テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「うぇっ…っぇ゛、…げほっ」
(しん、どっ…)
トイレの個室で私は便器を抱え込むようにして座り込んでいた。
朝に何も食べてこなかったからか、えずくだけで一向に気持ち悪さは消えてくれない。
それどころか心臓の音がガンガンと頭に響いて元から酷かった頭痛が悪化している。
どのくらいこうしているかはわからないが、休憩はもう終わっているはずだ。
早く戻らないといけないとわかっているのに目眩と震えで動けない。
夏だから暑いはずなのに、体の底から冷えていくように寒気が止まらない。
「げほっ……うっ……ぇ……。」
水を飲みたいがさすがにこの状態では立つことすらできないし、何より部屋に行ったらまたあの子達に何かを言われる気がする。
しんどくて、心細くて、勝手に涙が溢れてきてしまう。
「ぅ…‥ハァ、」
「―すず先輩?なつみです。休憩終わってるんですけど行けそうですか?」
急になつみちゃんの声が聞こえた。
はるさんに言われて様子を見に来たのだろうか?
「ケホッ…いま、いくから…先に、いってて・・・・」
「すず先輩が心配なので、一緒に行きます!」
そう言ってそこにいようとするなつみちゃんの気配がする。
「大、丈夫 だ、から。はやく‥」
「その涙声のどこが大丈夫なんですか!?」
声を震わせてそう問いかけてくる。
「はるか先輩には‥言ってあ…、保健‥開け・・・・・!」
【ズキズキッ】
(…っ頭、いた、い)
いつも励まされているこの声が今は頭に響いて聞くのが辛い。
声は聞こえるのに内容が頭に入ってこない。
「先輩の症状もしかしたら―!」
「ごめ…いっかい、だまって」
「え?」
すごく戸惑った声。
考える余裕がなくてきつい言葉で言ってしまったと自覚したときには遅かった。
「あたし、なにか嫌われてますか…?」
「―!ちが」
「あたしが、でしゃばったから、怒ってるん、ですか?」
強い言葉は人を傷つける。
そんなの身を持って知ってたのに
(私は、なつみちゃんに同じことを、して、しまった)
自分の心配をしてくれている子を、自分の都合で、自分の言葉で、傷つけてしまった
「――ヒュッ」
(あれ、息、できな…)
「あらら、来ないと思ったらやっぱりか。この頑張りやさんめ」
(はるさん!)
「カヒュ…はる、さヒュッハッ…ッハッゲホッ」
「喋らなくていいから、とりあえず息しよっか。僕に合わせて。はい吸ってー、吐いてー」
「ヒュ‥スゥ、ハァ…ケホッ‥カヒュッ」
「そう上手上手。続けて」
「ス−ッ、ハァーゲホッ、スゥー、ハァー」
「―ちょっと落ち着いたね。ごめんすず鍵開けれる?」
はるさんにそう聞かれ、息を整えながら鍵を開ける。
「ありがと。って顔真っ青じゃん。息はどう?できてる?」
返事をしようとしたが、声がかすれて出なかったため頷いて答える。
「そう。…なつみもすずを許してやって。多分そんなつもりで言ってないから」
「じゃあ、なんで―!」
「なつみ、落ち着いて。すず、いま頭痛い?」
(なんで、それを…?)
「そんなに驚いているってことは図星か。まぁこんなしんどそうで痛くなかったら逆にすごいけどね」
「えっと、はるか先輩?」
「なつみの声はよく通る。普段は聞き取りやすいからいいんだけど、すずの頭にはすごく響いていたんじゃないかな?」
「だから…」
はるさんの言葉になつみちゃんが驚いた顔をする。
「すず先輩、何も気づかずひどいこと言ってごめんなさい」
傷ついた様子でなつみちゃんが謝ってくる。
(なつみちゃんは何も悪くないのに―!)
「なつッ‥ゲホッケホッ」
「はいはい、無理して喋ろうとしない。泣くほどしんどかったんでしょ?今は何も考えずに休んでて」
はるさんが優しく話しかけてくる。
「二人とも悪くないよ。だからこの話はおしまい。―すず、立てそう?無理そうならお姫様抱っこだけど」
「はるか先輩…ふざけないでください」
「僕はいつでも真剣だよ?っておっと」
急に体に力が入らなくなり、はるさんの方へ倒れ込むとはるさんは優しく抱きとめてくれた。
「すず先輩!」
「力が抜けちゃったみたいだね。ようやく安心してくれたのかな?」
その言葉を最後に、私の意識は途切れた。
コメント
1件
うわっ…第5話、重かったです。すずさんの過呼吸と頭痛、本当に読んでて息苦しくなりました。はるさんの「僕に合わせて呼吸して」のシーン、すごく優しくて泣きそうになりました。なつみちゃんとのすれ違いも切なかったけど、お互い悪くないってわかってよかった。安心した瞬間に力が抜けて倒れる描写、リアルで胸がぎゅっとなりました。続き、気になります…。
#青春恋愛
瀬名 紫陽花
48,964
#黒歴史