2時間後。 予めセットしていたタイマーが鳴る。
「じゃあ、それぞれ書いた内容を話そうと思うんだけど、どっちから話す?」
「じゃんけんで負けたほうから」
結果は優菜の負け。優菜はまさかの負けに動揺が隠せなかったが、奏斗が「早く聞きたい」と言ってきたので、早速話し始めた。
「私の記憶に残っている一番古い出来事は、父の葬式。私が2歳の時に、肺がんで亡くなった」
あの日の父の最後の姿。優菜は鮮明に覚えている。あの時の父は、優菜のことを一番に考えてくれていた。あんな父が好きだった。父が肺がんにさえならなければ、優菜が一人になることはならなかった。
気づけば、優菜は感傷に浸っていた。奏斗の前では決して泣くまいと、溢れそうな感情を必死にこらえる。
「・・・で、それからは母と暮らすことになったの」
ついさっきまで俯いていた奏斗が微かな笑みを見せる。
「だけど、その母も胃がんと診断されて、今から7年前、私が小学5年の時に亡くなったの」
優菜はリビングに飾ってあるドライフラワーを指さす。これは優菜が十歳の時の誕生日プレゼントだったと話すと、奏斗は明らかな笑みを浮かべた。
「そして、そこから私の1人暮らしが始まって、今、奏斗に出会ったってわけ」
奏斗が拍手をする。優菜の中では、聞いてくれたんだという喜びが大きかった。次は、奏斗が話す番だ。
「じゃあ、僕も話す。僕は、余命宣告を受けた数日後、交通事故で両親を亡くした」
優菜はぞっとした。もし今も両親が生きていたら。視力のほとんどない両親が車を運転したら、病気ではなく事故で死ぬことになる。そのため、あまりに無惨な姿で両親を見送りたくなかった。
「僕の一人暮らしは、優菜に出会うまではとてもつまらなかった。優菜に出会ってから、すべてが変わったんだ。だから・・・、次のことを一緒にしてほしい」
奏斗の素直な気持ちを受け止めようと、優菜は彼の願いを聞くことにした。
「それって具体的に・・・?」
「中学の時、友達同士での旅行に憧れてたんだ。まずそれに行きたいな。それから、優菜が考えてくれた事にも挑戦したいな」
奏斗のやりたいことを尊重して、優菜は奏斗に旅行は具体的にどこに行きたいのか尋ねた。
「どこでもいいよ。でも、できれば2人部屋があるところがいい」
「わかった。じゃあ、考えとく」
そんな素直に表される奏斗の願いを叶えるのに、優菜は責任が大きいと感じた。
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