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莉久⚁⚄[低浮上]
33
#ご本人様には関係❌
第4話 降りることすら、許されないのか
灯台への相談は、正規の降下任務へ同行できるかを確かめる審査として受理された。
数日後、結果を伝えるための面談が開かれた。
回答は、不許可だった。
将軍魂の正面には、灯台から派遣された調整員が座っていた。天界の降臨担当官と、現在の支援を担当する天灯院職員も同席していた。
「理由を聞かせてくれ」
灯台調整員は記録板から目を上げ、将軍魂と視線を合わせた。
「まず、会いたいという願いを持つ魂が、人界へ降りることを一律に禁じているわけではありません」
過去には、正規任務への臨時同行を許された魂もいる。
「今回も、数日後に隣接地域へ向かう記録照合任務があります。移動路を一部変更し、同行枠を設けること自体は、運用上可能でした」
「なら、なぜ俺は許されない」
「道を用意できることと、その道を使ってよいことは別だからです」
調整員は、相談対象となった地域を記録板へ映した。
「予定されている任務は、隣接地域に生じた記録のずれを照合するものです。あなたが望む土地は、任務区域に含まれていません」
「移動路を変えれば行けるのだろう」
「行くことはできます。ですが、その土地には現在、灯台が処理すべき歪みがありません」
「何も起きていないなら、何が問題になる」
「何も起きていないからこそ、こちらから接続を増やす理由がないのです」
調整員は言葉を切った。
突き放すような声音ではなかった。だが、続く言葉を曖昧にすることもしなかった。
「必要のない場所へ降り、そこに存在しなかった変化を生じさせれば、その降下自体が新しい歪みの起点になります」
「過去に許された魂は、何も変えなかったのか」
「いいえ。人界へ接続する以上、何も変えないことは不可能です」
降りれば、空気が動く。
熱や影、香の流れが変わる。草が沈み、虫や獣が進路を変える。誰かに姿を見られれば、そこから噂や伝承が生まれる可能性もある。
「では、違いは何だ」
「生じた変化が土地の日常へ吸収され、独立した分岐にならずに収まるかどうかです」
記録圧の低い魂であれば、正規任務の範囲を大きく外れず、影響も既存の流れへ収まると判断される場合がある。
「俺は違うのか」
調整員は一度、将軍魂の生前記録へ目を落とした。
「……はい」
指揮した軍。
関与した戦。
命令によって分かれた生死。
土地に残った記録香。
「問題は、あなた自身の記録圧です」
「俺が将軍だったからか」
「肩書だけではありません。あなたの命令は多くの魂と土地を動かし、その影響が今も複数の記録へ接続しています」
「死んでも、将軍だったことからは逃れられないのか」
「あなたが将軍であり続ける必要はありません」
調整員はすぐに否定した。
「ですが、将軍だったあなたが残した影響だけを、再会の時だけ切り離すことはできないのです」
将軍魂は退かなかった。
「接触しない。遠くから見るだけでも影響が出るのか」
「出ます」
「姿を変えてもか」
「記録圧は消えません」
「誰にも見られなければいい」
「人界へ接続せずに、相手だけを見ることはできません」
将軍魂は、戦場で退路を探すように条件を組み替えた。
だが、どの道も同じ場所で塞がれる。
「もともと祈りのなかった土地に、俺が祈りや伝承を作るかもしれないのか」
「はい。あなたが顕れたという事実そのものが、次の降臨を求める根拠になり得ます」
灯台調整員が、記録板へ将軍魂の線を置いた。
その途端、周囲にあった細い枝が、一斉に向きを変えた。
「守るべきなのは、転生者一人の線だけではありません。ただし、彼もその世界の一部です」
「相手が俺に気づかなければ、あいつは変わらない」
「そうとは限りません。前生の記憶がなくても、魂核に淡い癖が残ることはあります」
理由の分からない懐かしさを抱くかもしれない。
恐れを覚えるかもしれない。
足を止める。追う。避ける。後日も思い出す。
それだけで、今生にはなかった縁が生まれる。
将軍魂は、記録板から目を離さなかった。
「ならば、俺とあいつが接触する世界線を作ると、どうなる」
調整員はすぐには答えなかった。
その問いの先に、男が何を望んでいるのかを理解したように、わずかに目を伏せる。
「接触を起点に、新しい支流が生じます」
「その線を残せないのか」
「その支流は、あなたと彼だけを置ける閉じた場所ではありません」
彼が足を止めれば、その先で会うはずだった者と会わないかもしれない。
帰る時刻も、通る道も変わる。
その変化は人や土地、生き物の線へ触れ、さらに枝分かれしていく。
「一つの再会のために、一つの世界線全体が分岐します」
「だが、起こり得ない線ではないのだろう」
「可能性としては存在します」
将軍魂の目に光が戻った。
「なら――」
「存在し得ることと、灯台が選んで発生させてよいことは別です」
調整員の声には、わずかな苦さがあった。
「灯台は、望ましい未来を作る機関ではありません。すでに生じた線を観測し、破綻を防ぐために必要最小限の介入をする機関です」
「他の魂の同行でも、線は変わったのではないか」
「変わっています。ですが、同じ願いでも、生じる影響は同じではありません」
調整員は男をまっすぐ見た。
「会いたいという願いに、上下はありません」
そこで一度、言葉が止まった。
「ですが、その願いが人界へ届いた時に持つ力には差があります。あなたの願いは、他の魂より大きく世界線を動かしてしまう」
「俺が望んでもか」
「その願いは、あなた自身の進路を選ぶ理由にはなります。しかし、彼と、その周囲の世界を分岐させる許可にはなりません」
室内が静まり返った。
「相談記録には、副官とあります」
「そうだ」
「それは前生での関係です」
調整員は、言いにくそうに一度息を置いた。
「今の彼は、あなたの副官ではありません」
将軍魂の拳から力が抜けた。
「他の魂なら、許されたかもしれないのか」
「条件を満たせば」
「俺だから駄目なのか」
「……あなたの記録圧が大きいためです」
「随分、残酷なことを言う」
「そうですね」
調整員は否定しなかった。
「同じ願いで許された魂がいるのに、あなたには許可できない。公平な回答だとは、私も思いません」
「なら――」
「ですが、その不公平を埋めるために、彼と、その土地で生きるものへ変化を引き受けさせることはできません」
責める声ではなかった。
「……降りることすら、許されないのか」
誰も答えなかった。
「死ねば会えると思った」
声が、一度途切れる。
「降りる道は、あった」
将軍だった頃、どれほど戦況が崩れても失わなかった声が震えた。
「俺は――あいつの前に立つことすら、許されないのか」
コメント
1件
将軍魂の「降りることすら許されない」っていう台詞、すごく刺さりました…。将軍だったからこそ、その記録圧の大きさゆえに、再会すら許されないって、あまりにも重い。調整員の「その願いが人界へ届いた時に持つ力には差があります」って冷静な言葉が、逆に残酷で。♡♡♡ば会えると思ったって言う将軍魂の声が震えてるのが、読んでて胸が締め付けられました。肩書きから逃れられないって、本当にやるせないですね…。