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「…本当?」
そう問いかけるイザナさんの掠れた声には今までにないほど安心した様子が籠っている。
『……はい』
自分でもおかしな返答だという事は分かっている。
だけどじゃあなんで、なんて問いかけられても答えられない。私だってどうしてこんな気持ちになったかなんて分からないのだから。
ドシンと困惑という名の黒い塊がまた1つ心に溜まり込む。
「…ありがとう。ごめん。」
「○○大好き。」
イザナさんの掠れた声で呟かれた好きという言葉が空中を木霊しながら揺れ動くように耳に届く。いつも呪文のように囁かれていた言葉なのに今日だけ不自然なむず痒さを感じる。いつもと違う響きのような、そんな別の言葉に聞こえてしまう。
顔から火の出そうなほど顔に熱い熱が集まっている、心臓の音がさっきよりも大きく聞こえてくる。
なんでだ?と疑問を考えていると、ふとイザナさんに抱き着かれている、首元から腹にかけての広範囲が酷く冷たく、濡れているように感じた。
『…あっ!イザナさん風邪ひきますよ!』
つい慌てて叱る様な声を出してしまう。そのまま試しにイザナさんの体に手を当ててみる。案の定体は氷のように冷たく、風邪をひいてしまってもおかしくなかった。
「大丈夫、ついてこい」
『え?』
慌てふためく私の手を掴み、どこかへ歩みを進めるイザナさんにまたもや困惑の声がもれる。
この人はどうしてこうも予想外の行動をとるのだろうか。はぁと心の中で息を付き、されるがまま雨の湿った匂いが残る道を引きずられるようにして歩く。
しばらく歩くととある建物に着いた。あの車の運転手と同じような「アッチ系」の人オーラを放っている人と何かを話し込んでいるイザナさんを横目で見つめ、建物へと視線を戻す。
ビルのような、白い建物。テレビで見たことあるような建物に疑問の声を零す。
『…なにここ』
「ホテル」
ぽつりと何となく呟いた独り言をイザナさんに拾われ、独り言が塗り替えられていく。
『ほてる?』
問い返すようにイザナさんの言葉を繰り返し言う。なんだか聞いたことあるような気がするなぁ、なんてぼんやりと思いながらイザナさんに手を引かれるまま進む。どんどん流れる景色。目に映るものすべてが初めてで一つ一つじっくりと見つめる。
「ここ」
イザナさんのその言葉と共に電源スイッチを切られたように立ち止まる。目の前にはそれほど年季の入っていない茶色いおしゃれな扉。ドアノブを回すとカチッと錠の外れる音が廊下に響く。
石鹸に似た、清潔な香りが嗅覚を擽る。それと共に、この香りと同じように清潔できちんと整備されている綺麗な部屋の一部が目に映る。
初めての光景で、というのもあるが何よりも、あまりの綺麗さに無意識に自身の瞼が大きく見開いていく。眼球の表面がじーっと部屋の全体を見つめ続けている。
「風呂入ンぞー」
そんな私を無視して、イザナさんは短くそう告げあらかじめ置いてあったであろうカバンから服などを取り出し、風呂場の方へと歩いて行った。
そうだ、この人ずぶ濡れなんだった、と濡れる彼の背中が視界に映りそう思い出す。
『行ってらっしゃい』
私はもう少しこの部屋を探索しよう、そう思い方向を定めた瞬間
「あ?何言ってンだ」
ヒラヒラと振る手をイザナさんに捕まれる。きょとんとした顔で問いかけられ、こちらも困惑を絵に描いたような表情を浮かべ、次の言葉を待つ。
「一緒に入ンぞ、服脱げ」
『あれデジャブ感』