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「雨……」
次の日は、土砂降りだった。
今日は誰にも誘われていないし、別に五日間全部行かなくても良いんじゃないかと思い私は神殿の女神の庭園にきていた。女神の庭園は、外の天気とは比べものにならないぐらい晴れていて、青い空が広がっていた。
このまま、ずっと雨ならアルベドと行かなくても良いし花火も打ち上げないだろうからどうかやまないでくださいと思いながら、私は魔法の練習に励む。
ここ最近、魔法を使っていなかったため感覚が鈍っているのではないかと思ったからだ。
まずは、魔力操作の練習だ。
手始めに、魔力を指先に集めて水球を作ってみる。すると、それはぷるんっと揺れただけですぐに消えてしまった。
「あれ……何で」
いつもは上手くいくのにと思いもう一度やってみるが、結果は同じだった。それならばと、今度は火を出してみようとするがこれも失敗に終わる。
魔法に大切なのは想像力だと教わった。だから、しっかりと想像し水だったら不確定な形でありながら流れに逆らわず自然体に水球を、火だったら燃えさかるのをイメージし温かい炎をと。しかし、どれだ想像しようが魔法が発動しきることは無かった。何処かで失敗してしまい魔力だけ消費している状態になっているのだ。
「ほんとどうなってるの……」
何故、こんなにも失敗するのか分からない。もしかしたら、何か別の要因があるのかもしれない。
例えば、魔法は感情に左右されるとか。
そこまで考えて、感情に左右されるという自分の言葉に違和感を覚えた。違和感というか、何故その考えに至ったのかと。
そうして、その考えに至るまでになったのはきっと昨日のグランツの言葉だろう。
忠誠を誓ってくれたグランツ。しかし、その命は私の為だったら投げ出せると、自分の命を軽視しているのだ。それが、愛情からなるものなのか、恋をしたらそんな危ない思想になるのかと。いや、グランツが私に恋愛感情を抱いているかは分からないけど、それでもあの言葉はゾッとした。
それとは別に、リースのことも頭にちらついて。自分がままならなくて。
アルベドとのイベントもあるというのに。
「考えるだけ無駄かもしれないけど……何か辛いな」
ふと思い返せば、コレは乙女ゲームの世界で、私は悪役になる予定の聖女で。まんべんなく好感度を上げたもはいいものの、誰を攻略しようかとかそういうのは考えていなくて。
確かに、ゲームだけで見ればリース様一択なのだが彼の中身は元彼の遥輝。
後のキャラは一応クリアした程度で、推しと言うほどでもない。それに、ここは今、私にとってのリアルだから、安易に好感度を上げやすいからと言って好感度を100%にして、自分が恋愛感情を抱いていない相手と添い遂げるというのも嫌だ。
もしかしたら、誰かを攻略したらゲームクリアで元の世界に戻れるかも知れないけど。
「だって、まだ読みたかった漫画は終わってないし、今期のアニメだって見たかったし、また推しのライブにだって……」
そう、あっちにやり残したことは一杯あった。でも、本気で戻りたいとは如何しても思えなかった。
だって、あっちには誰もいないから。
今は、私のメイドとして働いてくれているリュシオルこと蛍はあっちの世界ではもう死んでしまっているし、遥輝がリースとしてここにいる以上戻ったとしても彼に会うことは出来ないだろう。それに、あっちに戻っても良いことがない。私を待っていてくれる人なんていないのだ。
両親は放任主義で、私の事なんて気にかけてくれなかったし。
「……戻る理由もなければ、攻略する理由もない」
けど、死ぬ勇気なんてもっとないわけで。
悪役になって、攻略キャラ達に成敗されようとかも思えない。だから、攻略をするのだけど……
そんなことを考えながら、私は女神の庭園を出て神殿へと戻った。
すると、扉の所に誰が立っておりその誰かはこちらに気づくとにこりと微笑んだ。
「あっルーメンさん、おひさしぶりです」
「お久しぶりです。聖女様」
そこにいたのは、リースの補佐官であるルーメンさんだった。相変わらずニコニコと爽やかな笑顔を向けて礼儀正しく挨拶をしてくれた。
ルーメンさんとは最近、話していなかったなあと思いつつ、そういえば彼は私がこの世界に来て間もない頃此の世界について教えてくれたりしたなあとぼんやり思い出していた。
ルーメンさんはルックスは良くて背も高くてイケメンで、これで攻略キャラじゃないんだから世の女性達は悔しがっているんじゃないだろうかと思う。
実際、ゲームではちょろっとしか出てこなかったのに対して、結構人気だった記憶はあるが、私は名前しか知らなかったため、此の世界にきて、補佐官なんていたっけ?何て思うほどだった。彼の性格は穏やかで紳士的で、それでいて正義感が強く優しい。そして、ヒロインのことをとても大切にしてくれていた……みたいだった(が記憶にない)
あのリースに強く出れる唯一の人間でもあり、何だか補佐官というよりかはリースの友達という風に捉えていた。
雨の音が激しくなる中、私は少し濡れていたルーメンさんに如何してここにいるのかと尋ねてみることにした。いつもなら、リースと一緒にいるか仕事をしているか……忙しい人なのに。
「珍しいなと思って、ルーメンさんが会いに来るなんて。どうしたんですか?」
「少し聖女様とお話がしたいと思ったからです」
と、たいしたことではないんですけどね。と微笑むルーメンさんは、確かに大した用事があるようには見えなかった。でも、わざわざ来てくれるくらいだから何かあるのかもしれない。
「取り敢えず、聖女殿に帰りますか? ここ、寒いですし」
「いえ、ここで大丈夫です。といっても、私があれこれ言える立場ではないんですけど」
「……はあ、ルーメンさんが言うならここで良いです。あ、女神の庭園で話しますか?あそこなら晴れてますし、温かいですし……」
そう、私が提案するとルーメンさんは少し考えてから、それが良いですね。と笑って返してくれた。
女神の庭園は、聖女か神官、ブリリアント家の血を引くものしか開けられず、またその者達が許した人間しか立ち入ることが出来ない聖域の為、ルーメンさんは私と一緒でなければ入れないのだ。勿論、私はルーメンさんに心を許しているわけで、私はルーメンさんを連れて先ほど出てきた女神の庭園へ繋がる扉を開けた。
すると、温かい風がこちら側に吹き込み私達を歓迎するかのように花びらが舞い散った。
それにしても、私に一体どんな用があるのだろうか。私には特に思い当たる節はない。
「どうぞ、好きなところに座ってください……って、言っても私の家でも何でもないんですけど!」
と、私は女神の庭園の可愛らしいベンチを指さしでそうつけくわえながら言った。
「親切に、どうもありがとうございます」
ルーメンさんはその言葉を聞くなり、嬉しそうな表情を浮かべてお礼を言ってきた。
それから、彼は座るとふぅーっと息を吐きだし目を閉じた。
やっぱり疲れているのかな……
私はそんなことを考えながら、ルーメンさんを見ていると、私の視線に気づいたのかルーメンさんは口を開いた。
「先ほど神殿に向かう聖女様の姿を見て追いかけてきたんですけど、女神の庭園に入っていくのをみて特訓が終わるのを待っていたんです」
「あ、それは、その……すみません」
「いえいえ、大丈夫です。声をかけなかったこちらが悪いので。それにしても、熱心ですね。魔法の特訓」
「はい……」
その魔法の特訓をしていて、上手く魔法が使えなくなってしまったんですと言ったらルーメンさんはどんな顔をするだろうか。魔法の使えない聖女なんて、聖女どころか役にも立たなくて。きっと失望させてしまうだろう。
そんなことを思っていると、悩みを抱えているとは知るはずもなくルーメンさんはニコニコとしていた。その目は期待やらなんやらプラスの感情が宿っており、私は思わず目をそらし、話をすり替えることにした。
「そ、それで、私に用って何ですか?」
「ああ、そうでした」
ルーメンさんは忘れていたと言いながら、少し考える素振りを見せると、こう続けた。
「星流祭楽しんでいますか?」
「え、まあ、それなりには……」
そう、私が答えるとルーメンさんはそれなら良かったです。と笑いながら言った。
でもそれは本当に聞きたいことではないように思えて、本当はなにをいいにきたんだろうとばかり私は身構えてしまう。
「でも、今年が初めてなんですよ。星流祭のある五日間は、雨が降ったことなくて……これも、災厄の前触れなんでしょうね」
「……そうなんですか?」
そんな何年も続いている祭りの五日間、一度も雨が降ったことがないなんてあり得るのだろうか。
もしかしたら、何かしらそれこそ女神の力が働いているのかも知れないが。
そう思いながら、女神の庭園の空を見上げれば、高く青い空が広がっているばかりで、やはりここが外とは違う世界だと言うことを思い知らされる。
私がそんな風にぼけーっとしていると、ルーメンさんは「聖女様?」と私の顔をのぞき込んできた。
「ああ! ごめんなさい! ちょっと、ぼーっとしちゃったって! え、えっと、えっと、それで。星流祭の話でしたっけ」
ルーメンさんは少し眉をひそめた後、ふうと息を吐いてこう言葉を吐いた。
「はい。聖女様、それでその、率直に聞くんですけど、リース殿下の事……どう思っているんですか?」