テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第34話
「始めっ!」
その一言でビタリは両手剣を僕に振るった。
刃先は尖ってて、日光で乱反射している。マルコさんの耳飾りみたいだった。
……やらないと示しがつかない。
僕は避けた。両手剣で攻撃力か強い代わり少し避けやすいけど、やっぱりビタリは速い。
突こうと思っても弾かれてしまう。
……十五年ってブランクは大きいな。
僕はそう思いながらビタリの攻撃を避けて、隙を狙って突いた。
多分、本気を出せば直ぐに決着が着く。だけど、大人気ない。
「ロルフさんって手を抜いてないですか? なんだか迷いが顔に出てるけど……」
え? 嘘っ……
「まぁ、良いんだけど……自分の立場を考えて下さいね」
そう言ってビタリは剣を振り始めた。
僕ってそんなに分かりやすいのか? ビタリもレーナも察しは良いけど、顔に出てるような感じなのか?
どうなんだ? 寝起きの自分がビタリに本気なんて……
「もう、本気できてからと思ったけど、僕から本気でいきますね。いつまでもこんな感じだと観ている人も飽きちゃうので」
観てる人の事まで……勝手に観てるだけなのに?
「ま、僕もそれなりに頑張ったのですよ」
そう言ってビタリは剣を僕に本気で振った。僕は避けたけど、さっきとは桁違いだった。
素早さも強さも違う。軸は保ってるけど、強くて、重くて、凄い武器を振り回している。
……凄い。僕にはそんな感じに扱えないと思うな。
僕はそれに勝てるくらいに力を強くした。ビタリは顔色一つ変えずに剣を振るう。
僕も同じように、顔色を変えないように何回りか小さな剣を振るってる。
これでも大きい感じはするけど……
僕は足元を狙って突くとビタリは倒れた。
少しの短い間が経ってからビタリは起き上がった。
「だけど、ちゃんと本気でって言いたいの?」
「そうですね。当たりです」
「それなら僕は本気を出すから、覚悟してて」
「そのくらい分かりますよ」
そう言うとビタリは良かったと顔に書いてから剣を構え直した。
僕たちは本気でやり合った。攻撃が想像以上に避けられたので、何だかやり合いがいがあったように思えた。
でも、攻撃を今まで以上に素早くするとビタリは避けきれなくて、もろに僕の攻撃を受けた。
両手剣は片手でもやられると持てない。それが僕の思う一番の弱点だと思う。
……僕は一応、昔は左手でも訓練したけど……
ビタリはしばらく立てなかった。
「ロルフ殿の勝利!」
そう、聖騎士が言うと僕はビタリの元へ駆け寄った。
「二本目やる?」
僕はしゃがみ込んだビタリに手を差し伸べた。
ビタリは僕の手を取りながら「はい。お願いします」と言って敬礼をした。
「口調は柔らかくなってよ。今度の手抜きは僕も許さないから」
「そう言われても……駄目です。この国を守った勇者なのですから」
僕は息を飲んだ。
僕はこの国を守れなかった、期待外れの剣士の他ないだろ。
こんな事してて……
「……守れてないからこんな事になってる訳じゃん。そんな事、もう言わないで」
「あ……ごめんなさい」
「謝らなくて良いよ。僕がその期待外れの剣士なのは秘密にして欲しい」
そう僕はビタリに耳打ちした。
ビタリは時が止まったように体が硬直したように見えたけど、直ぐに深呼吸した。
「ふふっ。約束ね」
「はい。そんな事は言いませんので、必ず守ります」
「少し、休憩を挟もうか。ビタリは手当てしてもらって」
ビタリはもう一度、敬礼をして扉へ向かった。
……あんな事、年下に頼んじゃった……
嫌だな。こんなのが変わらないなんて……ずっと変わらないのも眠ってたから。アニカだってソフィーだって、年上になったのか……
僕が期待外れの剣士なんて……本当、間抜けだな……
あの黒いモヤの所で笑われてるかな……こんなだった人なんて……
また、失う……
「ロルフさん。顔色が……」
レーナが僕の事を心配そうに見つめていた。
「あ、少しこの後の事を考えちゃって……心配させてごめん」
「一人で抱え込まないで下さい。私も、ロルフさんと会った記憶は色あせて薄くなっているけど、お母様が『いつも責めてしまうと貴方のお父さんは悩んでいたのよ』と言ってくれたのです」
「マルコさんが……もう、言えないのか……」
「私は強くも無いし、魔法もそんなに使えないけれど、話を聞くことはできる。だから、できる事をやらせて」
……できる事……ちゃんとわかってるんじゃん。
僕にはできるかも分からないのに体当たりをしようとしている……
そっか……
僕はレーナの事を撫でながら「大丈夫。レーナはもっと守るべき人がいるんじゃない? 弟は心配じゃないの?」と言った。
「確かに、ビタリもロルフさんと同じタイプですね。二人ともですね。ふふふ」
え? どういう……
「とりあえず、回復と治癒魔法をかけときますから次も頑張ってください。ビタリも日々、精進していますから」
レーナはそう言って僕に手をかざしてから手を振ってビタリの通った扉に手をかけた。
りう。
39
#感動
こはる
917
上野文
6,439
#探偵
橘靖竜
5,392
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 第35話、読んだよ。 ロルフの「僕がその期待外れの剣士なのは秘密にして」って耳打ち、すごく胸にきた……自分を責める気持ちがにじみ出てて、切なかったな。 でもビタリが「必ず守ります」って約束してくれたところで、ちょっと救われた気がした。 レーナの「できる事をやらせて」も優しくて、ロルフが一人じゃないって伝わってきたよ。 続き、気になるな🌙