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「おーい兄弟ー」
酷い雨音の中、そう頭の上から投げかけられたカナダの声に目覚める。ふわぁとあくびをしながら体を起こすと、カナダは隣に座った。
「悪かったね。そっちも忙しかったのに。」
「別にいいよ。ヒーローは疲れないんだぞ! 」
「あははっそっか。」
今日は7月1日。カナダの建国記念日でパーティが開かれていたのである。しかし、屋外での祝杯が終わった直後に雨が降り出し止むことがないのである。
「縁起が悪いね。」
そう言うとカナダはムスッとして立ち上がり、窓の近くへ寄って行った。ツーっと結露している窓をなぞっている。呆然としているかのように思えば、次はポケットの中からチケットを取り出す。
「いつも、大きな箱でプレゼントしてくれた人がいたんだ。今年もそうかなって思って、部屋に行ってみればプレゼントであろう箱の上にこれが置いてあった。」
渡されたチケットに書かれていた行先。
【パリ経由 オタワ行】
「,,,,フランシスじゃないか。それがどうした?プレゼントらしくないね」
「ははっそうだろう?でもね、よく封筒の中見てみなよ」
疑問を抱きながら封筒の中を見る。チケットはもう1つあった。経由も、行先も全く同じなチケット。確か、会場にはフランスのもう1人の化身もいたはず。でも、あのフランシスがまさかそんな見え見えでなんの意味もないこの2枚を送るだろうか?しばし考えたあと、ハッとしてカナダの顔を見る。カナダはニコッと少しだけ微笑んだ。
「,,,,,,,,誰のものか、分かるかい?」
夜も更けた頃であったので車が迎えに来た。窓越しにカナダへ向かって手をあげる。ニコニコと振り返し、車が角を曲がるまでずっと外にいた。そして、カナダの姿が見えなくなった頃に外を見る。田舎のホテルにいたので、光は最小限である。ボーッとしているとポンポンと肩を叩かれ、振り向くと明るい画面に顔を照らされた。
「うわ!眩しっ!!なにするんだいエミリー!目が悪くなるだろう!」
「もうとっくに悪いでしょ!ほら見てよ!今日のメグめっっちゃ可愛かったんだから!」
同じくアメリカの化身であるエミリーに自慢されたのはカナダの化身、メグの写真だった。どうやら今日はいつものメガネ姿ではなく、そして新作のドレスだったらしい。ひとしきり自慢して満足したのか、足を組んで座り出す。
「あっねぇねぇ。」
「なんだい?」
「アルフレッドってマシューのこと、カナダって言ってたかしら?いつもはマシューって呼んでた気がしたんだけど。」
「あー、まぁ来賓がいたからかな」
「私、普通にメグとか言っちゃってたの!迷惑だったかしら,,,,」
「君でも反省することあるんだね」
「は?」
「はいはい。俺は兄弟でいるときとか,,,,身近の人だけがいる範囲だったら、マシューって呼んでる。」
「,,,,あんたってほんとに話し上手くないわよね。私にはそれが答えとしてはっきりしてたのか分かんなかったわ。プレジデントとも上手にいってなさそう!可哀想ね!」
皮肉が混じり合う小さな喧嘩に運転手はニコニコと笑いながら、秘書は頭を抱えながら静かに聞いていた。いつしか、アメリカ国内に到着し、ホテルをとって休むことになった。ネクタイを緩め、スーツのシワ伸ばしをしている時に中のポケットから紙がはみ出ていることに気づいた。マシューのフランシスからのプレゼント、チケットである。
「マシュー、いつの間に入れてたんだい,,,,」
とりあえずシャワーと思い、放り投げようとしたときに裏になにか書いてあることに気づく。
「A.F.J,,,,?俺宛か,,,,?」
アルフレッド・F・ジョーンズを文字ったであろうその筆跡にある仮定を思い浮かべた。いや、絶対にその狙いであろう。これは元からマシュー宛ではなく、マシューを経由した上で俺に届けようとしたものではないのかと。何故か連絡を返さなければいけない気がして通話をとる。だが、今の時刻が深夜25時を回っていることに今更気づいて落胆する。フランシスのことだから酒を飲み浴びしていることだろう。切ろうと思い通話画面を覗き込むと【通話中】の文字が浮かび上がった。
「h、hello?」
おどおどしながら出てしまい、しばらく相手からの返事がないと思えば返ってきた声の主は、
「allo.alfred.」
「,,,,フランソワーズ?」
「さっきぶりねアル。」
通話相手を見返すと、フランスのもう1人の化身、フランソワーズに通話を繋げていた。
「あああぁ、」
「あらあらどうしたの?シャワー浴びたばっかりで服きてないの。ちょっとスピーカーにするわね。」
「えっ!いやいや悪いよ!もう切るね」
「何か用があったのでしょう?言ってみなさい。どうせ航空チケットのことでしょうけど」
「な、なんで分かったんだい!?」
「飛行機の中でニヤニヤしながら封筒を作ってる奴を隣において、狙いが分からないわけないでしょう?あぁ!思い出すだけで気味が悪い,,,,」
「ほんとうに仲が良くないね。ボヌフォワ達は。」
「あんた達と違って熟年だしね。というかアル。まず確認なんだけど、そのチケットの持ち主は分かるわね?」
「フランシスと,,,,アーサー?」
「えぇ。bonne reponce.正解よ。」
「なんでアーサーが,,,,」
「まぁ,,,,そうね。貴方もあと少しで誕生日だったかしら。楽しみにしておいて。」
「え?ちょっ!フランソワーズ!?」
プツッと通話は切れた。折り返しをするも、もう繋がらないし既読もつかなくなった。次は自国の建国祭準備に入るのだということにハッとして急いでベッドに入る。しかし、その夜は寝付けることはなく、ただ雨音だけが室内に響いていた。