テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ミリス
898
「……は? なんだこの画面は……」ある日の午後、烏丸神社の社務所で、蓮がPCの画面を前にして氷のように冷たい声を漏らした。
パソコンの画面全体が不気味な赤色に染まり、中央には大きな南京錠のマークと、絶望的な警告文が表示されている。
【あなたのファイルはすべて暗号化されました。復元したくば、48時間以内に暗号資産で100万円を支払え】
「蓮! 拙者の大好きな高級犬用おやつのお取り寄せデータも、貴様の裏帳簿も全部開かなくなっておるぞ! これは何事じゃ!?」
「ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)だ……。俺がコツコツ貯めた顧客データベースと、未公開の課金計画書を人質に取りやがった……」
蓮の目からは光が消え、静かな殺気が社務所に満ちていく。
画面の奥を凝視すると、モニターから無数の「鉄の鎖」で繋がれた巨大な「赤い南京錠」の形をした怪異がジジジ……と這い出ていた。それは、他人のデータや財産を人質に取り、金を巻き上げようとするサイバー犯罪者の強欲が生んだ怪異――『暗号の身代金(ランサム・ロック)』だ。
怪異からは、不快なカウントダウンの電子音が刻々と響いている。
『期限は残り47時間』 『警察に連絡しても無駄』
『支払わなければデータを永久削除』
「(他人のデータを勝手にロックして金を要求するだと……? ……笑わせるな、横領とカツアゲは俺の……いや、神主の領域だぞ!!)」
蓮がブチギレてタッチペンを握りしめたその時、境内に涙目の青年――地元の小さなWeb制作会社の社長・ケンジが飛び込んできた。
「烏丸さん、助けてください……っ! 会社のサーバーがランサムウェアに感染して、クライアントの納品データが全部暗号化されちゃったんです! 身代金を払う余裕なんてないし、このままだと会社が倒産して、僕の人生が終わっちゃいます……っ!」
ケンジのノートPCからも、全く同じ『暗号の身代金』の赤黒い鎖が伸び、彼の精神と会社データを締め上げていた。
「なるほどね。反社まがいのハッカーどもが、真面目な事業者から金を毟り取ろうってわけだ。悪党のマネ事をするなら、もっと上手くやれってんだよ」
蓮は懐から電卓を取り出し、ケンジの前にピシッと提示した。
「ケンジさん。お祓い代は、被害額と身代金相場を考えて、破格の35万円。その代わり、お前と俺のデータを人質に取ってるその『電子の泥棒』を、サーバーの根元から叩き潰してやる」
「お願いします……! 僕の会社を、クライアントとの信頼を救ってください……っ!」
ケンジが叫ぶと、ランサム・ロックの怪異が不気味な金属音を立てて暴れ出し、無数の「暗号化された鎖」を伸ばして蓮たちを縛り上げようと襲いかかってきた。
「コマ、他人のデータを人質にして金を要求する害虫どもを、回線ごと強制消毒(デリート)するぞ! 神力をよこせ!」
「おうともさ! 神聖なる烏丸神社のデータを人質に取るなど100年早いわ! 本物の神罰を叩き込んでやれァ!」
コマが怒りで激しく輝き、その聖なるエネルギーが蓮のタッチペンに一気に集約される。ペン先からは、複雑な暗号を瞬時に解読・破砕する「強制初期化」の青いプラズマが激しくパチパチと放たれた。
蓮は飛来する暗号の鎖を身軽なステップで叩き落とし、身代金要求プログラムを裏で操っている海外のC2サーバー(指令サーバー)のIPアドレス(コア)を瞬時に特定した。
「身代金を払うと思ったら大間違いだ。――暗号ごと粉砕されてろ」
蓮がタッチペンを、怪異のコアに向かって鋭く突き刺す。
「――暗号解読・ウイルス一斉駆除(ランサム・ブレイカー)!!」
ズガァァァン!!!
社務所に凄まじい電子的衝撃音が響き渡り、暗号の身代金の怪異は「復元キーが無効です」というエラー警告の悲鳴を上げながら、今度はシュレッダーにかけられた「ただのゼロと一のゴミデータ」へと姿を変え、空気中にサラサラと消滅した。
同時に、PC画面の赤い警告文は一瞬で消え去り、ケンジの会社のサーバー、そして烏丸神社のPCのファイルは、すべて感染前のクリーンな状態へと完全に復元された。
数日後、被害に遭ったデータはすべて無事に戻り、ケンジの会社は無事にクライアントへ納品を完了できたという。
夜。社務所で蓮はホクホク顔でお札を数えていた。
「いやー、セキュリティ対策兼ウイルス駆除で35万。やっぱりサイバーセキュリティビジネスは一番手堅いな」
「蓮……お前、自分の裏帳簿が消えそうだった時の顔、怪異より恐ろしかったぞ。まぁ、ケンジの会社も救われて、拙者の高級おやつデータも無事だったから良しとしよう」
コマが、復元されたデータから無事に注文できた最高級の犬用ジャーキーをモグモグと食べながら、満足げに鼻を鳴らす。
「データのバックアップと防犯は基本だからな。さぁ、明日からは『烏丸神社・サイバー攻撃&ランサムウェア緊急対策窓口』のバナーをホームページの真ん中に貼るぞ!」
拝金主義のクズ神主。彼の冷徹なタッチペンの前では、どんなに悪質なサイバー攻撃も、一瞬で消去されるただのバグデータに過ぎないようだった。
コメント
1件
第21話読み終えたよ〜!!もう冒頭の「は?なんだこの画面は」で既に笑ったんだけど、ランサムウェアを神主の領域とか言っちゃう蓮くんマジでクズ過ぎて好きすぎる😭💕笑 「身代金を払うと思ったら大間違いだ」からのランサムブレイカー、カッコよすぎて鳥肌立ったよ…!しかも駆除後しっかり35万取るの忘れないの最高に笑った(笑) ちゃんとおやつデータも守られてコマも満足しててほっこり。次回も気になる!😊