テラーノベル
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翌朝。教室に入った瞬間、成瀬は違和感を覚えた。
——視線、多くない?
「おはよ、成瀬」
「お、おはよう」
いつも通りの挨拶。
なのに、なぜか落ち着かない。
原因はすぐ後ろにいた。
「席、替わってもらった」
黒川蒼が、当然みたいな顔で言った。
「は!? なんで俺の隣!」
「空いてたから」
「理由それだけ!?」
声が少し大きくなって、成瀬は慌てて口を押さえる。
その様子を、クラスメイトの女子がじっと見ていた。
「ねえ、成瀬と黒川って前から仲よかったっけ?」
「……え、普通だろ」
「黒川が自分から席替わるの珍しくない?」
ひそひそ声が、耳に刺さる。
蒼は気にしていないのか、成瀬のノートを覗き込んだ。
「字、今日雑」
「見んな!」
反射的に言った瞬間、蒼が小さく笑った。
「……それ」
成瀬の胸が跳ねる。
「今の言い方、俺にだけ」
「え?」
「他のやつには、そんな言い方しない」
その言葉に、成瀬は言葉を失う。
——そんなの、自覚なかった。
昼休み。
成瀬が一人で廊下を歩いていると、腕を引かれた。
「こっち」
人気のない資料室。
蒼は扉を閉めて、静かに言った。
「ちょっと距離、近すぎたかも」
「今さら!?」
「でも、離れるのも嫌」
その正直さに、成瀬は何も言えなくなる。
「成瀬」
蒼が名前を呼ぶ。
低くて、周りに聞かれたら困る声。
「学校では、気をつける」
「……うん」
「でも」
蒼は一歩近づいた。
ほんの一瞬、指先が触れそうになる距離。
「無理に普通には、ならない」
扉の外で、足音がした。
「え、誰か来る!」
慌てて距離を取った瞬間、扉が開く。
「えっ……黒川? 成瀬?」
クラスメイトの男子が、目を丸くする。
「何してんの?」
一瞬の沈黙。
蒼は冷静に答えた。
「成瀬がプリント忘れたから、渡してた」
「ふーん?」
疑うような視線が、二人を行き来する。
「仲いいな、お前ら」
その一言で、成瀬の顔が熱くなる。
放課後。
廊下で女子たちの会話が聞こえた。
「最近さ、黒川が成瀬ばっか見てない?」
「わかる。成瀬も黒川見る回数多い」
——やばい。
帰り道、二人は少し距離を空けて歩いた。
「……噂、広がってるかもな」
成瀬が言うと、蒼は少し考えてから答えた。
「それでも」
「それでも?」
「隠しきれなくなるなら、その時考える」
蒼は横目で成瀬を見た。
「俺は、成瀬を選ぶけど」
その一言で、覚悟が揺れる。
——この気持ち、もう周りに気づかれてもおかしくない。
成瀬は、蒼の袖を小さく掴んだ。
「……ちょっとだけ、待って」
蒼は立ち止まり、優しく頷いた。
「待つ。でも逃げない」
夕焼けの中、二人の影が並ぶ。
そして翌日。
成瀬の机の中に、見知らぬメモが入っていた。
《黒川と、付き合ってるの?》
成瀬は、紙を握りしめる。
——もう、時間の問題かもしれない。
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