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「その指輪を贈られるということは、もしや……」
「み、みなまで言うな。源じい」
貴仁さんの耳がますます赤く染まり、心なしか狼狽をしているようにも窺えて、
「あの、この指輪って、お母さまの形見以外にも何かいわくがあるんですか?」
ただ黙って聞いてもいられなくなり、そう切り出した。
「いや、それは……」と、彼が言いにくそうに口ごもる。
すると、源治さんが、
「その指輪は、先々代の旦那さまだった貿易商のお祖父さまが、ロイヤルブルーを象徴する英国王室御用達の宝飾店で、直接に買い付けて来られたもので、指輪を受け継いだ貴仁さまのお父さまが、プロポーズの際に贈られたものです」
指輪の謂われを、そうおしなべて語った。
「……プロポーズ……? やっ……ぱり?」
と、思わず呟く──。
貰い受けた際にも、まさかという思いは少なからずあったけれど、いざその真意が知れると、その重大性をひしひしと感じないではいられなかった。
「……え、やっぱりと言ったか?」と、彼に聞き返される。
「……ええその、だってあの時、貴仁さんがとても真剣に見えたから、それで……」
話している内にも、プロポーズという単語がより現実味を帯びて、頬がじわじわと赤らんでくる。
「……そうか、すまない。指輪を君に……と、思いついたのはいいが、はっきりとはどうにも言いづらくて、な……」
指輪を贈ってくれる際に、『それはだな……、』と、彼が途中で言葉を濁していたわけが、今になってわかる。
「い、いえ、そんな……」
二人揃って赤面をしていると、
「……ということは、正式なプロポーズは、まだということでしょうか?」
源治さんが私たちを交互に見た後に、もどかしげに口を開いた。
「……。……まだだ」
応じた貴仁さんの顔が、いよいよ真っ赤になる。
「では、改めてにでも?」と、源治さんにここぞとばかりに問い詰められて、「ああ……」と、彼が短く頷くと、私へ顔を向けた。
「いずれは、きちんとするから、どうか待っていてもらえるだろうか」
真っ直ぐな眼差しで見つめられて、
これ以上は赤くなれないんじゃないかというくらいに頬を染め、「はい……」と、彼に答えた──。