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少年死刑囚69

【第25話】日常に支障をきたす、殺人衝動

25

100

2022年02月26日

#ホラー#グロテスク#殺人

夕方の太陽の温かい光が反射して、オレンジ色に煌めく。

汗だくになりトンネルを抜け出た、

累(るい)とあとりの頭上に広がる奥多摩の空は、

いつの間にか陽が傾き始めていた。

「はぁ…はぁっ…。鷹巣(たかす)…大丈夫か?」

「え、ええっ…なんとか」

振り返りトンネルの奥深くに目を凝らす。

しかし、雲雀(ひばり)や鶫(つぐみ)の姿を見つけることは叶わなかった。

「あいつら…まだ、あそこにいるんだよな」

「ええ、彼は彼女の傍に残ったみたい…」

「けっきょく、ろくに話もできないままだったな…」

「…何か喋りたいことがあったの?」

「ああ、どうしてここに来たのか…。

この先、どうするのか?そんなことを話してみたかった…。

鷹巣は、そういうのなかった?」

「私も…聞きたいことがあった。

鶫さんにも、微笑み爆弾魔にも…」

(爆弾魔? どうして名前で呼ばないんだ?

それに雲雀のことを、どこか敵視しているみたいだったけど、

何か因縁があるのか?)

「…なに?」

「いや、なんでもない…。」

(あいつ等がいなくなったのはショックだし、

色んなことが気になる…。だけど…俺にはまだまだ、

やらないといけないことがあるんだ。

小雀 翔慈(こがら しょうじ)。あいつを見つけ出して、この手で!)

「怖い顔…。まるで、人を殺しそうな勢いね」

「…俺が?」

「この場所は狂ってるけど、キミはおかしくならないで…。

冷静でいるのは難しいことだと思うけど…」

「でも、俺は…アイツとケリをつけるために、ここへ…」

「分かってる。だけど、小雀は…もう、いないのかもしれない」

「それ、どういう意味だよ?お前、何か知ってるのか?」

「もう、ゴールしてるかも知れないし、死んでるかもってことよ」

「それは、そうだけど…」

(何か引っかかる…。

鷹巣は、雲雀が言ったように、隠し事をしているのか?

いや、鷹巣は俺のことを助けてくれた。だから、きっと敵じゃない…。

それに、前に進まなきゃ何も分からないままだ)

「キミはやっぱり強いね。私とは違う…」

「急にどうしたんだよ?」

「私がキミと走るのは、ここまで…。私のことはいいから、先に行って」

「おい、やっとトンネルを突破したんだぞ!

それなのになんだよ?もしかしてケガしたのか?」

「…違う。ここから動きたくないの。もう、これ以上進みたくないから」

「どういう意味だよ?変なこと言わずに俺と最後まで走ろう、鷹巣!」

あとりの手を引き、無理して笑う。

繋いだ手がやけに冷たく、

累はあとりが怯えていることを察した。

と――その時。

「やっぱりキミって、何か知ってるんでしょ?」

ジャンプスーツを血で染めた雲雀が音もなく姿を見せ、

血も凍るような冷めた眼差しを、あとりに浴びせた。

「雲雀、お前…生きてたのか?」

「うん、キミ達が走り去った後…団体さんが到着してね、

トラップが僕以外も狙い始めたんだ」

「団体…?」

雲雀が頷き、背後に視線を向ける。

すると、肩で息をする大勢の受刑者が、

足をもつれさせながら、トンネルから飛び出して来た。

「はは! やった、抜けたぞ!」

「し、死ぬかと思った。でも…作戦が成功して良かったね。」

「言ったろ?先に入った奴等を観察してりゃ、きっと助かるって!」

累たちに妨害を仕掛けて来た少年たち。

彼らは眩い笑顔を咲かせると、互いの肩を叩き合った。

まるで青春映画の主人公たちのように。

(こいつ等、俺達のことを見ていたのか?)

「攻略法さえ分かれば、あのトンネル…大したことないのかもね。

だって、ほら…僕も無傷だ」

嬉しそうに笑って、自分の無事をアピールする雲雀。

確かに、ジャンプスーツは血で汚れてはいるが、

身体には切り傷ひとつついていないように見えた。

「彼女の血ね…」

「うん、僕の花嫁。もっと一緒にいたかったんだけど…残念だよ」

(また元の爽やかキャラに戻ってるけど、こいつ本当に何者なんだ?)

「僕のこと知りたい?でも、もっと知りたいこと…あるでしょ?

そう、鷹巣さんが何者か」

雲雀は白い歯を見せて微笑むと、

鷹巣の顔をそっと覗き込んだ。

(雲雀は何が言いたいんだ?)

「鷹巣さん、キミってこのマラソンのこと詳しいんじゃない?

ほら…犯罪者だけでなく、この刑のことも知ってる感じだったからね」

(言われてみれば、やけに色んな情報を持ってたよな?)

か弱そうに見えるが、父親を撲殺した鶫。

爽やかだけど、政治家を爆殺した雲雀。

そのことを教えてくれたあとりの整った横顔を眺め、

累は、ずっと心に引っかかっていた言葉を思い返すのだった。


「にしてもさ、走るだけとか超ちょろくない?」

余裕の表情を見せて悪戯に微笑む鶫。

そんな彼女に、あとりは冷たい眼差しを向けていた。

「んな簡単なわけないじゃない。」


(鷹巣は知っていたんだ…。ここで、何が行われるかを)

「もう、隠し切れそうにないみたいね…」

「じゃ、話してくれる?」

じれったいといった様子で雲雀が急かす。

あとりは小さく息を吐くと、気だるげに口を開いた。

「…私の本当の罪状は、電子計算機損壊等業務妨害罪よ」

「電子計算機損壊?それってつまり、クラッキングをしていたってことか?」

「…そう。警察庁のサーバーに侵入して、

あるサイトに事件の情報をアップしていたの」

「まさか、キミって…」

予想以上に予想外。

雲雀の表情が珍しく驚きの色に包まれてゆく。

しかし、あとりの顔色は変わらない。

「“クソガキどもを抹殺するHP”の管理人。それが私…」

「鷹巣が…あのサイトの管理人?」

自分が少年銀行強盗になるきっかけを作ったサイトの作成者が、

目の前にいる少女だった。

その驚愕の事実を知った途端、

累の心臓の鼓動が早鐘のように鳴り始めた。

少年死刑囚69

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