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既読は、
ついていない。
それなのに。
ジュンは、
何度も画面を確認していた。
通知が来ていないことを、
確認するためじゃない。
——まだ、
終わっていないと
思いたいだけ。
沈黙は、
拒絶じゃない。
そう、
自分で意味を与え始めている。
それが、
一番、
危ない。
夜の街。
ネオンは、
いつも通り派手で。
笑い声も、
酒の匂いも、
全部、
変わらない。
なのに。
自分だけが、
場違いみたいだった。
客の手を取り、
笑って、
褒めて。
「ジュンくん、最高」
いつもなら、
それで満たされる。
でも、
今日は違う。
——Rは、
笑っていない。
——返事も、
ない。
仕事が終わる。
時計を見る。
この時間なら、
まだ起きている。
——いや。
もう寝ているかもしれない。
そう思った瞬間、
胸がざわついた。
“俺の知らない時間”。
考えなくていいはずのことを、
考え始めている。
スマホを、
握る。
メッセージ画面。
未送信のまま、
消した文がいくつもある。
「さっきのこと」
「誤解だ」
「怒ってる?」
全部、
違う。
——そうじゃない。
ジュンは、
初めて気づく。
自分が欲しいのは、
返事じゃない。
確認だ。
まだ、
繋がっているかどうか。
まだ、
特別かどうか。
気づいた時には、
足が動いていた。
理屈は、
置き去り。
共犯者の契約も、
ルールも、
全部。
——少しだけなら。
——顔を見るだけなら。
Rの住む方向。
灯りの少ない通り。
人影は、
ほとんどない。
そこで、
立ち止まる。
さすがに、
やりすぎだと、
分かっている。
——大人だろ。
——何やってんだ。
頭の中で、
自分を叱る。
その時。
遠くから、
足音。
制服のシルエット。
見間違えるはずがない。
——R。
胸が、
一気に熱くなる。
声をかけたい。
でも、
怖い。
ここで拒絶されたら、
本当に終わる。
それでも。
一歩。
また一歩。
距離が、
縮まる。
Rは、
気づいていない。
イヤホンをして、
スマホを見ている。
——今なら。
「……R」
名前が、
喉から零れた。
Rが、
振り向く。
表情は、
驚いていない。
警戒も、
していない。
それが、
逆に刺さる。
「……どうしたの」
いつも通り。
一定の温度。
感情を、
一切、
預けてこない声。
ジュンは、
笑おうとして、
失敗する。
「いや」
「ちょっと、話したくて」
Rは、
一歩も下がらない。
逃げない。
でも、
近づかせもしない。
その距離が、
耐えられない。
「返事、なかったから」
言ってしまった。
自分でも、
驚くくらい、
弱い声。
Rの目が、
一瞬だけ、
揺れる。
でも、
すぐに戻る。
「それが、
返事だよ」
短い。
切り捨てるみたいに、
静か。
胸が、
ぎゅっと締まる。
——ああ。
これが、
拒絶。
なのに。
ジュンの中で、
別の声が囁く。
それでも、
追い返されなかった。
話してくれている。
完全には、
切られていない。
自分で、
自分を騙す。
「……なあ」
声が、
低くなる。
「俺」
「そこまで、
悪いことしたか?」
Rは、
しばらく黙っていた。
夜風が、
二人の間を抜ける。
「悪いとか、
そういう話じゃない」
Rは、
淡々と言う。
「私は、
境界を守ってるだけ」
「それを壊そうとする人とは、
関われない」
——壊そうとしてる?
——俺が?
ジュンの中で、
何かが、
音を立てて崩れる。
「……くっそ」
小さく、
呟く。
Rは、
もう答えない。
それ以上、
説明もしない。
「帰るね」
それだけ言って、
歩き出す。
追いかけるべきか。
呼び止めるべきか。
でも、
足が動かない。
Rの背中は、
まっすぐだった。
迷いが、
ない。
その背中を見ながら、
ジュンは、
初めて理解する。
——これは、
はじめて感じた気持ち。
——そう。
もう、 後戻りもできない。
夜の静けさが、
重く、
胸に落ちた。
——沈黙は、
まだ終わっていない。
——壊したのは、
俺だ。