印象を残したくなかった、が正しいか。
帰り支度を手伝ってくれる深切な人をチラチラ盗み見、さり気なさを装ってずーーっと訊ねたかった事を口にする。
「えぇと、名前…なんていうんですか?」
「はい?…此処は〝口福レストラン〟といいます」
「幸福…レストラン」
「はい。また来週、お会いしましょう」
両手を振る何とも可愛い人へ振り返し、後ろ髪を思いっきり引かれながら店を出た目黒は、はたと気付く。
名前……~違うって、店じゃなくて。
訊き直そうと後ろを見た目に映ったのは、薄暗くて狭い路地だった。
コメント
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わあ…第2話、一気に読んじゃいました。第1話の温かい雰囲気から一転、あの展開には本当にびっくり…!目黒さんの戸惑いとときめきが交錯する心情描写がとても繊細で、特に「猫舌」みたいに甘噛みされるところとか、思わず笑っちゃいました。あの距離感の描き方、好きです。最後の路地に消えたシーンも、余韻がすごくて。次が気になって仕方ないです…!