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「リースの……こと……?」


ルーメンさんは、はい。と頷くと私に真剣な眼差しを向け、答えを待っているよだった。

私は、ルーメンさんの質問の意図がわからず困惑していた。

どうして急にこんなことを聞かれているのだろうか。ルーメンさんの用事とはその事だったのだろうかと。


「その、格好いい皇太子だと思っています」

「そうではなくて、恋愛感情があるかないかという話です」


恋愛感情? と私が聞き返すと、そうですとだけルーメンさんは返した。

やはり、如何してルーメンさんがそんなことを聞くのか分からず私は頭を抱えていた。

それに、その質問は私にとって一番苦なものだったから。

好きか嫌いかで聞かれたら勿論好きだと答えられるが、それはリースというキャラが好きであって、中身の遥輝が好きかと言われれば嫌いとは絶対に言わないし思っていないが、恋愛感情云々で好きとは勿論言えない。

別れてからも未だに彼への答えを出すことが出来ずにいる私に、そんな質問をされても困るのだ。

第一に、ルーメンさんは其れを知ってどうするというのだろうか。

そう、考えているとルーメンさんは、はあ……とため息をついて私を見た。


(いや、溜息つかれても……)


そして、ルーメンさんは私に言った。


「聖女様、貴女の気持ちを聞かせてください。リース殿下をどう思っていますか?」

「ど、どうって……」


ルーメンさんは、更に私の方に詰め寄ってくる。その迫力に負けて、私は思わず俯いてしまう。

黙っていても何もならないし、気まずいだけできっと答えなければルーメンさんも私を帰してはくれないだろう。かといって、口を開いたところで言葉が私の口から出ることはないだろうし。

そこまで考えて、私は質問を質問でかえすことにした。


「どうして、ルーメンさんはそんなことを聞くんですか?」


私がそう言うと、ルーメンさんは少し考えるような仕草をして答えた。


「聖女様と星流祭にいったあの日、帰ってきたリース殿下はとても機嫌が良かったんです。笑顔を見せない殿下が、とても嬉しそうに……聖女様のことを話す姿は、まるで別人のようでした。」

「そ、そうなんだ……」

「凄く惚気ていて、うざ……羨ましかったです」


そう、ルーメンさんは拳を握りながらいう。


(今この人、ウザかったとか言おうとした?)


まあ、リースもといい、遥輝は唯一の親友には沢山惚気ていたってリュシオルが言っていたし、その人はあまり関わったことなかったけど、ドンマイっていつも思っていたんだけど……そのポジションに今ルーメンさんがいいると言うことだろうか。

でも、惚気って旦那や妻、恋人のことを他者に話すことを指す言葉ではないだろうか。

いや、間違ってはいないのだが、私は今恋人でも妻でも何でもないし……

まあ、そんなことはさておいて、ルーメンさんはリースの惚気話を散々聞かされてうんざりしたと言うことは伝わってきた。顔がやつれているのはそのせいなのかも知れない。

そんなことを考えていると、ルーメンさんは話を続けた。


「だから、聖女様はどう思っているのか知りたいのです。殿下の頭の中では、結婚式まで挙げる予定を立てているみたいですし……」

「けっこ……ええッ!?」


ルーメンさんの言葉に私は思わず立ち上がってしまった。

いや、だって結婚式って……

こめかみが自分でもぴくぴく動いているのが分かった。遥輝の妄想癖というか、惚気話が凄いのは(私限定)でリュシオルから聞いたことはあったけどまさかそこまでだとは思わなかったのだ。

しかし、ルーメンさんはそんな私を無視して話を続ける。


「星流祭を回れたことで、殿下は変な期待というか自信を付けてしまって……」

「それは、その……」

「前日から、デートが出来るだのデートは如何すれば良いのだと、聖女様は如何すれば喜んでくれるのだろうと……」

「うっ……」

「そして、帰ってきてからは、いつ式を挙げれば良いだろうかとか、プロポーズの言葉はどうしようだとか……そればかりで」


政務は滞りますし、何より私が辛いです。とルーメンさんは涙ながらに語る。

ルーメンさんが、こんなにも弱音を吐いているところを見るのは初めてだった。それほどまでに、彼の心労は限界に達していたのだろう。というか、弱音ではないにしろルーメンさんってこんなキャラだったっけと、彼が口を開くたびに敬語が外れていくようなフレンドリーな口調になっていくような気がして私は、それを黙って聞いているしかなかった。

というか……


(一回デートしたぐらいで盛り上がりすぎなのよ! 彼奴!)


私は、心の中で叫んだ。

そりゃあ、私も遥輝と付き合っていた時は、デートなんてしたことなかったし、遥輝がデートをしてみたいっていったことはあった。けれど、結局は一回もデートをした事なんてなかったし、恋人らしい事と何て一つも出来なかった。だから、遥輝が盛り上がるのも興奮するのも分かる気がして……私だって、あれ?これってデートじゃない? って二日前、リースと星流祭をまわったとき思ったけれど、それにしても一回デートしたぐらいで元カノに対して結婚したいと補佐官に惚気るだろうか普通。

分からない。

けれど、私にはそんな気はない。

そう、一人結論を出してうんうんとしていると、急に落ち着きを取り戻したルーメンさんは少し冷ややかな口調でこう吐いた。


「ですから、聖女様の気持ちが知りたいのです。もし、聖女様に殿下に対する恋愛感情がこれっぽっちもないのなら……殿下を拒絶して下さい」


その言葉に私は思わず固まった。

拒絶とはどういうことなのか。

そもそも、どうしてそんなことを私に頼むのか。

疑問が浮かんでは消えて、また浮かぶ。そんな私の様子を見てルーメンさんは溜息をついた。


「拒絶って、その……えっと、どういう」

「殿下に過度な期待を持たせないで下さいと言うことです。彼は、いずれこの国の皇帝になるお方……たった一人の女性のことで感情を振り回されているようじゃ、王にはなれません」


と、ルーメンさんは首を横に振る。

だとしても、私に遥輝をリースを拒絶すること何て出来ない。


「そんな、嫌いとか……拒絶とかしたら、それこそリース……殿下は、心が乱れてしまうんじゃないでしょうか」


私は、そうぽつりとこぼした。

遥輝が意外と繊細な心の持ち主だって言うことは知っている。だからこそ、私は彼を拒むことが出来ない。私自身優柔不断で、全然物事を決められないタイプで、未だに彼への気持ちの答えを出せずに、そうして感情にまかせてふってしまった訳で。

それでも、少なからず私だってリースのことを思っているわけで。

それが、恋愛感情なのかは自分でも分からないけど。


「そうかも知れません……けど、四年もずっと引きずってて、こっちが辛いんですよ」

「え?」


ルーメンさん の言葉に、私は目を丸くした。

すると、ルーメンさんはしまったと言わんばかりに顔をしかめた。四年と彼は言った。そんなことをしっているのは、ここにいる人間ではないだろう……私やリュシオルな転生者……そう考えてみたが、別に今はそんなことどうだって良かった。

それよりも、ルーメンさんが辛いとはどういうことなのだろうか。


「ルーメンさんが、辛い……?」

「……はい。私は、彼を一番近くで見てきたつもりですから」


と、ルーメンさんはいうと苦しそうに笑っていた。

何故、そんなふうに笑うのか分からなかったがリースのことで悩んでいるのはどうやら私だけではないようだった。


「聖女様も、色々悩んでいるんですよね。すみません、こんな質問をして」

「い、いえ! 私のことでルーメンさんもリース殿下も悩ませてしまって……こちらこそ」


と、私が謝るとルーメンさんは苦笑いを浮かべていた。

それからしばらく沈黙が続いたが、それを断ち切ったのはルーメンさんの方からだった。

彼は、真剣な表情でこう告げたのだ。

殿下には、聖女様が必要だと。

その言葉を聞いて、私はハッと顔を上げる。ルーメンさんは微笑むばかりで何も言ってくれなかったが、どうやら私の気持ちを尊重してくれているようだった。


(リースのことどう思ってるか……私のことなのに分からないなんて……もし、リースの心の内が知れればもっと、自分の気持ちをはっきりさせることが出来るのだろうか)


私は、ルーメンさんにありがとうとだけ伝え頭を下げた。すると、ルーメンさんは思い出したかのようにポンと手を叩く。


「そういえば、聖女様。短冊……じゃなかった、星栞に願い事書きましたか?」

「星栞?」

「はい。願い事を書いてそれを城下町の中央にある櫓につるすんです。すると、最終日に本当に一人だけその紙に書いた願いが叶うんですよ」


そう、ルーメンさんは星栞について話してくれた。

どうやら、それは七夕の短冊のようなものらしく、この世界にも似たようなものがあるらしい。星流祭とは、七夕に似た祭りなのだと今更ながらに私は思った。

そうして、ルーメンさんに星栞について教えて貰い、明日晴れたらリュシオルとそれを書きに行こうと心に決め、女神の庭園をルーメンさんと二人で出た。

私の願い事は、既に決まっていた。


(相手の心を知りたい……それが、私の願い……)


そうすれば、きっと臆病にならずに人と話すことが、リースと話すことが出来るはずなのだ。


「……まあ、何千人も願い事書いていたら私の願いが叶うわけもないかも知れないけど……」



乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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