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……そういった流れで、清水雪緒は暗くて静かなバーのカウンターで、会社の先輩である高見に肩を抱かれていた。
「清水、飲みすぎだなぁ」
そうは言いながらも、制止する気配はない。苦い、煙草の臭いが、その言葉に纏わりついている。
――彼は、煙草は吸わなかった。
何杯目かわからないウイスキーの水割りを飲み込む。
高いのにそんなもったいない飲み方して、と言われたのは最初だけだった。
若い女性がぐいぐい飲むものじゃないとはわかっている。
甘い、長ったらしい名前の濁ったカクテルをちびちび飲むのが可愛いのは知ってる。
でももういい。
無駄だった。
私がどんなに頑張ったって、可愛くなれない。
自嘲を紛らわすためにグラスの中身を喉に流し込んだ。火をつけたら燃えるのではないかと思うような、アルコールの刺激が体内を伝っていく。
「そろそろ、上、行くか?」
シティホテル5階のバー。上、が指すのはもちろん、高見が押さえたダブルベッドの部屋だ。
雪緒はゆらりと振り子のように頭を巡らせ、
「……そうですね。ちょっと、トイレ……」
「部屋で入ればいいじゃん」
「やです」
雪緒はにべもなく言ってスツールから降りた。
愛があるわけではないからドライな接し方になる。
汚してくれればそれでいい。
貞操観念が地に落ちた、ふしだらな女にしてくれれば。
足元が若干ふらつく。ずっとザル と呼ばれ、酒豪扱いされてきた雪緒でも、さすがにペースを考えない飲み方はこたえた。――頭が、脈に合わせてズキズキする。
なんだっけな。アセト……アセトアミノフェン?
アルコールが分解されて、頭が痛くなる物質……アセト……も、いいや。
ヒールが突き刺さるくらいの厚みのあるカーペットを踏みしめて歩く。
7センチのヒールだ。
電車でよろけて他人の足を踏んだら、骨を砕きそうな。
雪緒は女性の中では背が高いほうだから、今の身長は多分170センチを超えている。
このハイヒールも封印していた。
女性の背は、小さいほうが可愛い。
でも、もう解禁だ。
ハイヒールを封印したって、ダメなものはダメだった。
バーの出入口をくぐったとき、誰かに名前を呼ばれた気がして足を止める。
しかも……。
今の、声。
「……やっぱり。似てるなと思った。――久しぶりだね」