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あれは何なの……まさか、あの少女が湖の怪物? いや、怪物は人を襲ったりしないってレナードさんが言っていたじゃないか。


「……クレハ様」


リズが私の名前を呼ぶ。消え入りそうなほどに、か細い声だった。私は彼女の手を更に強く握る。少女の正体を考えるのは後だ。早く逃げないと。釣り小屋までさほど離れていなかったのに……今はその距離がとてつもなく長く感じた。

ようやく小屋の入り口まで戻って来ると、私はほっと息をついた。しかし、その僅かな安堵もすぐに打ち砕かれてしまう。

上空からさっきの少女が降ってきたのだ。文字どおり降ってきた……私達の目の前に。釣り小屋の屋根から飛び降りてきたんだ。背中に羽でも生えているのかと錯覚してしまうくらい、軽くて音のしない着地。少女は扉の前を陣取り、行く手を阻んだ。これでは小屋に入ることができない。引き返そうと後ろへ振り返ると、振り返った先にも同じ少女が立っていた。


「なんで……」


少女が2人いる。1人は小屋の前、2人目は私達の背後に……。どうしよう、両サイドから挟まれてしまった。少女は最初から2人いたの? 二対の瞳がこちらの動向を伺っている。何を考えているのだろうか。無表情で生気を感じられない顔だ。混乱と恐怖で体が動かない。

背後にいた少女がすっと右腕を前に伸ばした。その腕が見る見るうちに形を変え、細い円錐状になっていく。レナードさんを攻撃した時と同じ……先端は鋭く尖っていて針のようだ。

頭の中で必死に逃げろと叫んでいる自分がいる。けれど、すくんだ体は言う事を聞いてはくれない。足が地面に縫い付けられてしまったかのように、そこから一歩も踏み出せなかった。このままでは、ふたり共やられてしまう。少女が私達の方へじりじりと迫ってくる。そして、その針のような腕を頭上に振りかざした――







もう駄目だと……固く瞳を閉じた。しかし、いつまでたっても痛みはおろか、何の反応も無い。恐々としながら瞼を開けると、少女は腕を振り上げた状態で静止していた。私は呆気に取られてしまう。

だがその直後、少女の体がぐらりと傾いた。そして、そのまま重力に従い落下する。びちゃりと嫌な音をたて、それは地面に転がった。少女の体は……上げた腕の脇から斜め下、脇腹にかけて切断されていたのだ。地面に落ちたのは切り離された少女の上半身。目を背けてしまうような光景だったけれど、私達の意識は切断された少女よりも、その後ろから現れた人物の方へ向けられた。


「ルイスさん!!」


少女を倒し、私達を助けてくれたのはルイスさんだった。震えて使い物にならなかった足が、ここでようやく動きだす。私とリズは一目散に彼の側へ駆け寄った。

ルイスさんは私達を背後に庇うと、すぐにもう1人の……小屋の前にいる少女へ向かって剣を構えた。いつの間にかこちらの少女も腕を変化させていた。この少女の腕は針ではなく、鋭く砥がれた刃のような形をしている。

相手がこちらに攻撃を仕掛けてくる前に、ルイスさんが動いた。少女との間合いを一気に詰める。とてつもなく速い。少女は反応することができなかった。左下から右上へ振り上げた斬撃が、少女の体を切り刻む。体勢を崩し、怯んだ所に間髪入れずニ撃目。少女の頭が宙を舞った。


「凄い……」


息つく暇もない激しい猛攻……少女に反撃する隙を全く与えなかった。ルイスさんによって切り刻まれた少女の体は、どろどろとした液状になっていく。切り飛ばされた頭部も同様だ。


「ふたりとも怪我はないか?」


「怖かったです……」


剣を鞘に収め、ルイスさんが私達の所へ戻って来た。安心して緊張が解けたのか、私の瞳には涙が溢れていた。


「ごめんな、遅くなって。数が多くて少し手こずった。まさか複数に分裂するなんてな……俺達も驚いてるよ」


さっき私達を襲おうとしたのは、最初に桟橋の手前にいた少女から分裂したものだという。少女はレナードさんの攻撃を受けて、体を液状化させた後……そこから数十体の分身を作り出したらしい。


「こいつら一体一体は弱くて大したことないけど、やっかいな事に何度切っても復活する。ある程度攻撃を与えると、一時的に体は崩れるみたいだけどね。さっき俺が倒したのも、そのうち元に戻るよ」


地面に散らばった少女の残骸を見ると、ずるずると動いていた。液状化して崩れた体が一箇所に集まろうとしているようだった。


「レナードが今こいつらの本体と戦ってる。そいつを倒したら分身の方も消えるんじゃないかって予想はしてるんだけど……とにかく、姫さん達は小屋の中に避難してて。雑魚は俺が始末する。絶対に中へは入れないから」







ルイスさんに半ば押し込まれるように、私とリズは小屋の中へ入った。声をかけられるまで、絶対に扉を開けるなと念を押される。気休めにしかならないかもだけど、扉の前に椅子や棚を移動させてバリケードを張った。

そういえば、この釣り小屋で魚を調理する事ができるって聞いた。だったらアレがあるはずだ。


「クレハ様!? どこに行かれるんですか」


私達がいる部屋の隣に調理室があった。私は戸棚を手当たり次第に開け、目当ての物を探す。案の定、それはあっさりと見つけることができた。私は自分とリズ用に2本をそこから拝借した。


「リズもこれを持って!!」


「これって……」


彼女に手渡したのは魚を捌く時に使用する包丁だ。刃渡りも20センチはある……これなら武器にもなるはず。前にクライヴさんに教えて貰った。いざという時は躊躇してはいけないと……咄嗟の迷いが生死を分ける。レナードさんとルイスさんが守ってくれているけど、相手は人間ではない。何が起こるか分からないのだ。


「もし、あの化け物達が小屋の中へ入って来たら……今度は私達も戦わなきゃ。さっきのように震えて、ただやられるのを待つなんてダメだよ」


リズは瞳を大きく見開いた。そして、決心したように渡した包丁の柄を強く握りしめる。


「クレハ様はリズがお守りします……絶対に!!」


「私もリズを守るよ」


レオンに武術の手ほどきをして貰っているとは言え、今の私にはあの少女達と戦える力なんて無い。それでも……さっきのように心が折れてしまうようなことは、あってはならない。最後まで絶対に諦めない。

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